1-13 二人の夜
あれからパティは、テレビの前で三角座りをして、食い入るようにテレビを見続けている。
俺は携帯を手に取ると晴明に、今日あの後にアークデーモンが出なかったか確認の電話をかける。
尭姫にかけなかったのは、パティを部屋に連れ込んでしまっている事に、後ろめたさを感じているからかもしれない。
「晴明、こんな時間に電話してすまない」
「いや、構わないよ。それで、どうしたんだい?」
「今日施設の近くまで行ったんだが、急用ができて途中で帰ることになって… アークデーモンは出たか?」
「いや、出てないよ。出ていたら、こんな穏やかに夜を過ごしていないよ」
「それもそうだな」
確かにアークデーモンと戦闘になっていれば、ニュースにもなっているだろうし駐屯地内でも、もっと騒ぎになっているだろう。
「僕の考えではアークデーモンは、既にあの辺りにはいないんじゃないかな。離れた山の中に潜んで、魔力と傷の回復をおこなっていると思う」
「俺もそうだと思う。弱っている状態で、いつまでも同じ所に留まる馬鹿はいないだろう」
俺の考えを聞いた晴明は、何かを考えているのか少し沈黙を続けると次の話題に切り替える。
「僕達は明日も施設跡に遺体回収の護衛に向かうけど、智也はどうするんだい?」
「俺は― 」
そこまで電話に向かって、話をしたその時―
「トモヤ! ソレナニ!?」
パティが電話をしている俺に気付いて、興味津々で近づいてくる。
「智也、今女の子の声が聞こえたけど? 炯(けい)ちゃんが来ているのかい?」
「トモヤ! テレビニモ ウツッテル ソノイタナニ!?」
左耳は携帯電話から晴明の声、右耳からパティの声が聞こえ、二人同時に言われても俺は聖徳太子ではないので何を言っているか聞き分けることが出来ない。
因みに炯は、俺の2歳下の16歳の妹である。
とりあえず、側で元気よく「トモヤ! ソレナニ!?」を連呼しているパティに
「これは、電話といって離れた人と会話をする機械だ」
そう簡単に説明してから、電話に驚いているパティを尻目に今度は晴明に説明する。
「智也。まさか女の子を連れ込んでいるのかい? それは、どうだろう… (尭姫ちゃんの事を思うと)」
電話越しから、聞こえてきた晴明の声には、少し嫌悪感が混じっている。
(晴明には、本当の事を言っておくか…)
晴明なら口止めしておけば口外しないため、俺は口止めしてから正直にパティの事を話すことにした。
「―と、いうわけなんだ」
「なるほど、あの時の異国の少女が… わかった、この事は内緒にしておくよ」
「助かるよ」
「日本での思い出がそんな辛くて悲しいモノだけなんて、この国の人間として心苦しいからね」
晴明も俺と同じパティの日本での境遇に同情して、黙認することを約束する。
そして、緊張感を漂わせた少し低いトーンで、俺が避けていた懸念を話題にしてくる。
「ところで、この事は尭姫ちゃんには話したのかい?」
「いや、言わないほうがいいかなって… 余計な誤解を招きそうだし… 」
「僕は言っておいたほうがいいと思うよ。こういう事は後でバレたほうが、ややこしくなるからね」
「大丈夫、バレないから」
「智也… それフラグにしか聞こえないよ」
こうして、俺は不都合な事を頭から消し去り、晴明との通話を切ってからパティを見ると、彼女は教団から生贄の服として与えられた手術衣のような白い服を着用しており、今更ながらに気付く。
(パティの服を買わないと。そうなると年頃の同性がいたほうがいいな。炯に頼むか)
女性の知り合いで、こういう頼みごとが出来るのが炯か尭姫か母親しかいない。
母親は当然無理で、尭姫にはパティの事を黙っているので無理、そうなると妹しかいない。
俺はパティの買い物のために、次に妹の炯に電話をかける。
「もしもし、炯か? お兄ちゃんだけど空いている日に、買い物に付き合って欲しいんだけど」
「明後日なら、休みで空いている」
妹の炯は昔から感情の起伏が乏しく、感情の読みにくい子ではあるが、その性格のおかげかスナイパーとしての腕前は一級品である。
「ありがとう。じゃあ、明後日頼むよ」
炯と買い物の約束をして電話を切り、携帯の時計を見ると時間は10時を回っていた。
「そろそろ、風呂に入って寝るか…」
先に入浴を済ませると、テレビに夢中のパティにも風呂に入るように促す。
(そういえば、シャワーの使い方や浴槽への入り方はわかるのかな?)
