1-9 二人の出会い
大きな犬は、晴明の元まで俺を配達すると地面にゆっくり下ろす。
「智也、大丈夫かい!? 腕を怪我しているじゃないか! 術で治してあげるよ!」
どうやら、戦闘中に怪我していたようだが、戦闘によるアドレナリンの分泌のお陰で痛みを感じていなかったので、俺は晴明に言われて、初めて自分の左腕を怪我していることに気づく。
とはいっても、傷口は浅く晴明の治癒術ですぐに治るであろう。
「呪符よ、癒しの光となって、傷を癒せ! 急急如律令!」
晴明は治癒用の呪符に霊力を込めると呪符は温かい光を発して、腕の傷を少しずつ回復してくれる。
「ところで、尭姫は?」
尭姫と施設内で助けた異国の少女が、この場にいないことに気付いた俺は傷を治療してくれている晴明に質問する。
「尭姫は、助けた女の子を安全な輸送ヘリまで、連れて行ったよ。”智也が心配だからここを動かない!”って、最後まで渋っていたけどね」
「そうか…」
俺は一言そう呟くと、何故か自然と笑みを浮かべていまい、それを見た晴明も笑みを浮かべている。
「それにしても、晴明はいつも俺を気遣ってくれて優しいな。オマエが女の子だったら、告白するのに…」
「また、そんな事を…」
晴明は俺の冗談を聞いて少し呆れた感じでそう答えると、いつの間にか側にいた尭姫が衝撃の内容を口にする。
「智也、知っているかしら? アンタ、学生時代に冗談で晴明君にそういうことを言うたびに、一部女子から<智×晴>って、言われて喜ばれていたのよ」
「なにっ!? 俺が学生時代モテなかったのは、そのせいか!? あと晴明、本当にごめん!!」
(いや、智也がモテなかったのは、尭姫が側にいたからだと思うよ…)
晴明はそう思いながら、
「別に僕は気にしていないよ。それに、僕には許嫁がいるしね…」
俺の謝罪に対して気にしないようにと、気遣う言葉をかける。
「霊力も高くて、イケメンで、頭も良くて、オマケに許嫁もいるだと!? 晴明… オマエ… リア充だったのか!? この裏切り者!! 謝って損したな!」
だが、智也からは、このような理不尽な言葉が返ってきたしまった。
「そんなことが言える余裕があるなら、命に別状は無いみたいね」
尭姫は腕の傷を晴明に回復術で、治療して貰っている俺に安心のツンデレポーズでそう言ってきたが、その顔は幼馴染の無事が分かって安堵の表情を浮かべている。
「ところで、アークデーモンはどうなったの? 倒せたの!?」
崩壊した施設を見ながら、尭姫が訊ねてきたので俺は自分の推察を話すことにした。
「たぶん… まだ生きていると思う。施設の崩壊で、それなりのダメージを受けたと思うが…」
二階が崩壊した事により建物全体が崩壊して、未だに土煙をたてている瓦礫の山となった施設を指差して、俺は尭姫にそう答えたがアークデーモンがどうなったか確認する前に爆風で施設から吹き飛ばされたので、正直どうなったと断言はできない。
「もし、アークデーモンが無事なら瓦礫の中から出てきて、霊力探知で回復術を使っている僕達を襲っていると思うよ」
晴明の言う通り施設の少し離れたところで、救護隊員が懸命に回復術を使用して負傷した隊員の治療をしている。
施設が崩壊して既に10分経過しており、アークデーモンが無事なら、晴明の意見通りそろそろ瓦礫から出てくるはずであるが幸運なことにまだそれはない。
そして、晴明はそれを想定してか式神を出したままにして、瓦礫の山を警戒させている。
「あのアークデーモンは変化したばかりのためか、魔力総量も少なくまた魔力の扱いにも慣れていないみたいで、無駄に魔力を消費した攻撃を行っていたから、おそらく魔力を相当失っていると思う。その魔力が回復するまでは、大人しくしていると思うよ。ただ… あの瓦礫の中で、それをおこなうかは分からないけど…」
(まあ、俺なら崩壊のドサクサに紛れて、山の中に逃げ込んで回復するまで隠れるな…)
俺がそう考えていると、(どちらにしても、ここでこれ以上問答していても危険だ)と判断した晴明は一同にこう提案する。
