1-22 出撃 十二天将
狙撃ポイントに向かうために警察署から出て来た炯達は、退魔官の誘導で避難する瓶山市の住民達を目撃する。
そして、二人は避難する人達と逆行するように、鈴賀峠方面に向かって歩き出す。
その頃、鈴賀峠前では、退魔官たちが土嚢やバリケードを設置して防衛陣地のようなものを構築して、退魔官達が土嚢の陰や建物の中に展開して、アークデーモンを待ち構えていた。
配備された10式戦車3両を峠に続く道の中央、左右に一台ずつ配備して、包囲砲撃を行い
∪の字に気付かれた防衛陣地から退魔官達が攻撃する手筈になっている。
「相手はアークデーモンなのに、10式が3両だけかよ…」
「なんでも、静岡の第1戦車大隊から急遽引き抜いてきたらしい」
「なんせ、1両約15億だからな。破壊されて時の事を考えて、大盤振る舞いできないのさ」
「俺達の命は45億以下かよ…」
「まあ、いないだけましか…」
「そんなことより、報告にあった魔力攻撃相手にこんな土嚢が役に立のかよ?」
「建物だって変わりはしないぜ」
このように退魔官達の士気は低く、それもそのはずで支配級魔族(アークデーモン)戦における戦力試算は、特級退魔師が数十人、退魔師の搭乗した戦車や戦艦を大量投入すれば勝てるとされており、明らかに戦力不足なためである。
だが、この三人だけは違っていた。
「お前達、三下はここで大人しく引き篭もっていな」
そう言った都牟刈義勝は、肩に鉈を大きくしたような武器を担いでいる。
魔物との実戦において、質量による攻撃は有効であり、戦車や戦艦の砲弾、銃も大口径であればあるほど、剣も大きければ大きいほど有効である。
そのため智也も炯も、大口径の銃を選択して使用している。
「心配しなくとも我々だけで、倒して見せますよ」
弥栄邦紀は少し大きめの和弓を片手に持ち、背中には矢筒を背負っている。
「さて、行きますか」
クールな感じで真経津忠広はそう言った彼の側には、大きな犬の式神が2体、空には鳥型の式神が2体控えている。
なお、同じ真経津姓の彩花とは従兄弟である。
十二天将の三人は、自信満々の余裕の態度で退魔官達に、言葉を言い捨てると鈴賀峠に向かって歩いて行く。
「そうだ! ここには十二天将が3人もいるんだ! 負けるはずがない!」
十二天将の存在に、退魔官達は希望を見出し、先程まで落ちていた士気も回復する。
偵察兵は安全を考えて、遠くから望遠鏡で偵察していたが、その交代に偵察用ドローンが投入され、上空から接近してアークデーモンの詳細な姿を捉える。
指揮本部のモニターに映されたアークデーモンの姿は、偵察兵からの報告どおり、頭から角が鬼のように二本生えていて、体長は約メートルほどで、肌は青く筋骨隆々の頑強な体躯をしており、目は黒目と白目に別れておらず赤一色でギラギラと光っている。
その姿を見た者達は、その異形の姿にざわついており、
「まるで、青鬼ね…」
尭姫はそう呟くと、厳しい表情でその場を離れて歩き出す。
「どこに行くんだい?」
「屋上に行って、ちょっと体を動かしてくるわ」
アークデーモンの姿を見た尭姫は、直感的に強敵と感じ戦いに備えて、準備運動と精神を研ぎ澄ませるために、屋上で刀を振って一人鍛錬することにしたのであった。
「コノクニハ コノセカイハ ワタシガ キュウサイ スル… 」
その頃、そのアークデーモンは人間の時の目的を呟きながら、その目的地である東を目指して、峠道をその巨体を揺らしながら歩いていた。
峠道と言っても舗装はされており、そのため歩きやすいのか、それとも人間の時の習性なのか、カーブの多い峠道を道なりに歩いている。
魔物は大抵の場合、人間の作った道など無視して、直線で進むものであるがアークデーモンは、律儀に峠の曲りくねる道を歩いており、そのおかげで退魔官達は防衛陣地を構築でき、住民の避難する時間も稼げている。
十二天将の三人が、20分ほど両サイドに木々が並ぶ狭い峠道を歩いていると、前方に禍々しい魔力を感じ取る。
「この禍々しい霊力… アークデーモンが近くにいるようですね」
「じゃあ、この辺りで待ち構えるか」
