1-3 『大厄災』



「智也が準備を怠って怪我をするのは勝手だけど、それで私達の足を引っ張られたら困るのよね!」


 尭姫は左腰に左手の甲を当てて、右手は人差し指で俺を指す<ツンデレキャラポーズその2>で、ツンツン口調で話を続ける。


「素直じゃないな~。智也に怪我して欲しくないから、注意しているって言えばいいのに」


 その彼女の言葉を聞いた晴明が、爽やかな微笑みを浮かべながら彼女にそう突っ込むと尭姫は更にテンプレツンデレ発言をおこなう。


「はぁ!? ちっ、違うから! 智也が怪我しようが私には関係ないから! 私の評価まで下げて欲しくないから、言っているだけだから! 勘違いしないでよね!」


 尭姫はツンデレ反論を言い終えると、両腕を胸の前で組んでそっぽを向く<ツンデレポーズその3>で締め括る。


 容姿も整った美少女であるが、このようにツンツンな性格なため今まで彼氏がいない残念美少女だ。


(どうした、尭姫? 今日はいつにもまして、ツンデレキャラ全開じゃないか)

 と、心をほっこりしながら感心していると表情に出ていたらしい…


 それに気付いた尭姫が、幼馴染とはいえ失礼な事を言ってくる。


「何よその顔は!? それでなくても締まりのない顔が、更に間抜け面になっているわよ? どうせ、変な事を考えていたんでしょう? そんなんだから、モテないのよ」


(誰が間抜け顔だ、このツンデレ! モテないのは、否定しないけど…)


 俺はこう反論してやろうと思ったが、このような酷い言葉を女性に投げかけるのは、紳士にあるまじき行為と考え心の中に留めておくことにした。


 決して口では勝てないので、情けなく逃げた訳ではない。


「さあ、行きましょう!」


 尭姫の掛け声と共に俺達は、教室を飛び出して駆け足でヘリポートに向かう。


 ヘリポートに到着するとそこには大型輸送ヘリ2機が待機しており、その前に準備が済んだ小隊員達が職種ごとに集まっており、人員が揃った組からヘリに搭乗していく。




 俺はヘリに搭乗して側面に設置された座席に座ると、手に刀を持った尭姫が隣に座りその隣に晴明が座り、全ての小隊員が乗り込むとヘリはすぐさま浮上を始めて、目的地に向けて発進する。


 ヘリのローター音が機内に響く中、尭姫が俺の方を向いて自分の胸の前辺りに右手を当てる、本人無意識のツンデレポーズを取りながら


「久しぶりの実戦で不安でしょう? 私が隣に座れば、少しは安心できるんじゃない?」

 と、不安な心を見透かすような事を言ってきたので、


「そういう尭姫こそ、不安だから俺の隣に座ったんじゃないのか?」


 実戦で心に余裕の無い俺はこう言い返してしまい、尭姫のツンデレ魂に火を付けてしまい彼女からは反論が返ってくるが


「はぁ!? 違うから! 私は幼馴染の腐れ縁から、アンタが不安だろうと予測したのよ! それで作戦時に足を引っ張られたら困るから、組のリーダーとして、不安を取り除いてあげようとしただけだから! そうでなければ、誰がアンタの隣になんて……   せっかく心配してあげたのに… バカ…」


 尭姫は最後の方はトーンダウンして、更にデレ発言をぶち込むというツンデレ反論を行ってくる。


 しかも、これを本人がまったく意図せず行う所が、草薙尭姫の天性のツンデレキャラレベルの高さを示している。


 尭姫は肩に掛かる綺麗な黒髪で、運動をする時はポニーテールにしており、これがツインテールならツンデレキャラとして、かなり完成度は更に高くなるであろう。


(最後に少しデレを入れてきた! これは、ツンデレ好きには堪らないが、残念ながら俺はツンデレ好きではないんだ。俺はどちらかと言うとお淑やか系の…)


