1-8 起死回生
「お前の相手は俺だ!!」
俺はできるだけこちらに注意を引くために、アークデーモンの頭を拳銃で狙うが霊力が低下した俺の豆鉄砲攻撃では、奴の注意をこちらに向けさせる事はできず、魔力ビームは二人に放たれる。
「呪符よ、盾となって我を護れ! 急急如律令!」
その攻撃にいち早く反応した晴明は、手に持っていた呪符に霊力を素早く込めると霊力障壁を階段までの道に盾のように発動させる。
だが、速さ重視で術を発動させたために、霊力障壁は不完全で魔力ビームの攻撃を約10秒間しか防ぐ事ができず、そのため三人は階段に逃げ込むように走り込む。
「これ危ないから、あまり使いたくないが― 三人とも今すぐ耳を塞いでくれ!」
(まあ、今の状況では無理だろけど… 緊急事態だ、許せ!)
拳銃を左手に持って空いた右手でコートのポケットからM67破片手榴弾を取り出すと口でピンを抜いて、アークデーモンに向けて投げると慌ててできるだけ遠くの柱の影に隠れる。
今まで使わずにいたのは、爆発した手榴弾の破片が尭姫達に当たる可能性があったからであるが、今は三人が霊力障壁を挟んで向こう側に居るために使用しても問題はあまりないであろう。たぶん…
アークデーモンの足元まで転がった手榴弾は、轟音と共に爆発を起こして、耳を抑えて柱の影に隠れている俺の横を爆風と黒煙が通り抜けていく。
しかし、爆発は奴の体勢を崩すことしかできず、少し期待していた俺は落胆するが、よく考えれば俺達の前に戦った隊員の中にも手榴弾を装備していた者はいて、恐らく使用したはずなのに、現状アークデーモンがほぼ無傷なのだから、効果が少ないのは当然である。
(こんなことなら、室内戦とはいえ対魔物(対戦車)ロケットランチャーとか持ってくればよかった…)
まあ、実力のある退魔師には、銃や近代兵器よりも強い者もいるが、それはあくまで一部であり、弓、刀、術などの武器で戦う下っ端の退魔官の現状はご覧の有様である。
「耳がキンキンするじゃない!」
マイクからは尭姫のツンデレ抗議が聞こえてくる。
しかし、アークデーモンが体勢を元に戻すまでの数秒ではあるが霊力障壁から、魔力ビームを明後日の方向に向けさせることができたので、良かったとしておこう。
(尭姫、お前の耳キンキンは無駄ではなかったぞ。だから、後で俺を責めるのは止めてください…)
そのようなことを考えながら、俺は柱の影から覗き込み手榴弾をもう一個使うべきか考えながら状況を見守る。
手榴弾のお陰で三人は霊力障壁が破壊される前に、階段まで逃げることが出来たが追撃で放たれた魔力ビームによって階段は破壊されてしまう。
それは、即ち二階からの脱出が不可能になったことを意味する。
(さて、どうしたものかな…)
俺は柱を背にその敵が破壊した外壁から見える外の景色を見ながら、ガラにも無く格好をつけてこんな事をした過去の自分に少し後悔していた。
「智也! 大丈夫!? 今助けに行くから!」
「他に階段は無いのか!?」
マイクからは二人の俺を心配する声が、絶え間なく聞こえてくる。
「二人はとりあえず、その子の安全の為に施設の外に連れ出てくれ」
「そうだね… そうしよう」
「でも、智也が!!」
「この子の安全を優先しないと… 君もさっき言っていたじゃないか、『せめて、この子だけでも助けないと!』って!」
「……!」
尭姫は少女の安全の為に、この場から離れることを渋々承知すると
「この子を外に連れて行ったら、すぐに助けに戻るから!!」
そう言った後、少女の手を握り外へエスコートする。
どの道ここにいても、何も出来ないことは二人には解っていた。
外を見ていたら、現在時刻か気になって自慢の時計で確かめようとするが、時計は壊れたのか針が動いていなかった。
(こんな事なら、アイツ等に誘われた時に、風俗に行けばよかったかな…)
そのように思わず後悔しながら、外の風景を見続ける。
(それにしても、派手に壊したな…… …… …!!?)