「そうだな。では、私は少し下がるとするか」
弓使いの弥栄邦紀は、二人から少し後ろに下がり距離を取ることにする。
「では、偵察を出しましょう」
真経津忠広は鳥型の式神に指示を出して、上空から前方に偵察に向かわせるが、暫くした時地上から上空に向けて魔力のビームが放たれ、その式神を撃ち落とされてしまう。
「ドローンは攻撃せずに、式神は攻撃したということは、霊力感知を展開しているということですね…」
「なら、仕掛ける前に霊力を込めるか」
近接武器を使う都牟刈義勝は、そうしなければ近寄る前にアークデーモンの魔力ビームで攻撃され、近づくのが厳しくなってしまい、その強力な近接攻撃ができなくなってしまう。
そうこうしているうちに、アークデーモンを追跡しているドローンの一台が近づいてきて、更に耳に装着した骨伝イヤホンから、アークデーモンの接近を知らせる通信が入る。
「では、いつもどおりに私と邦紀の援護で隙を作り、その隙を突いて義勝が近接戦を加えるで、行きますよ」
「おう!」
「了解!」
三人は武器を構えて、配置につくとアークデーモンの接近を待ち構える。
そして、前方のカーブからアークデーモンが姿を見せた時、忠広は新たに生み出した式神と併せて四体の式神に攻撃を命じて、邦紀も霊力を込めた矢をアークデーモン目掛けて放つ。
矢は正面から、式神は左右の上空と地面の四方向から迫る。
アークデーモンは右手を前に出すと魔力ビームを発して、まず飛んでくる霊力の矢を消滅させると、次に左手を前に出して左の空を飛ぶ式神を消滅させると、続けて右の手から次発の魔力ビームを出して、右の空から迫る鳥型式神を消し去る。
更に左手からの魔力ビームで、左から迫る犬型式神を消し飛ばすが、右から迫る犬型式神に接近を許し跳躍した犬型に首元を噛まれるが、その噛みつきは全く効いておらず、アークデーモンはその太い左腕で犬を掴み引き剥がすと右腕で刺し貫いて滅却させる。
だが、その時
「貰ったぁ!!!」
背後から義勝が、霊力を込めた大きな鉈のような剣を、アークデーモンの左肩に叩き込むが、その刃はズブズブと左肩から左胸の上辺りまで切り裂くが、そこで止まってしまう。
義勝は次の攻撃をするために、刺さった剣を抜こうとするが、アークデーモンがその剣を左手で握っているために、抜くこともそのまま斬る事もできず、宙に浮いた状態の彼は仕方がなく剣から手を離して、後方に着地するとアークデーモンも振り向いて対面することになる。
アークデーモンは、刃の部分を握っていた左手で肩に刺さった大きな鉈を引き抜くと、そのまま強靭な握力で刃の部分を握りつぶして義勝の武器を破壊する。
「俺の武器を… クソが!」
義勝は大事な武器を破壊され、アークデーモンに対して怒りを顕にすると、腰に差している刀を引き抜いて構える。
すると、アークデーモンの後ろから、忠広が慌てて呼び出した式神4体が襲う。
更に彼は、陰陽術の五行の一つである木行の呪符を手に3枚持つと、霊力を込めて呪符を発動させる。
「呪符よ、雷となって我が前に敵を討て! 急急如律令!」
彼が呪文を唱えて、腕を伸ばして呪符を自分の前に出すと、目の前に五芒星が現れそこから雷が発生して、眩しい光を発しながらアークデーモン目掛けて宙を駆ける。
「霊矢・雷!」
邦紀は同じく木行の呪符に霊力を込めて、霊力を込めた矢に刺すとそれを弓に番えてアークデーモン目掛けて射ると、矢を放ったと同時に呪符は矢に雷の力を宿して消滅する。
雷と霊力の両方の力を宿した矢は、アークデーモンを目指して一直線に飛んで行き、霊力感知で迫る攻撃に気付いたアークデーモンが丁度振り向いたその顔面に、雷の術は胴体に見事に命中する。
だが、アークデーモンはかすり傷程度しかダメージを負っておらず、両手を前に出すと両方の手から拡散式の魔力ビームを発射して、広範囲に拡散するビームを回避できずに式神は全て撃破されてしまう。
だだ、拡散式のため飛距離は短く、忠広と邦紀の両名までは届かず難を逃れる。
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