1-17 霊力擲弾銃
智也が月読宮と駐屯地に向かっていた頃、施設跡では遺体回収と並行で遅すぎる魔力探知によるアークデーモン捜索が行われていた。
今まで行われなかった理由は単純で、発見された時に対応できる戦力が無かったからであったが、周辺の駐屯地から200人の人員が動員され、更に東京から十二神将の三人が派遣されこの地に来ており、ようやく探査が始まったのである。
その十二神将の三人は、崩壊した施設の瓦礫撤去とそれに伴う殉職した退魔官の遺体回収作業を、近くに設置された仮設の詰め所の窓から眺めていた。
「200人いるとは言え、そのうちの半分は霊力の低い例の銃器科だろう? 大丈夫なのか?」
草薙家の分家である都牟刈(つむがり)家の都牟刈義勝(つむがりよしかつ)が、放漫な態度でそう言い放つ。
「我が退魔庁の退魔官も質が落ちたものだ」
深い溜め息を吐いてからそう言ったのは、八尺瓊家の分家の真経津(まふつ)家の真経津忠広(まふつただひろ)。
「まあ、我々12神将が3人いれば問題ないでしょう」
八咫家の分家である弥栄(いやさか)家の弥栄邦紀(いやさかくにのり)は、自信満々にそう口にする。
三人に共通する事は、十二神将である自分達を特別視して、その他の退魔官を見下していることである。
「どう? …って、アークデーモンが今もこの辺りに居る訳ないわね…」
尭姫は刀の柄に手を当てながら、魔力探知をおこなっている晴明にそう尋ねるが、直ぐに自己回答して退屈そうにその辺りをぶらつく。
「そうだね… 事件当日か翌日にここから遠くに逃げて、回復するまで潜伏していると思うよ」
アークデーモンがこの場から離れ山の中に潜伏して、消耗した魔力と傷ついた体の回復を大人しく待っているという考えは、晴明が当初から推察していた事であり、恐らく正解である。
「どれくらいで、回復すると思う?」
「そうだね… アークデーモンの魔力総量がどれくらいかわからないけど、最低でもあと4~5日後には姿を現すと思うよ」
晴明が自信のある表情で、そう答えると尭姫はその自信の理由を尋ねる。
「どうして?」
「忘れたのかい? アークデーモンになった教主の目的は、5日後から始まるサミットを襲うことだからだよ。まあ、人間だった頃の目的を覚えていたらの話だけど…。もし、忘れていたら、いつになるかは分からないね」
尭姫は腰に差した刀の柄に手を置きながら、厳しい表情で晴明の話を聞いている。
そして、少し間を開けてからこのような事を聞き始める。
「話は変わるけど、晴明くんはあの三人どう思う?」
「どう思うとは、どういう意味かな?」
この質問に対して、晴明は彼女の質問の意図を問い直す。
「あの三人で大丈夫かってこと。私が見る限りアークデーモンに勝てるのか、疑問なんだけど」
「仮にも十二神将に選ばれた人達だから、実力は高いから大丈夫だとは思うよ。尭姫ちゃんから見れば、そう思うのかも知れないけど…」
「二人きりなんだから、謙遜も遠慮もいらないわよ。晴明くんだって、本当はそう思っているんでしょう?」
「僕と二人きりじゃなくて、智也となら良かったのにね」
「なっ!? 急に何を言い出すのよ!? べっ 別に智也となんて、二人っきりになんてなりたくないんだから!」
予想していなかった晴明の突然の智也の話題に、不意打ちを受けた尭姫は動揺してツンデレ反論してしまう。
(どこで、誰に聞かれているか解らないからね。余計ないざこざは避けたいから…)
このような理由から、晴明は三人の事への自分の感想を明言したくなかったので、話題を逸らすために尭姫に智也の事を振って有耶無耶にしてしまう。
「智也のことなんて、何とも思ってないんだからね!」
照れながらそっぽを向いて、そう言っている尭姫を見ながら、
(尭姫ちゃん、智也の話題を振ってごめんね。あと、智也があの異国の少女を匿っている事を黙っていることも…)
晴明は心の中で、二重の意味で謝罪していた。
一方その頃、智也は月読宮達と共に駐屯地にある射撃場に来ていた。
射撃場に設置している台の上に、お付きの黒服の女性が武器ケースを置くと、月読宮様はケースを開けて新兵器を取り出して俺に見せてくる。
「これは、私が開発した新兵器<霊力擲弾銃>です」
その銃は、見た目はH&K HK69に似た中折式のグレネードランチャーで、口径は50mm程で、砲身は約450mm、全長は約550mm、銃床を伸ばせば730 mmになる。
