1-23  驚異 アークデーモン




(アークデーモンの魔力ビームが、施設での戦闘よりも細い… 魔力の制御に慣れてきているんだ)


 晴明はアークデーモンと三人の十二天将との戦いを、見ながら魔力ビームが細い事に気付き敵が魔力の制御に慣れてきていることを報告する。


 この事はアークデーモンが、以前のように魔力切れを起こすまでの時間が長くなった事、討伐までの戦闘が長くなる事、つまり犠牲者や被害が増えることを意味する。


「でぁあー!!」


 拡散式魔力ビームを放って隙だらけのアークデーモンの背後から、義勝はありったけの霊力を込めた刀をその太い首目掛けて横一線に斬撃を放つ。


「なにっ!?」


 だが、刀は首に数センチだけ刺さると、バキンと鋼の砕ける音をたて折れてしまう。


 そして、振り向いたアークデーモンは、距離を取ろうとする義勝に向けて、右手を向けると機械的に拡散式魔力ビームを放つ。


「クソッタレがぁーー!!」


 拡散する魔力ビームは、点ではなく面に広がるため回避することは難しく、全速力で逃げる義勝の身体中に何発も命中し、彼の体は見るも無残にあちこち引き裂かれ、最初の犠牲者にする。


「義勝!!!」


 残された二人は、戦死した戦友の名を叫ぶと仇を取るために、猛攻撃を開始する。


 二人は接近を許して拡散式を受ければ、自分達も義勝の二の舞になると考え、距離を取りながらアークデーモンへの攻撃を続ける。


 アークデーモンは魔力ビームを放つが、省エネで放っているため二人は何とか回避することが出来ていた。


 だが、遂に施設で見せた極太魔力ビームを二人に向けて放ってくるが、二人は智也と同じように全力で横に向かって走って逃げ、横にスライドして追跡してくる極太魔力ビームが尽きるまでひたすら道の側の木々の間を走り続け、何とか逃げ切ることに成功する。


 二人は反撃するために、忠広は右側から邦紀は左側から攻撃を仕掛ける。


 しかし、アークデーモンは両手をできるだけ広げると、両手から極太魔力ビームを同時に放つ。


 右手の魔力ビームは、邦紀の左側を左手のビームは忠広の右側に放たれ、その左右のビームは中央に向かってスライドされ、まるでハサミのように真ん中に向かって閉じられる。


 中央に挟まれた二人は、忠広は呪符で霊力障壁を張り、邦紀は上に跳躍する。


「私の霊力障壁では、防ぎ― ぐわあ!!」


 中央に到達する前に、極太魔力ビームの威力は減衰していたが、忠広の霊力障壁では防ぎきれずに障壁と共に消滅してしまう。


 邦紀は魔力ビームが減衰していたお陰で、跳躍で回避することができ、難を逃れるが時間の問題であった。


 彼は十二天将の名から、退却して態勢を整えることを選ばず、玉砕覚悟で弓攻撃を行い極太魔力ビームに挟まれるが、霊力を込めた矢をアークデーモンの頭部を狙って射続けるが、目の前の悪魔はその攻撃を受け続けても、一向に怯まず邦紀はビームに挟まれ名誉の戦死を遂げる。


