1-12 異国の少女
次の日―
車をレンタルすると例の今は瓦礫と化した施設に向かうために、山の中と山間部の街を通る高速を2時間掛けて走る。
施設に近づくと予想通り道は退魔庁によって、通行止めされていたので車を近くで停めると車内で待機することにする。
(ヤツが現れて戦闘になったら、ここにいてもわかるだろう)
支配級魔族との戦闘になれば、幸か不幸か派手な戦闘になり、爆音が聞こえたり戦闘による閃光が見えたりするだろう。たぶん…
何より、あの通行止めをしている隊員が、何かしらリアクションを取るはずである。
その隊員を監視している事に気付かれないように、車内から双眼鏡で見える距離に車を停めて、探偵気分を味わいながら双眼鏡を覗き込む。
監視すること2時間、コンビニで買ったパンを頬張りながら、俺は思わず現状を声に出してしまう。
「本当に探偵みたいになってきたな… しかも、浮気調査の…」
2つ目を食べようと助手席に置いてある袋に、手を伸ばそうとした時、不意に運転席側の窓をノックする音が聞こえ、俺は驚きのあまりに思わずビクっとなってしまう。
懐の魔力銃に手を伸ばしてから、ゆっくりと窓を見るとそこには思わぬ人物が立っていた。
「君は……」
窓の外に立っていたのは、あの行方不明になっていた綺麗な白金色の髪と白い肌、青い瞳を持つ異国の少女であった。
俺が窓を下げると彼女は、拙い日本語で話しかけてくる。
「ヤパり、アノトキノ オニサンダ!」
《やっぱり、あの時のお兄さんだ!》
※《》は、智也が補足(解釈)をした内容です。
「今まで一体どこに― 」
俺がそこまで話しかけると、彼女のお腹から「グー」と大きな音が鳴り、少女はその白い肌を真っ赤にさせて恥ずかしがる。
「パンあるけど… 食べるかい?」
その音を聞いた俺は、お腹の音には触れずにそう提案すると、彼女は満面の笑顔で「うん!」と頷く。
誰かに見られないように、白い少女を後部座席に座わらせると彼女は、パンを勢いよく食べ始める。
残りのパン3つをあっという間に全て平らげた少女は、まだ少し足りないといった表情でいるが、俺はとりあえず今まで何をしていたか話を聞くことにする。
「ワタシ セカク キタノカラ モト コノクニノ ブンカ タノシミタカタ。ダカラ、ニゲタヨ。デモ、ヤマノナカ タベモノ ナイ… ソシタラ イイニオイシタ! タベモノ ウバウオモタラ オニサンダタヨ! コレ ウメイネ!」
《私、せっかくこの国に来たから、もっとこの国の文化を楽しみたかった。だから、その場所から、逃げ出したよ。でも、山の中は食べ物がなくて、お腹を空かせて彷徨っているといい匂いがしたよ! そこで、食べ物を分けて貰おうと匂いを辿って、やってきたらお兄さんだったよ! これ、美味いパンだね!》
※《》は、智也が補足(解釈と表現の修正)をした内容です。
「そうか… それは、大変だったな」
俺がそう言うと彼女は俺の目を見つめて、このように訴えてくる。
「ワタシ マダ カエリタクナイ! モト ブンカ シリタイ!」
《私、まだ帰国したくない! もっと、この国の文化を知りたい!》
※《》は、智也が補足(解釈)をした内容です。
俺は異国で拉致されその挙げ句に命の危機に晒され、せっかく逃げ出したのに、食べ物が無くて空腹で山の中を彷徨っていた少女に正直なところ同情していた。
(もうしばらくは、この国の文化に触れさせてあげてもいいかもしれない… 入国管理に連れて行くのはその後でも…)
俺は駄目な事と知りつつ、彼女にこのようなことを拙い英語を交えて提案する。
「しばらく俺の家に来るかい? えーと… カム? ホーム?」
すると、俺の申し出を受けた少女はこぼれんばかりの笑みで、
「アリガト オニサン! ヤハリ ヒト イイネ!」
《お兄さん、ありがとう! やっぱり、いい人だね!》
※《》は、智也が補足(解釈と表現の修正)をした内容です。
