1-19  少女達と買い物




「というわけで、パティは可愛そうな異国の少女で、しばらくこの国の文化を楽しむ間、部屋に泊めてやっているんだ。ちゃんと、月読宮様から特別滞在許可書も頂いているから、外に出かけても問題ないだ」


「モンダイナイヨー!」


 俺が炯に説明を終えるとパティは首から下げた<特別滞在許可書>を、炯に嬉しさと誇らしさを兼ねた顔で見せる。


 説明を聞いて炯は神妙な表情で俺に近づくと、小声で話しかけてくる。


「兄さんがパティさんの事で知っているのは、名前とベジタリアンという事だけで姓名も出身も年齢も知らない… もっと、ちゃんと話を聞くべきです…」


「名字がないというのは、外国の田舎だとそういう事もあるんじゃないか? 年齢と出身は、パティの日本語がもう少し上手くなったら、そのうち聞くつもりだったんだ」


「せめて年齢だけでも今聞いて、兄さんが犯罪者になるか確かめましょう…」


「炯ちゃんは、あくまでお兄ちゃんを犯罪者にしたいの!? ちゃんと、月読宮様からも許可を頂いているから!」


 炯は終始感情の乏しい低い声で淡々と話すと、パティに年齢確認を行う。


「パティさんは、年齢はいくつですか…?」


「エ~ト パティ ハ~ ……」


 パティは目線を上に向けて考え始める。


 その理由は自分の年齢がわからないのか、正直に話したくないのかは解らないが、暫く考えたあとにこう答える。


「キット ジュウロク ダヨ」


 普段の行動から正直もう少し幼いかもと思っていたが、幼いのは精神だけらしい。


「炯と同じか…」


 俺は同い年の炯を見ると彼女はジト目で携帯の番号を押している。

 しかし、今回はボタンを押す回数が多いため、警察への通報ではないらしく一瞬安堵する。


「って、どこに電話しているの!?」


「尭姫さんにです…。兄さんが16歳の異国の少女を部屋に連れ込んだと連絡します。法が兄さんを裁かないなら私刑です…」


「やめてよ! 炯ちゃんは、どうしても女の子を連れ込んだお兄ちゃんを罰したいの!?」


 俺が困った表情で炯にそう訴えると、それを見ていたパティが俺の心情を察したのか援護してくれる。


「ケイ トモヤ イジメタラ ダメダヨ! トモヤ パティ ニ ”マダ” ナニモ シテナイヨ!」


「まだ……」

「これからも何もしないから!!」


 鞄から携帯を取り出そうとする炯を止めようとするが、彼女は携帯を取り出そうとしながらこう言ってくる。


「パティさんに、あんな格好をさせている人をどう信じろというのですか?」


 俺のシャツとトランクス(新品)を着用しただけのパティは、白い太腿を曝け出しており確かに少し魅惑的である。


 だが、これはパティが何故かズボンを履きたがらないためであり、決して俺の趣味ではないが、炯は俺が指示してそうさせていると思っているようだ。


「違うから! パティがズボンを嫌って履かないだけだから!」

「パティさん、本当ですか?」


「トモヤ ノ ズボン シメツケ ラレル カンジガシテ キライダヨ。モット ユッタリ シタヤツガ イイヨ」


 どうやらパティは、もっとゆったりしたズボンが好みらしい。


「炯、パティの服を選ぶときは、その辺も考慮に入れてくれ」


 俺がそう頼むと炯は、鞄から携帯を取り出して誰かに電話を掛ける。


「今度は誰に電話するつもりなの!?」


「違います… 私の服装を見てください。私が他人に服を選べるほどのセンスがあると思いますか? なので、助っ人を呼びます。私よりは、服のセンスがあると思います」


 炯の服装は、頭に黒キャップ肩までの黒い髪は邪魔にならないように常に後ろで束ね、服装は色々仕込めるジャケットにTシャツ、下は動きやすいズボンか半ズボンにタイツ、靴は脱げにくいハイカットを履いている。


