第16話 最後のレッスン

「新しい先生を紹介するね。」

必要ないよ。一曲作曲できたし、今日で教室に来るのやめます。「そう。わかったわ。」

先生は私がそう答えることをわかっていたようだった。もう先生のいないピアノ教室に意味は無くなっていた。外に出れば、先生の車を探す。レッスンのある水曜日は日曜よりも待ち遠しい日。


初めて大人の女性に恋をした。

誰にも言えないどうすることもできない17才の恋。いつかこの時を懐かしく、いい思い出として思い出す時が来る。私は初めて作曲したピアノソロ曲に「追憶」という名を付けた。


数ヶ月後。

その封筒には、きれいだが可愛い文字で私の宛名と、差出人に先生の名前が書かれていた。私は丁寧に封筒を開けた。

「遅くなってごめんなさい。今凄く忙しくて、猫の手も借りたいくらいなの。あなたの作った曲を譜面にしました。4分を超える大作です!これから高校を卒業して東京へ行っても元気で音楽活動を頑張ってください。」

手紙と一緒に譜面が同封されていた。私が初めて作ったピアノソロ曲。譜面の上の方には先生の文字で「追憶」と書かれていた。私は手紙を読んだ後、しばらく自分の部屋で立ち尽くした。先生は結婚するのだ。きっと先生は私が恋してることに気付いていた。そんな素振りはしてないし、決して気持ちを口に出さなかった。でも大人の女性はきっと気付いていた。叶わない恋。最初からわかっていた。だから悲しさや悔しさはない。


私は机の引き出しを開け、宝石のような思い出が詰まった譜面をしまった。

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