「とにかく、ここでこのような問答をしているより安全な場所かまで移動して、この元教団施設を監視しながら、駐屯地に連絡して援軍の要請を行うべきです!」
「そっ そうだな!」
先輩隊員である救護専門の隊員4人と傷が回復して動けるようになった隊員は、少し話し合った後に、晴明の意見に従い負傷者を搬送してこの場から少し離れることになった。
「施設を崩壊させたのは、失敗だったかな…」
少し離れた高台より双眼鏡で廃墟となった施設を監視しながら、教団施設破壊の一端を担った俺は悔恨の念に駆られそう呟く。
「9割以上柱や壁が壊れていたから、どっちにしても崩壊していたわよ。遅いか速いかだけの差よ」
そうフォローしてくれた尭姫は、続けて言いにくそうに
「ねえ、智也…。アンタ… さっきの作戦…… なんでもない…」
何かを訪ねようとしてきたが、そこで話を打ち切る。
だが、尭姫は少し陰鬱な表情をしたまま何か考え込むと
「あの約束… 忘れていないわよね?」
今度は俺の目を見つめながら、そう尋ねてくる。
その不安そうな顔を見た俺は、尭姫が先程のアークデーモンとの戦いで、死を受け入れていた事に感づいているのだと察知して、不安を取り除くために彼女が欲している答えを口にする。
「もちろん忘れてないよ」
今から8年前の10才の正月―
新年の一族の集まりが本家で行われ、俺も両親と兄、妹と共に参加していた。
だが、当時から霊力が低いことで周りから蔑まれていた俺には、その集まりは居心地が悪く大広間での宴会場を抜けて、いつものように庭に逃げてきた。
すると、そこには池の鯉をじっと見ている尭姫がいた。
護皇三家は婚姻関係によって、繋がっているために他の家からも参加しており、尭姫も母親と来ていたが俺と同じように周りから蔑まれており毎年抜け出していた。
後で尭姫自身に教えられた事だが、彼女の母親が尭姫の父親の名を明かさずに1人育てていたらしい。
だが、それは名家では後ろ指を指される事であり、その事であらぬ誹謗や中傷を受けて、母親共々肩身の狭い思いをしていたらしい。
尭姫は当時から、美少女であったがツンデレ少女のテンプレであるツリ目であり、更に前述の理由から無愛想な表情をしているため正直怖かった。
そのため、声をかけづらかったが、尭姫も自分と同じ周囲から蔑まれていることを幼心に解っていた俺は意を決し、彼女に声をかけることにした。
その理由は、同じ境遇である尭姫となら、仲良くなれるかもしれないと考えたからである。
「やっ やあ… いつも、庭にいるね… 僕と同じだね… 僕は八尺瓊智也。君の名は…?」
俺は怖い表情の尭姫に怯えながら、できるだけ笑顔で自己紹介をしたつもりだが、かなりしどろもどろした会話内容になってしまった。
「尭姫… 草薙尭姫。…何か用?」
尭姫は鯉から視線を俺に向けると、自己紹介を返してきたが表情はまだ怖いままで、むしろ急に話かけられ警戒しているためか、目つきは更に鋭くなっており、10才の俺にはその威圧的な目から来るプレッシャーに耐えきれず、同じく疎外されている尭姫と仲良くなれると思って声をかけたと正直に答えてしまう。
すると、俺の正直な気持ちを聞いた尭姫は、キョトンとした表情をした後に少し笑みを浮かべて
「傷の舐め合いをしたいってことね…。いいわ、爪弾きにされている者同士、仲良くしましょう」
尭姫は自虐と皮肉を込めた言葉を発すると、右手を差し出して握手を求めてくる。
だが、当時の俺には解らない熟語であったため、きっと<お互い周囲に負けずに仲良しよう>的な事を言っていると思って、
「これからよろしく!」
と言いながら、同士を得た気になって満面の笑みで彼女と握手してしまう。
後から尭姫に聞いた所によると、この時彼女は俺の事を随分前向きな子と思い少なくとも悪い子では無いと判断したらしい。
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