 十二天将の三人は僅か10分で戦死する事になり、それをドローンの映像で見ていた指揮本部は大混乱になっていた。


「まさか、十二天将が三人共やられるなんて!?」

「しかも、こんな短期間で!?」


 屋上での練習を終えた尭姫が屋上から戻ってきて、その様子を見ると全てを察して、晴明に近づくとこう聞いてくる。


「どうやら、あの人達はやられたみたいね」

「うん。これは、厳しい戦いになるね… 僕達も出撃しないといけなくなるね…」


 晴明は厳しい表情でそう答えると、何かを思い出して尭姫にこう声を掛けてこの場を離れる。


「ちょと、失礼するよ」


 指揮本部を出て、廊下を少し歩いて非常階段近くまで歩くと、晴明は携帯を取り出して通話をはじめる。


 もちろん、通話の相手は智也である。


 運転中のために俺はハンズフリーヘッドセットで、晴明からの通話を受けるとアークデーモンが現在鈴賀峠にいること、十二天将がそこで三人共敗れたことを聞く。


「あと魔力制御が上手くなっているよ。魔力切れを狙うのは、厳しいかも知れないね。攻撃方法も魔力ビームを拡散させる新技を使うようになったよ」


「俺に点と線の魔力ビームを回避され続けたから、拡散による面制圧を覚えたみたいだな。まあ、今回は接近するつもりはないけどな」


 こちらも霊力ビームが使えるのだから、接近する必要はない。


「あと、魔力ビームで左右から挟み撃ちする戦法もとってくるよ」

「それは、少し厄介だな…」


 まあ、その戦法は場合によっては、こちらのチャンスにもなる。


「智也… 本当に戦うのかい?」

「ああ、みんなの仇を取らないといけないからな!」


 俺の決意とその理由を聞いた晴明は、暫く考え込んだ後に


「そうだね… だったら、僕も手伝うよ!」


 協力を申し出てくるが、俺はそれを次のような理由で断わる。


「いや、俺だけでやる。というか、霊力の少ない俺だけじゃないとヤツの霊力感知に捕捉されて奇襲できないからな」


「わかったよ。でも、手助けが必要なら、遠慮なく連絡してきて」

「ああ、わかった」


 俺はいざという時の晴明から援護の申し出を、素直に受け入れると通話を切る。


 このまま伊勢自動車道を北上すれば、後20分で到着すると思われ戦場に近づくにつれ、否応なしに緊張感が増してくる。


 瓶山市に近づくにつれ、対向車が増えてくる。

 おそらく避難して来た住民であろう。


(最後に尭姫や炯の声を聞くか……  いや、ダメだ! 決心が鈍る!! それに運転中に携帯を操作するのは危ないし!)


 俺は生への未練が起きないように、二人と会話することをやめる。


 暫く車を走らせていると、目の前で道路封鎖が行われており、警察官が高速の出口に誘導している。


「それは、そうか…」


 この先で戦闘が行われているのだから、通行止めにしているのは当然である。


 車をゆっくりと通行止めしている前まで進めると、警察官が近寄ってきて出口より高速から降りるように伝えてくるが、俺は先に進むために<新兵器開発部門特別試験係>の身分証を見せる。


 すると、警察官は何処かに問い合あせて、身分証を照会すると態度が急変して、低姿勢になって、通行を許可してくる。


(さすが月夜見宮様パワー)


 この国で二番目に偉い人直属の身分なので、丁寧に接してくるのだろう。


 その頃、峠の入口付近の防衛陣地では、十二天将の敗北により緊張感より悲壮感が勝っていた。


 そして、峠道にアークデーモンが姿を現すと、一斉に攻撃を開始する。

 だが、それは恐怖からの半狂乱に近く、秩序だった射撃ではない。


 三台の戦車からも砲撃が行われ、その度に轟音と煙が防御陣地を覆う。


 10式戦車は本来自動装填ではあるが、ここに配備されているモノは砲手が砲弾に霊力を込めるために手動式になっている。


 44口径120mm滑腔砲から発射された霊力を込められた砲弾は、目標目掛けて高速で飛翔するが、霊力感知で反応したアークデーモンは魔力ビームで迎撃するが、数が多いため霊力障壁展開に切り替え防御に徹する。


「撃てぇー! 撃てぇー!」


 アークデーモンに退魔官達の砲弾や銃弾による鉄の雨が降り注ぎ、その中に陰陽師の呪符による攻撃、弓使い達の霊力の込められた矢も一緒に襲いかかる。


 だが、猛攻撃のために外れた攻撃は地面に着弾して、砂煙をおこしてしまいアークデーモンの周囲はその砂煙や戦車の砲弾による黒鉛で覆われてしまい、その姿も戦果も確認できなくなってしまう。


 そして、その状況は智也が施設内で危惧していた状況でもあり、それが現実となる。


 着弾点より横にずれた煙の中から、突然放たれた魔力ビームによって、反応が遅れ回避行動が間に合わずなかった10式戦車が一台撃破されてしまう。


 残った戦車の戦車長は、すぐさまサーマルモニターで煙の中のアークデーモンの位置を確認して、砲撃を開始するがその判断は遅かった。


 何故なら、アークデーモンにとって、比較的脅威なのは戦車の砲弾だけであり、そのため他の攻撃に対して魔力障壁を張る必要はなく、戦車2台に向けて右手と左手から魔力ビームをそれぞれ放って、飛翔する砲弾ごと破壊すればいいからである。


 こうして、退魔官側はあっという間に、頼りの十二天将の三人と10式戦車を三台失うことになり、現場と指揮所は悲壮感と共に混乱に陥ってしまう。


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