持ち運びのために、砲身の根本から上方向に折れるようになっており、色は青色をしている。
「では、智也。使い方を見ていてください」
月読宮様は、台の上でまず砲身を下ろして銃床を伸ばすと次に銃床を伸ばすと、トリガーの少し先の方にあるヒンジを下方向に中折れさせ尾栓を開く。
「次にこの弾に霊力を込めます」
そして、武器ケースに入っている3つの50mmの薬莢のうち、一つを手に取ると霊力を込め始め、少し経つと薬莢の後部の中央の凹みが、カッチという音と共に飛び出してくる。
「薬莢の中が霊力で満タンになると、その圧力でこのように後部の凹みが飛び出してきます。そうすれば充填完了です。そして、最後にこの弾を薬室に込め尾栓を閉じます」
薬室に弾を込めるとヒンジから前を持ち上げ、中折れを元に戻して尾栓を閉じ弾薬装填を完了させる。
「そして、後は目標目掛けて撃つだけです。撃ってみてください」
月読宮様はそう言って、両手に持った霊力擲弾銃を俺に手渡してくる。
「思ったより、軽い…」
霊力擲弾銃は、参考元になったグレネードランチャーよりも遥かに軽く、俺が驚いていると月読宮様は俺の不安を払拭する説明をしてくれる。
「この霊力擲弾銃の本体と薬莢は、貴重な金属である青生生魂(アポイタカラ)で、作ってあります。アポイタカラは、とても硬くとても軽い性質を持っており、そのように軽いのです。だから、発射しても暴発などしないので、安心して撃ってください」
月読宮様の説明のお陰で不安は取り払われたが、新たな不安が生まれてしまい、俺はその不安も無くなるか聞いてみる。
「アポイタカラって…、その… お高いですよね…?」
「はい、もし盗まれたら、智也は一生タダ働きですね」
そう冗談めかして答えた月読宮様は相変わらず素敵な笑顔であったが、今回だけはその笑顔に見惚れる心の余裕は俺にはなかった。
(まあ、悩んでいても仕方がない)
俺はそう考えると試射してみることにする。
威力次第では、この兵器は対アークデーモン戦において、有効な兵器になるかもしれないからだ。
「智也、ターゲットはあの廃車です」
「あの廃車ですか!?」
(車が試射の的なんて、こいつはそんなに威力があるのか!? コイツは期待以上のモノかも知れない)
期待に胸を膨らませながら、衝撃に備えるために足を開いて銃床を肩に当てて構えると、砲身の先端に付いている照準器で的である廃車に狙いを定める。
「擲弾銃と名付けてはいますが、放物線ではなく直線で飛ぶので、そう狙いをつけてください。あと引鉄を引いた後、発射まで少しラグがあるので、それも気をつけてください」
「わかりました」
俺は上向きの砲身を水平に戻して、いつものように真っ直ぐ狙いを定めるとゆっくりと引鉄を引く。
引鉄を引いて体感で3~5秒経った時、50口径から強力な霊力が発射され、擲弾銃の銃口というより砲口からでた霊力は、そこからさらに広がって倍の太さのまるでビームのようになるとそのまま眩い光を発しながら、廃車まで一直線に伸びていく。
そして、廃車に命中させ続けると爆発して、見事に跡形もなく消滅させる。
「月読宮様、凄い威力ですね… 十二神将の陰陽術と同じかそれ以上の威力があるんじゃないですか?」
威力を見た天音が、驚きながら月読宮に尋ねると彼女は表情を曇らせながらこう答える。
「霊力の低い者でも、強い攻撃ができるようにするのが、私の計画の目的ですからね。ただ、アポイタカラは貴重な金属なので、量産は無理ですが…」
その威力を見せつけた霊力擲弾銃ではあるが、実は問題を抱えている。
その一つは、その威力故に強力な霊力に耐えられる頑丈な金属アポイタカラが必要であるが、希少であり量産はほぼ無理である。
もう一つは薬莢に込める膨大な霊力であり、莫大な霊力を持つ月読宮が簡単に込めて見せたから容易に思えるが、一般的な霊力保持者なら薬莢を満たすのに約2~3日程かかり、智也くらいの霊力なら3~5日程かかるであろう。
霊力の高いものに頼めば、もう少し早く済むであろうが、自分達の立場を脅かす存在に手を貸すわけがない。
「凄い…… これなら、ヤツの魔力ビームに十分対抗できる」
俺は霊力擲弾銃に光明を見出すが、薬莢に込める時間を聞いた時、俺が希望から絶望に突き落とされたのは言うまでもない。
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