俺はアークデーモンに気付かれないように、柱から二階内を見回すと自分が気付いたことが正しかった事を確信する。
(アイツ、何も考えずに強力な魔力ビームをブッパし過ぎて墓穴を掘ったな!)
アークデーモンは見失った俺を探しているのか辺りを見渡している。
霊力(魔力)が低いことが、逆に奴の魔力探知に引っかからないという今の状況を皮肉に思いながら、俺は尭姫と晴明に思いついた作戦をマイクに伝える。
「無謀よ!」
「悪くない作戦かもしれないね。僕の式神なら大丈夫だと思う」
作戦を聞いた二人は正反対の意見を述べるが、事態はこの作戦の論争を許さなかった。
突如アークデーモンが、俺の隠れている柱の方に向いたからだ。
<やばい!>
直感がそう知らせると同時に、俺は今隠れている柱を離れて、全速力で走り始める。
紙一重の差で、さきほどまで隠れていた柱が魔力ビームで消し飛ばされ、
「見つかった!! 作戦を実行するから、フォローよろしく!」
俺は走りながら二人にそう伝えると柱の影を走りながら拳銃を撃ち、壁の近くまで来ると90度に曲がって、階段の方に向かって走り続ける。
アークデーモンを中心に俺は初めにいた階段付近から、二階をぐるっと時計回りに柱と壁を破壊しながら追いかけてくる魔力ビームから逃げ続けて丁度一周したことになる。
それは、つまり二階を支える柱と外壁の大半を、考えなしに破壊したということである。
アークデーモンもその事に気づき柱を2本残したが、もちろん2本で二階の重量を支えられる訳もなく天井が崩れ始める。
俺は止めとばかりにMK3手榴弾を取り出すとピンを抜いて、残っている柱の一本に投げ続けてもう一個MK3を取り出すとピンを抜いて残りの一本の柱に投げる。
「じゃあな、アークデーモン!」
そして、人生で一番というぐらい全速力で一番近くの外壁に空いた穴に力走する。
「うわっ!?」
だが、穴の手前で柱を破壊するために投げた2個の手榴弾の爆発で発生した爆風に巻き込まれて吹き飛ばされるが、不幸中の幸いか穴から外に放り出されてしまう。
先程から爆発音で耳鳴りがしているが、爆発の衝撃で脳が揺さぶられたのか意識が朦朧としており気にならない。
意識が朦朧としているせいか、スローモーションのように地面がゆっくりと近づいてくるのが見える。
もちろんそれは俺の体感で、実際は重力に従って早く落下している。
今にして思えば、この頃から<名誉ある死>を考えていたのかもしれない…
仲間のために民間人のためにアークデーモンの注意を引いたり、施設の二階を崩落させてダメージを与えようとしたり、どれも結果的に死んでしまっても無駄死にではなく、前者は自己犠牲で後者は一矢報いた<名誉ある死>である。
俺は朦朧とした意識の中で、落下しながら
(このまま落ちて死んでもいいか…)
死を受け入れて迫りくる地面をぼんやりと眺めていた。
だが、晴明の召喚した大きな犬の形をした式神が作戦通り、落下地点の近くまで風のように駆けてくる。
そして、力強くジャンプして空中に跳ぶと俺が地面に激突する前に、空中で俺のコートの襟を口に咥え地面への衝突から助けてくれる。
それは、まるで犬が空を飛ぶフリスビーを空中で咥えるような光景であった。
白い大きな犬は崩れる施設の側から、軽快に走り出しご主人様の元に咥えたフリスビーを持っていく犬のように俺を晴明の元まで走り、その間俺の足は地面を擦っており少し痛い。
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