彼女は嬉しさのあまりに、後部座席から運転席と助手席の間を抜けて抱きついてくる。
(異国は感情表現が、過激だな///)
女性にあまり耐性がない俺には、刺激が強すぎるので慌てて、彼女を引き離す。
「とっ とにかく、これ以上ここに居て、誰かに見られてもややこしいから、ここを一度離れよう」
俺はまだ少し動揺した口調でそう言うと、アークデーモンの事を忘れて車を家に向かって発進させる。
家に向かう車中で、俺は自己紹介をしていないことに気づいて、自分の名前を彼女に教える。
「俺は八尺瓊智也、君の名は? ユー? ネーム?」
「ワタシ… ナ…… パティ… <パティ>ダヨ!」
《私の名前は、パティ… パティだよ!》
※《》は、智也が補足(解釈)をした内容です。
「名字は? ファミリーネーム?」
「???」
俺はバックミラー越しにパティを見ながら尋ねると、名字の事を知らないのか言葉が通じなくて理解が出来ないのか解らないが、彼女は“何を言っているか解らない”といった表情でいる。
(まあ、いいか。おいおい聞けば…)
そう考えた俺は、それ以上は聞かずに運転を続ける。
たまにバックミラーでパティを観察して見ると、彼女は車の中を物珍しそうに見た後に、今度は外の景色を同じく物珍しそうに眺めている。
そして、街中にあるビルを見て驚いている。
(ビルが珍しいなんて、馬車とか走っているような田舎にいたのかな?)
外国の田園風景を想像しながら自分を納得させる。
車内にはラジオだけが流れていた。
途中でコンビニによって、目立つパティを車内に置いて弁当を購入してから家に帰宅する。
「ここが俺の家だよ。ワンルームだから狭いけど…」
俺が扉を開けて、中に入るように促すとパティは言いにくそうに、このようなことを言ってくる。
「コノコ パティ ノ オトモダチ… イッショイイ?」
パティはそう言い終わると服の中から、白いネズミを取り出すと掌に乗せて見せてくる。
(ネズミが友達だなんて… きっと、この国に来てから、酷い境遇の中で過ごしてきたに違いない… そして、その心の依り何処にネズミを友達に… やはり、連れてきてよかった! これからは、少しの間だけでも楽しい思いをさせてあげよう!)
俺はパティの境遇を想像して、目頭が熱くなるのを我慢しながら申し出を了承する。
「ああ、もちろんいいとも! ただし、ちゃんとケージに入れて、飼うんだぞ」
「オニイサン、アリガトウ! コノコノナマエ <ムシカ>ダヨ!」
「よろしくな、ムシカ」
「チュー」
ムシカは「こちらこそ」と、言わんばかりに鳴いて答える。
「じゃあ、パティ。俺は車を返してくるから、テレビでも見ながら弁当を食べて、大人しくお留守番していてくれよ」
「ワカッタヨー」
「チュー」
(ケージと餌を買って帰るか。ハムスターのケージでいいか。餌はチーズかな? それともひまわりの種か?)
俺は車を返して、マウス用ケージと餌のペレットを買って家まで帰る。
「ただいま~ パティ大人しくお留守番していたか~?」
すると―
「トモヤ! コノ“テレビ” スゴイヨ! ハコノナカ ヒト タクサン イルヨ!」
パティが、よく物語でテレビを知らないキャラが、テレビを至近距離で見て驚きながら、側をバシバシと叩くという光景が目に入る。
液晶画面を叩いていないのが唯一の救いである。
「現実でテレビに驚く者を始めて見て、俺もビックリだよ! あと、テレビは離れて見なさい!」
※テレビを見るときは部屋を明るくして離れて見ましょう
(まあ、海外の田舎ならテレビのない所もあるのかもな…)
俺はハ○ジの山小屋を想像して、そう納得しながらテレビの説明をする。
「ブンメイ スゴイヨ!」
パティはムシカを肩に乗せて興奮しながら、テレビを夢中で見ている。
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