「パティ、シャワーの使い方は分かるか?」
「シャワー ノ ツカイカタ ワカルヨー」
「そうか、更衣室はここで、浴室はここだから。シャワーはこっちがお湯で、こっちが水、これがシャンプーで、これがボディソープだから。あと、着ていた服はこの籠で、バスタオルはここ、服は俺のモノだけどここにあるから」
俺は一通り説明するとリビングに戻って、テレビを見始める。
すると暫くしてから、パティがリビングに戻ってくる。
「シャワー、オワッタヨ」
「そうか― 」
風呂上がりのパティを見て、俺は言葉を呑んでしまった。
大きめの俺のシャツを着用した風呂上がりのパティは、白い肌が少し紅潮しており、ズボンを履いていないために、白い綺麗な生足が見えている。
俺はすぐさまパティから視線を逸らすと
「パっ パティ! ズボンはどうした!? ちゃんと、置いておいただろう!」
「アレ キツイカラ ヤメタヨー」
(あのズボンキツイか? 女の子にはキツイのかな…)
俺は疑問に思いつつ、目のやり場に困りながら、
「じゃあ、今日はもう寝よう。俺は床で寝るから、パティは気にせずにベッドで寝るといいよ」
俺はパティにベッドで眠るように促すと
「ムシカは、このケージな」
「チュー」
ムシカをケージに入れる。
俺は部屋の明かりを消すと絨毯の上に敷いた毛布の上に寝転び、タオルケットを上から羽織って眠りにつく。
(今日は色々あったな…)
体を横にしてベッドに背を向け、目を瞑りそのようなことを考えていると
「トモヤ オキテル?」
「どうした、パティ?」
パティが眠れないのか、俺に話しかけてくる。
そして、背後で音がするとパティが寝ている俺の横に寝転んで、このようなことを恥ずかしそうに言ってくる。
「トモヤガ ノゾムナラ… パティ… ソウユコト シテモイイヨ…」
「そういうことって、どういうことだ?」
俺はわかっていながら、一応聞いてみることにした。
「ワタシ ヤマノナカニ オチテタ ホンミテ シッテルヨ。オトコノヒト オンナノコヘヤニツレテクル ソウイウコト ノゾンデル… 」
(それ山に投棄されているエロい本だ!!)
「その本は、参考にしては駄目なやつ!!」
俺は慌てて起き上がると、パティの方を向いてそう突っ込む。
常夜灯の中で見える彼女は頬を赤く染めており、その表情は先程までの幼い少女のモノではなく女性のモノであった。
そして、恥ずかしそうな表情をしながら、パティはこう続けてくる。
「ワタシ コドモ チガウカラ カクゴシテ ツイテキテイルヨ」
「パティ……」
俺はパティに手を伸ばすと
「嫁入り前の女の子が、そんなはしたない事を言ったらダメだ!!」
そう言いながら、パティの白金色の髪に教育的指導のチョップを叩き込む。
「ハゥ!? イタイ! トモヤ ナニスルヨ!?」
予想外のチョップ攻撃に、痛みで頭を抑えているパティに向かって、俺は説教を開始する。
「何が『ワタシ コドモ チガウカラ カクゴシテ ツイテキテイルヨ』だ! 君なんて、まだ子供だ! 子供がそんな破廉恥な事をしてはいけない!」
「デモ、パティ オカネナイ カラ カラダイガイ カエセナイ…」
そう言ってくるパティの頭上に、俺はもう一度手を伸ばすと彼女はまたチョップを受けると思って、怯えながら頭を抑えている。
「子供はそんな事を気にせずに、大人に甘えれば良いんだ」
俺はそう言いながら、頭を抑えている彼女の手の上から、優しく頭を撫でる。
すると、パティは俺に直接頭を撫でてと言わんばかりに、頭を抑えていた手をどけたので、俺はしばらく彼女の頭を撫でる事になった。
最後に言っておくが、俺がパティとの関係を拒絶したのは、決して童○で怖かったからではなく、紳士だからであると言っておく。
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