1-16 写真
「あの… 月読宮様… <ツンデレ><ググる>とは、どういう意味でしょうか?」
駐屯地までの車の中で、天音は月読宮様に困り顔で質問する。
彼女は、この博識で最新機種を扱う時代の先端を歩く敬愛する主人なら、この言葉の意味を知っていると考え、教えを乞うことにしたのであった。
だが、その月読宮からは、端的にこのような言葉が返ってくる。
「天音、<ヤフり>なさい」
「<ヤフり>!?」
天音は、更に増えてしまった謎の言葉に困惑してしまい、それを見た月読宮は
「携帯電話で、ネット検索してみなさい」
と、助け舟を出す。
「私の携帯は、コレなので…」
だが、彼女はガラケーを見せてくる。
天音は今迄の人生の大半を田舎の道場での剣術修行に捧げており、最近の機械や話題には疎い。
しかし、そのおかげで十二天将に選ばれ、剰え月読宮の護衛役に選ばれるという名誉を授かることができ、彼女の名声は大きく上がることになる。
「天音、アナタ… いつまで、天成(平成)時代を生きているのですか? 今は<万和>ですよ?」
「はぅ!? ガラケーを使っているだけで、そんな言い方… ヒドイです…」
彼女は半泣きでガラケーをパカパカさせながら非難する。
「確かに、少し言いすぎましたね… 天音、ごめんなさいね」
「いえ、私も月読宮様に失礼なことを言ってしまいました。すみません… 」
月読宮が言い過ぎたことを素直に謝罪すると、天音も失礼な発言を謝罪する。
「ですが、天音。いくら、機械が苦手とはいえ、時代に乗り遅れないように、新しい機械にも触れないとダメですよ? そうだ、今度スマホを買いに行きましょう」
「せっかくですが、私はこの子でいいです。長年使っているので、愛着がありますから」
天音はガラケーを頬にあて、スリスリしながら笑顔でそう言った。
「じゃあ、ご飯を作るか。腹ペコパティ、大盛りにしようか?」
「フツウ デ イイヨ。アト パティ ハラペコキャラ ジャナイヨ!」
さっきまで、散々お腹減ったと駄々をこねて催促していたのに、急にそうではないと言いだしたパティに、
(パティといい炯といい、年頃の女の子の気持ちはわからん…。まあ、炯は表情が乏しいだけだが…)
と、俺は思春期の女の子を持ったお父さんみたいな感想を持ってしまう。
(尭姫は、もう少し分かり易かったけどな…)
尭姫がパティと同い年くらいの頃は、もう少し気持ちを読み取りやすかった事を思い出す。
それとも彼女が、分かり易くしてくれていたのかは解らないが…
パティはダイエットの為か肉を食べたがらず、昨日のコンビニ弁当もハンバーグを食べなかった。
「成長期なんだから、タンパク質は摂らないと成長しないぞ」
と言ったら、
「パティ ベジタリアン ダカラ… 」
「ベジタリアンなのか… でも、栄養を考えてたまには食べたほうがいいと思うぞ」
「アト ウシ ト ブタ ハ ゼッタイ ダメ! オネガイダヨ!」
パティは少し涙目で、そう訴えてくる。
その様子から嫌いというより、牛肉と豚肉はNGといった感じであり、
(アレルギーなのかな?)