 尭姫のツンデレレベルを頭の中で、そう評価していると骨伝導イヤホンから、隊長の声が聞こえてきて俺は思考を任務に切り替える。


「これより今回の任務内容と作戦の説明を行う」


 任務の説明という重要な話は、通常であれば骨伝導イヤホンを付けているとはいえ、このような騒音で煩いヘリの中で行われることは少ない。


 この事から今回の任務が、緊急に下された事を意味し、移動中に説明を行わねばならないほど時間に余裕がないことを意味する。


「今回の任務の目的は、とあるカルト教団が奈良で高位の魔物を召喚しようとしているのを阻止することである」


 そういう任務は本来なら警察の管轄であるが、自分達に与えられたという事は、既に召喚されている可能性があるということである。


「タレコミによると奴らは、信者と不法外国人をあわせた666人を生贄にして、魔王を召喚しようとしているらしい」


「魔王!?」

 その言葉にヘリの中の緊張感は、否応なしに上がることになる。


「しかし、隊長…。いくら、666人を生贄にしようと魔王召喚などそう簡単には出来ないと思いますが?」


 隊員の一人が、みんなの考えを代弁するように隊長に質問する。


 魔王召喚なんて、それこそ千か万単位で生贄にしないと無理であるため、俺を含めた隊員はそう疑問に思ったが、隊長からの返事を聞いて考えを改めることになる。


「確かにその通りだ。だが、生贄数が悪魔の数字である事と場所が、あの<奈良>である事とから、上層部も魔王召喚は無理でも高ランクの魔物は召喚できるのではないかと判断したようだ」


 <奈良>は、この国の最初の都市であったが、西暦696年に全世界規模に突如として起きた『大厄災』『カタストロフ(catastrophe)』と後に呼ばれる出来事によって、遷都を余儀なくされたいわくつきの場所である。


 これは歴史の授業で必ず習うことで、記録書や教科書には難しい言葉で書き残されており、俺なりに簡単に要約するとこのような感じである。


 ”西暦696年―


 突然、魔界からすごくやばい力を持った魔王とやばい力を持った部下達で、構成された鬼ヤバイ魔王軍が世界中に13勢力も現れて人間達にこう言いました。


「最近人間が調子にのっているので、これからボコボコにしまーす」


 そうして、各魔王軍は出現した場所から、台風みたいにゆっくり移動しながら、通り道とその周辺にいる人間達をその圧倒的な力で殺戮しながら進みました。


 更に魔王達は、

「特に首都は、念入りにぶっ壊しまーす」

 こう言うと当時存在していた各国の首都を次々に壊滅させました。


 日本に現れた魔王軍の場合、まず当時の首都であった奈良の『平城京』付近に現れ、上記の事を人間に言い放つとその圧倒的にやばい力で『平城京』を壊滅させます。


 もちろん当時の退魔師や軍人達は

「うおー! このまま黙って殺られるか! 人間の力をくらえー!」

 と、戦いを挑みますが、「アッー!」と見事に殺られてしまいます。


 魔王軍は奈良を出発して、日本列島を縦断しながら北海道へ向かうと樺太に渡って、南西に進み中国大陸まで進むと中国全土もボコボコにします。


 そして、中国大陸から朝鮮半島に移りボコボコにすると南下して、最後に九州にやってきてボコボコにします。


 こうして、各地の魔王軍は出現してから666日間、世界中で人間達をボコボコにしまくった末に、


「よーし、今回はこのぐらいにしとくか」

 と言って、突然魔界に帰ってしまいました。


 こうして、世界各地で人間達はボコボコにされて人口は減り、首都は遷都しなければならない程破壊されて、日本は奈良から京都に遷都しました。


 しかし、666年後の西暦1362年―


 魔王達は再びヤベー軍勢を率いて、再び世界中に現れます。


「さーて、今回も調子にのっている人間達を、ボコボコにするぞ」


 魔王軍は前回同様に出現した場所から、人間達をボコボコにしながら、移動を開始しますが今回の人間達は一味違いました。


 人間達は666年の間に技術を発展させおり、戦力が上がっていたのです。


「技術力の進化と発達で、手に入れた俺達の新しい力を見せてやる! 魔王軍、人間の力を甘く見るなよ!」


 人間達は強化された武具と長い月日で研鑽された技を駆使して、魔王軍と戦い一進一退の攻防を繰り広げます。


 ですが、その人間達の戦いを見た魔王達はこう言います。


「なーんか、人間達がちょっと強くなっているな。こっちも、本気を出すか」


「強がりやがって! 本気とやらを見せて―  アッーーーー!!」


 魔王の言葉は、強がりでも虚勢でもなく本当に本気を出していなかっただけで、人間達は本気を出した魔王軍の『どう考えても、アカンやつやんこれ』という絶望的にヤバイ力の前に前回と同じく666日間、一方的にボコボコにされてしまいます。


「よーし、今回もこのぐらいしとくか」


 魔王軍が魔界に帰るまでに、人間達は今回もいっぱいボコボコされてしまい、もちろん今回も首都は念入りに壊されて、日本は京都から現在の東京に遷都することになりました。


                            おしまい“


 以上が過去に起きた『大厄災』であり、次回起きると予想される年は、前回の666年後の西暦2028年、つまり後5年後とされており各国はそれに備えて、優秀な人材、重火器などの近代兵器を揃えているのであった。    




 #####


 13体の魔王と666年

 キリスト教では不吉な数字とされている。

 ”気付けよ”ってこと

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