1-26 契約




「もう、オンナノコに 乱暴ダメヨ! そんなのだから、モテナインダヨ!」

「今、俺がモテないのは関係無いだろが!! いや、モテないけど!!!」


 モテないという図星を突かれた俺は、今度は牙を掴んで激しく上下に揺さぶる。


「イヤ~! パティの牙も引っぱったらダメ~~!!」

「チュウ~!」


 すると、スポンッと象頭が取れて、俺の手に残り血の気が一気に引く。


「!!!!???」


 俺は両手に持っている象頭から、恐る恐る視線をこれがあった場所に移すと、そこにはここ数日見続けた綺麗な白金色の髪と白い肌、青い瞳の可愛いパティの頭が付いている。


 唯一違うとすれば、頭に小さな二本の白い角が生えているぐらいである。


「これ本当にキグルミだったのか!?」


「ソウダヨー。パパとママにパティが人間界に来る時に、『パティは可愛いから、そのままだと悪い男が言い寄ってくるから』と言って、これを被るようにイッタヨ」


「魔王とはいえ、親バカなんだな」


(でも、パティのお父さんお母さん。貴方達の可愛い娘さん。男の部屋にホイホイ付いて来ましたよ…)


「まあ、確かにパティは可愛いから、男は言い寄ってくるか…」


 パティは象頭を両手に持ったまま、『可愛い』と言われたことが嬉しかったのか、頬を赤らめて嬉しそうにしている。


「それで、さっき俺に『力』とか言っていたけど、どういう意味だ?」


「ソレソレ! トモヤがパティと<契約>すれば、『力』を与えてアゲルヨー! アノ

 アークデーモン ミタイニ!」


(おい! 今の言葉どういう意味だ!?)


 俺はまたうっかりそう言いかけたが、時間をこれ以上浪費したくないので、後で聞く事にしてその言葉を飲み込むと<契約>について話を進める。


「<契約>というのは、具体的にどういうモノなんだ?」

「トモヤ の ジュミョウ ハンブンとコウカンで『力』を アタエルヨー!」


「いや、結構です」


「じゃあ、トモヤがパティの『眷属』になるなら、『力』を アゲルヨ? コッチがオススメ ダヨー」


 パティは俺をチラチラ見ながら言ってくる。

 眷属になるということは、人間から魔族になることである。


 しかも、パティの従者として、死ぬまで仕えねばならず、こんな呑気なお気楽娘に一生使えるなど御免被りたい。


 何より、俺は人間として一生を終えたい。

 例えここで死ぬことになっても…


「いや、結構です」


「エーー!! じゃ じゃあ、トモヤは今までどおり ワタシ ヤシナウ。 パティ このセカイの<文化>を モットシル! ソノカワリ パティ トモヤに 『力』をカス! Win-Win(ウィン ウィン) ダヨ!」


(条件を一気に引き下げたな… 詐欺の手法にこんなの無かったか? あと、日本語がどんどん怪しくなってきているな…)


 俺は何か罠があるのではないと考える、なにせ相手は魔王の娘だ… 俺はそう思いパティを見ると手に象頭を持ったまま、いつもの呑気な感じの笑顔でこちらを見ている。


(あっ 大丈夫だ)


 そう思ったが、相手はアレでも魔王の娘なので、どのような魂胆があるかわからないと思うが、無いような気もする。


 だが、うまい話には裏があるというので、聞いておくことにした。


「どうして、そんな破格の条件で契約してくれるんだ?」


「それは、パティがまだこのセカイに居たいのと、トモヤがパティのシケンにゴウカクしたからダヨー」


「試験ってなんだ?」


 俺は試験という言葉が気になり、受けた覚えがないので内容を聞いてみる。


「ソレはネー。パティのエッチなオサソイに、トモヤがノッてこずに、パティをダイジにしてくれたコトダヨー! だから、トモヤ イイヒト。パティ トモヤ キニイッタヨー」


 パティは、両手に象頭を抱えたまま、嬉しそうにそう答える。


「あの夜のお誘いは、試験だったのか!?」

「ソウダヨー!」


「因みに誘いに乗っていたら、どうなっていたんだ?」


 怖いもの見たさ的な感覚で、聞いてみると返ってきた答えは予想通り酷かった。


「モチロン、ソク ゴロシダヨー!」


「自分から誘っておいて、その誘いに乗ってきら即殺しって、お前の試験の難易度極悪過ぎるだろう!」


 出来る限りの悪い顔で答えたパティは、俺のツッコミを無視して更に続ける。


「死体はムシカがオイシク イタダク ヨテイダッタヨー」

「ちゅうぅぅ!」


 ムシカも悪い声で鳴く。


(こわっ! 今朝までペレットを食べる愛らしい姿で、俺の荒んだ心を癒やしてくれていたあのムシカが、今は恐ろしい魔獣のように見える)


「トモヤ、さっきの契約スルノー?」

「ああ、頼む」


(先程の条件なら、俺に大したリスクはない。むしろ、今とあまり変わらん)


 俺はそう考えると、パティとの契約を結ぶことにする。


 すると、パティは右の角に手をかけるとボッキリと折って、俺の胸の前に差し出してくる。


「おい、大丈夫なのか!?」

「ダイジョウブダヨ。2~3年スレバ ハエテクルヨー」


 角を折ったパティに心配の言葉をかけると、彼女は平気そうな顔でそう答える。


(動物の角みたいなものか…?)