俺は本人に確認はしなかったがそう考えて、今回は鶏肉の野菜炒めを作ると食卓机に出す。
「いただきます」
「イタダキマース!」
俺は箸、箸が上手く使えないパティは、先割れスプーンを持ってご飯を食べ始める。
「固いな… それにパサパサしている… それに、味付けも悪いな…」
料理レシピサイトを見ながら作っては見たが、普段から料理をしてこなかった為に、やはり上手く作ることができなかった。
「デモ トモヤガ ツクテクレタカラ パティ タベルヨ」
パティはそう言って、鶏肉抜きで野菜炒めを食べている。
「さて、片付けるか」
「ワタシモ テツダウヨ」
ご飯を食べ終わった後、二人で食器を洗うと俺は月読宮様に電話を掛ける。
「はい。もしもし、月読宮です」
「もっ もしもし… 八尺瓊智也です」
俺は緊張しながら、携帯に話しかけると落ち着いた女性の声が聞こえてくる。
「もうこちらに来られるのですか?」
「はい」
「では、これから向かいを寄越します。あと、パティの顔写真を携帯電話で撮ってきてください」
「はい、わかりました。では、失礼します」
俺は電話を切ると食器を洗って、既にテレビの前に陣取るパティに話しかける。
「パティ。月読宮様がパティの顔写真が欲しいとおっしゃてるから、携帯で撮らせてくれ」
「シャ シン…?」
不思議顔のパティに写真の説明をしてから、携帯で顔写真を撮る。
そして、パティに携帯の画面を見せて、先程撮った写真を見せると彼女は
「スゴイヨ! パティ ガ ガメン ノ ナカニ イルヨ!」
目をキラキラ輝かせて、文明の利器に感動している。
「ベツノ シャシン モ ミセテヨ!」
写真に興味津々のパティに、俺は画面をスワイプさせ別の写真を見せることにする。
まず画面に表示されたのは、尭姫と二人で撮った卒業記念写真で、パティが少し不機嫌そうに尋ねてくる。
「トモヤ! コノ オンナ ダレ?」
「ああ、これは幼馴染の草薙尭姫だよ」
次に画面をスワイプさせると、そこには炯との写真が映し出され、パティが再び少し不機嫌そうに尋ねてくる。
「トモヤ! コノ オンナ ダレ?」
「これは妹の八尺瓊炯だよ。明日、パティの服を一緒に買いに行ってくれるから、その時に紹介するよ」
「トモヤ!! コノ オンナ ダレ?!」
次の写真の人物を見たパティは、一番不機嫌になって尋ねてくる。
「これは、親友の八咫晴明だよ。コイツは、残念ながら男だ…」
俺は心底がっかりした表情でそう答える。
そして、次の写真が画面に映し出された時、俺は厳しい表情になってしまう。
「コノ ヒトタチハ?」
「こいつらは、級友であり戦友”だった”ヤツらだ… 」
俺が画面を悄然と見つめながら、低い声でそう答えると画面を待ち受けに戻す。
パティも自分達が出会ったあの戦いで、この写真の人物たちが無くなったと感じ取ったのか、それ以上は何も聞いてこなかった。
「では、パティ。大人しく留守番していてくれ」
「ワカッタヨー」
そうこうしている間に迎えの車が来たので、俺は出かける前にパティにそう言いつけると部屋を後にする。
車の後部座席の側まで来ると流石は高級車、扉が自動で開く。
中には月読宮様が座っておられ、対面には護衛の天音さんが座っている。
「わざわざ、また来てくれたのですか?」
「はい。移動中に説明をしようと思いまして」
こうして、俺は車の中で月読宮様の説明を聞きながら、駐屯地に向かう。
説明は以下の通りである。
まず、新兵器開発部門は東京の郊外にあり、その近くに俺とパティの分の部屋を用意してくれるということ
新兵器は持ち出し可能で、むしろ実戦で使って欲しいとのこと
兵器携行時には、先に渡した身分証を同時に携帯して、それを見せれば兵器携帯許可証になること
更に身分証は、俺の行動の自由を保証するものであること
「他にも色々あるので、この冊子に目を通しておいてください」
そう言って、月読宮様が渡してきた冊子の表紙には、<新兵器開発部門特別試験係について>と書かれており、その下には可愛い兎の絵が描かれており、子供向けのような作りになっている。
(月読宮様は、俺の事をまだ初めて会った時の11歳の子供のままだと思っているのではないだろうか…)
俺はそう思いながら冊子に目を通す。
何故ならば、隣に座る月読宮様と何を会話すればいいか解らないからである。
そして、天音さんはその表紙の兎を見て、こう思っていた。
(うさぎさんの絵、カワイイ~)
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万和
平行世界の日本では、違う元号が使われており、この元号は2020年に帝・天照陽日が、
「8年後に迫る『大厄災』に向けて、改元しましょう!」
と、言い出して改元された新元号であり、その意味は次のとおりである。
<万国万民の力を合わせて、『大厄災』に挑んで平和な世界にしよう!>
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