1-4  魔物召喚





『大厄災』時に魔王軍の出現場所となった所は、魔界と通じた為か今でも魔力異常や空間の歪みがあるらしく魔物が現れやすい土地となる。


 第一回目の魔王出現場所である奈良も魔物の出現が多い場所で、そこで召喚すれば魔王もしくはそれに近い力を持った支配級魔族、上級魔族あたりの魔物が召喚される可能性も充分ある。


 上層部もそう推察しての今回の命令であろうが、そうなると次の疑問が湧いて、別の隊員が隊長に質問する。


「そんな強力な魔物が召喚されると想定しているなら、我々ではなくもっと強力な退魔師を派遣するべきではないですか? 例えば『十二神将』とか…」


 この隊員の言う通り、俺達新人が半数を占めるこの小隊では下級魔族、上手くやれば上級魔族までしか倒せず、それ以上の魔物が相手では討伐は限りなく難しく、本来なら『十二神将』に任務を出すのが正しい。


『十二神将』でも、相手次第では討伐できるかは解らないが…


「忘れたのか? 『十二神将』は来週東京で、行われるサミットを狙うテロリストと魔物出現に備えて、東京付近を護衛する役目にあることを。それに伴い精鋭退魔部隊も首都近辺から動かす事は出来ない。そこで、奈良の近くで実力のある我が小隊に、任務が下ったというわけだ」


(来週行われるサミットに備えて… ねぇ…)


 つまり上層部は、確度の低い情報の問題よりも来週行われるサミットで、各国の国家元首が襲われた時の自分達の責任問題回避を選んだということである。


「来日の早い国家元首は、3日後に来日するから。動かしたくないのよ」

 俺の不満を感じ取ったのか、隣に座る尭姫がそう話しかけてきた。


(そうだな…。国民が犠牲になっても、国内の問題なら責任はウヤムヤにできるからな…)


 俺はそう毒づこうとしたが尭姫に言っても仕方がないので、その言葉を心の中に閉まっておくことにした。


 そして、そんな者達の中に俺を卑下する奴らがいる。

 俺は世の中の不条理を噛み締める。


 目的地に着くまで、輸送ヘリの中で隊員達は自分達の命を守る武器や装備の再点検を行ったり、瞑想して集中力を高めたり心を落ち着かせたりする。


 フライト時間約1時間、輸送ヘリは目標地点の近くの広場に着陸すると隊員達は、駆け足でヘリから外に出て組ごとに整列する。


「よし、分隊編成を伝える」

 隊長は各組に分隊編成とその作戦行動を指示していき、最後に俺達の組に指示を出す。


「最後に草薙組は、遊撃として施設の外で待機せよ」


「いいね、名家は楽できて」

「怪我したら、隊長の責任問題になるからな」


 隊長の指示を聞いた他の隊員から、心無い言葉が俺達に浴びせられるが、その言葉はあながち間違っておらず、後ろめたさのある俺達は黙っていた。


 過去に三護皇家の人間を前線に配置した事により、その者が大怪我をして責任問題として隊長が左遷された出来事があって、それ以来三護皇家の人間は前線ではなく予備戦力として後方で待機させるのが通例となっている。


 それなら、最初から三護皇家出身者は実戦部隊に配属させなければいいのだけなのだが、それでは『特別扱い』『依怙贔屓』『不公平』と国民から声があがるため、一応実戦部隊に配属させる事になっているが、その迷惑を受けるのが配属された部隊の者たちという結果である。


「私語は慎め!」


 隊長は部下達を一喝するが、自分が彼らの言うように俺達を特別扱いしている自覚がある為に、それ以上強くは言えず正直その効果はあまりないのは、この件が毎回のように起きているのを見ても解る。


「仕方ないって、あの組には足手まといが一人いるからよ」

 勿論、足手まといは俺の事であり、自覚はしている為に反論はしなかった。


 だが、その言葉を聞いた尭姫は、目つきを鋭くすると腰に差した刀に手をかけて、鍔に親指を当てて鯉口切りそうになるが、俺は柄頭を手で抑えて抜刀を阻止する。


「俺の事で怒ってくれるのは、嬉しいけど気にするな。しかし…、出撃の度に同じ様なことを言って、アイツらよく飽きないよな…」


「悔しくないの!?」


「もう慣れたよ……」


 俺達の特別扱いが気に食わないのか出撃の度に、特に古参のベテラン退魔師から誹謗を受ける為に正直もう慣れてしまっている。


 尭姫もそろそろ慣れて欲しいものだ。


「慣れないでよ……」


 尭姫は少し悲しそうにそう言うと刀から手を離して、俺に背を向ける。


(しょうがないだろう…) 