 俺がそう思っているとパティが真剣な表情になって、このような事を注意してくる。


「トモヤ、ウゴイタラ ダメヨ?」

「あっ ああ… 」


 流石に契約は真剣に慎重にしないとまずいらしい。


 パティは手に持った角に、何か呪文を唱えながら魔力を込めると、それを俺の胸に押し付けてくる。


 すると、パティの角は俺の体内にスーっと入ってくる。


「おっ おい! これ大丈夫な― 」


 痛みはないが驚きはあるので、俺がパティに質問しようとするとパティは目で<動かないで! 静かにして!>と威圧してきて、俺はその圧に負けてパティに身を任せる。


(パティは普段は見た目より幼いのに、偶にこのように大人びた感じになるな)


 体内に入った角からは、熱を持ち始め暖かさを感じるようになる。


「けいやくカンリョウ ダヨ。コレデ ツノをトオシテ ワタシノ 魔力がトモヤに ナガレルヨー。ツカイカタは レイリョクを ツカウノト オナジダヨー」


 俺は胸のホルスターから霊力銃を抜くと、試しに魔力を溜めてみる。


 すると、体内の角を中心に体に魔力が溢れ出して、あっというまに霊力銃に魔力が注ぎ込まれる。


「すっ 凄い! これが、パティの… 魔王の子供の魔力か… これなら、アークデーモンとも…」


 俺がその膨大な魔力に驚愕していると、パティはそんな浮かれる俺にこのような釘を刺してくる。


「ソンナのパティの力の数千分の1のチカラ ダヨー。デモ キヲツケテネ。トモヤ ノ ナンジャク ニンゲンボディ デハ パティ ノ マリョクヲ ちょうしにのって ツカウト たえきれずに バイバイヨー」


「つまり、アークデーモンと同じ魔力を出すと俺の体が耐えきれずに、消し飛ぶってことか!? それでは、意味ないじゃないか!!」


 俺がパティをそう問い詰めると、彼女は冷たい目でこう反論してくる。


「ダカラ パティ 『眷属』がオススメ イッタヨー。『眷属』ニナレバ 魔族ボディになって、魔力 ツカイタイ ホーダイ ダヨ」


 そして、表情を笑顔に一変させて、


「ダカラ イマカラでも パティの『眷属』 ナルヨー!」


『眷属』になることを勧めてくる。


 だが、人間を捨てて魔族になる気は無いので、何か方法を模索する。


「さて、どうしたものか… 最悪腕一本で…」


 俺が決意に満ちた目で、左腕を見ていると


「ワカッタヨー。トモヤ イタイイタイ ナラナイヨウニ コレ 貸してアゲルヨ」


 パティは仕方ないといった表情で、そう言うと右手を前に出して召喚を開始する。


「顕現セヨ、ピナーカ!」


 彼女の斜め上に魔法陣が現れ、その中から弓が出てきて、パティの目の前にゆっくりと下降してくる、パティはそれを片手で掴むと俺にその弓を差し出してくる。


 俺はその弓を受け取ると、それは予想以上に重く両手で持つことにする。


「コレは パパが コッチのセカイに クルトキに モタセテクレタ モノダヨ。コレに限界ギリギリで 魔力を ソソギ コメバ イイヨ」


 パティはこのように説明してくれるが、俺はそれ以前の疑問を抱く。


(そもそも、こんな重い弓を引けるのか?」


 そして、俺は試しに引いてみることにする。


 俺も八尺瓊家の人間なので一応弓の射方は習っていたので、弓の扱いにはそれなりに慣れているが、弦はびくともしない。


 そして、その様子をこうなることが解っていたのか、パティはニヤニヤしながら見ている。


「おい、パティ。これは、どういうことだ!?」


「トモヤ ノ ヨワヨワニンゲン ボディ デハ ヒケナイヨー。ダカラ、『眷属』にナッテ 魔族ボディ ナルヨー。ソウスレバ ズット カワイ ガッテ アゲルヨー」



 パティはモジモジしながら、そう言ってくるがやっていることは、無料の粗品で呼び出した客に高額の品物を売りつける行為に近いと俺は思った。



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