 これはおしゃれより、いつ魔物と遭遇しても戦える常在戦場を心がけた、合理的な炯らしい服装であり、俺もこれに近い服装を着用している。


「彩花ですか? 炯です。これから、向かいに行くので、準備しておいてください。近くに着いたらまた連絡します。では…」


 炯は電話の向こうの彩花なる人物に、一方的に目的を伝えると通話を切る。


「炯… いくらなんでも、一方的過ぎないか?」

「大丈夫です。彩花も今日は休日で、宿舎で暇を持て余しているので…」


「それなら、いいんだが…」


 俺は近くのレンタカーで車を借りてくると、炯に外出するのでズボンを履くように促された不満顔のパティと炯がマンションの前で待っており、二人を乗せて駐屯地を目指す。


 今回ムシカは家のケージでお留守番である。


 駐屯地に近づくと炯が彩花ちゃんに、駐屯地前で待つように電話を掛ける。


 駐屯地前まで来ると道路の前に、小柄の黒髪おかっぱボブ、服装は大人しめのロングスカートの可愛らしい少女が立っており、車を路肩に停めると車を降りた炯がその娘に近づいて行って、車まで連れて来て一緒に後部座席に座る。


 ショッピングモールに向かう道中の車内で、炯は彩花ちゃんを紹介してくれる。


「彼女は真経津彩花(まふつあやか)、八咫家の分家である真経津家の人間で、私の退魔学校の同級生でバディでもあります」


 スナイパーである炯には、スポッター兼接近された時の護衛役のバディが必要であり、それが符呪術で結界や障壁を張って守ることが出来る彩花ちゃんである。


 彼女は気弱な彼女と無口で物静かな炯は、同じ大人しい者同士気が合ったのか退魔師学校からの親友でもある。


「真経津彩花です… よろしくおねがいします…」

「パティ ダヨ! ヨロシクダヨー!」


 彩花はその気弱そうな見た目通り、消え去りそうな声で恥ずかしそうに自己紹介すると、対称的にパティは元気よく自己紹介をする。


「八尺瓊智也です、よろしく。今日はわざわざ来て貰ってごめんね。迷惑ではなかったかな?」


「あっ… いえ… 特に用は無かったので…」


 インドア派の彩花は、休日は外に出ることもなく本を読んで過ごす事が多いため、用はないといえば無いことになる。


「ちなみに、彩花は晴明さんの許嫁なのです」

「何!? 君が晴明の言っていた許嫁か!?」


 俺は以前<リア充>晴明から聞いていた許嫁が、偶然か何かの導きかは分からないが目の前に現れた事に、少し興奮気味で彼女に問いただす。


 すると、彼女は俺の勢いに怯えたのか、少し困った表情で黙り込んでしまったので、それ以上聞くわけにもいかず会話を中断させる。


(気まずい…)


 無口な妹と人見知りの彩花ちゃん、女の子との会話に慣れていない俺では、会話が続くわけもなく車内はすっかり気まずい空気が支配していた。


(こういう時こそ、元気なパティの出番だろ!)


 俺は隣の助手席に座るパティをチラチラ見て、(何か会話しろ!)と念を送るが、


「アノ タテモノ ナニ!? アノ タベモノ オイシソウ!」


 彼女が発する言葉は、このように車外の目新しい風景への好奇心の言葉で、車内の人間関係には興味がないようである。


(果たして、こんな関係で上手く買い物出来るのか?)


 俺の心配を他所に三人はパティの買い物を、意外とキャッキャと盛り上がりながら、楽しそうにおこなって無事に済ませる。


 無事でなかったのは、俺の財布の中身であった…


(女の子の服って、予想以上に高いんだな…)


 買い物の後に、俺は3人とフードコートでハンバーガーを食べていた。


「彩花ちゃん、ごめんね。今日付き合ってくれたお礼に、もう少し豪華なモノを奢りたかったんだけど、服があんなに高いとは思わなくて… 今、持ち合わせがなくて…」


「いえ… お気になさらずに…」


 彩花ちゃんは、遠慮がちにそう言ってポテトを一つずつ食べている。


 そのお淑やかな彩花ちゃんとは、これまた対称的にパティはバーガーを元気よく頬張っており、その大豆ミートバーガーを気にいったのか、もう既に3個も平らげている。


「コノ ダイズニク バーガー オイシイヨー! モット ホシイヨ!」 

「お前は、もう少し遠慮しろ!」


 四個目をご所望のパティを窘める。


 フライドポテトは牛脂が使われていて、食べられないからこのバーガーばかり食べるのは仕方が無いと言えば仕方がないのだが…


 今は俺の寂しい財布の中身を、考慮してそれぐらいにしていて欲しい。


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