『落ちこぼれ』『退魔師を諦めろ』『八尺瓊の名に傷を付ける』


 子供の頃から、言われているんだから…


 隊長の作戦開始の号令が出る前に、退魔学校の同期達がやってきて「智也、気にするなよ」「後で一緒にメシ食いに行こうぜ」「これが終わったら、一緒に風俗に行こうぜ!」など、声を掛けに来てくれた。


(アイツらと出会えただけでも、退魔師の道を進んでよかった)

 尭姫を含めて、同期達の励ましを受けた俺は心が救われた気がした。


「風俗は尭姫が怒るから、止めておいたほうが良いよ」

 晴明は俺にだけ聞こえるような声で、そう忠告をしてきてくれる。


「安心しろ、親友。俺はそういう事は、本当に好きな女性としかしないと決めているからな!」


 俺はキメ顔で晴明にそう答えたが、決して童貞で自信がなく、怖いから言っているわけではない!


 目的地のカルト教団施設は山の麓の森の中にあり、俺達はヘリを降りた空き地から、森の中を警戒しながら駆け足で進む。


 ヘリの中での隊長の説明では、カルト集団の教祖は終末思想の持ち主で、自分が世界を導かないと人間は滅びると言って、その導く為の強大な力を呼び出した魔王から、契約で得るつもりだという。


 そして、力を得た後の目的は恐らくサミットを襲撃して、そこにいる各国の代表を殺し、彼らの代わりに自分が世界を纏めた後に魔王軍と戦うというとんでもない計画であるとタレコミは話したらしい。


 駆け足で目標に向かいながら、俺は疑問に感じたことを尭姫や晴明に投げかけてみる。


「あの計画、最後のあたり破綻しているよな?」


 各国代表を殺しても、その代わりなれると考えている時点で、あの計画は破綻している。


「最後どころか全体的に破綻しているわよ」

「まあ、狂信者の考えた計画だからね…」

「確かにまとも人間なら、まず666人も殺しそうなんてしないな」


 尭姫や晴明の言う通り、この計画を考えた者は最初からまともではないのかもしれない。


「それにしても、生贄を666人も集めるなんて、誰かが気付いて騒ぎそうなものだが」

「半分は不法滞在の外国人を攫って集めたみたいだから、気付かれにくかったんだろうね」


 この並行世界の日本は、バブルは起きなかったがその後の経済衰退も起きていないため、経済は緩やかな好景気が続いている。


 そのため、日本には職を求めた不法滞在の外国人が後を絶たず、今回攫われたのもその者たちであろう


「呼び出した魔王と契約して、強大な力なんて得られるモノなのかしら?」


「召喚した高位の魔族と契約して、力を得るというのは過去にもあったらしいね。対価は寿命や命らしいけど」


 尭姫の疑問に博識な晴明がその知識を披露したその後に、目の前に木の開けた空間が現れ、その中央に教団の3階建ての施設が建てられていた。


 ここは元ホテルだったらしく、それを内部だけ宗教施設に改修したもので、外からでは新興宗教施設とは解らない事も、今回の事件発覚を遅らせた一因でもあった。





 #####


 退魔師階級


 特級(外国:tier1)

 1級(tier2)の20人分くらいの戦力をもち、そのため世界でも人数は少ない。

 支配級魔族(アークデーモン)と唯一なんとか戦える(勝てるとは言っていない)


 1級(tier2)

 2級(tier3)

 3級(tier4)

 各階級の戦力の差は特筆するほど無い


 4級(tier5)

 退魔師の免許を得た者なら、誰にでも与えられる。


 魔物階級


 魔王

 人間では恐らく倒せないすごくやばい力を持った魔物勢力の長。

 少なくても13体はいる模様。


 支配級魔族(アークデーモン)

 魔王の次に強いが、その力の差は圧倒的であるため魔王に反旗を翻すことはない。

 それでも人間では勝てるかどうか解らないぐらい強力な戦闘能力を持っている。

 S級退魔師が数十人、退魔師の搭乗した戦車や戦艦を大量投入すれば、勝てると思われる。


 上級魔族(グレーターデーモン)

 支配級魔族が率いる階級。

 人間でもS級退魔師数名、優秀な退魔師なら数50人以上で倒せる。

 戦車や戦艦なら、もっと楽に倒せるかも

 極稀に自然に現れるため、要警戒対象とされている。

 近年『大厄災』が近づいているためか出現回数が増えてきている。


 下級魔族(レッサーデーモン)

 退魔師でも数20~30人で倒せる。

 戦車なら5台あれば楽勝

 年に数十回現れる、台風みたいな扱いであったが、近年『大厄災』が近づいているためか上級魔族より、さらに出現回数が増えてきている。


 魔物(デーモン)

 一級は退魔師が10人以上、二級、三級なら5人以上

 最下級なら1人でも倒せる。

 戦車なら血税の無駄使いと怒られる。

 山で熊と遭遇するぐらいの確率で現れる。


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