第15話 ピアノソロ

「受験は大丈夫?それだけが心配。」いつもの狭いスタジオ。ピアノを前に私の隣に座った先生が言った。


夕方の外は少し肌寒い季節を迎えていた。受験は全く気にしていない。気になっていたのは、残り少ない先生とのピアノレッスンのこと。先生は11月でピアノの先生を辞めてしまう。警察官との結婚が決まっていた。


ジョージウィンストンの憧れ愛が1曲まるまる弾けるようになり、次に何の曲を練習するか考えてる時、私は作曲がしたいと言った。

私の家にピアノは無かったが、近所に住む親戚の家にピアノがあり、学校が休みの日は練習することができた。そのピアノで作曲を始めた。バンドの曲は作ったことはあったが、ピアノソロの作曲は初めてだ。


鍵盤に手を置き、心地よいメロディーを探していく。左手のベース音と調和させ、単純なメロディーは思いがけない印象に変わっていく。ピアノソロ曲の構成はあまり知らない。唯一覚えた憧れ愛と、ロックの楽曲構成の要素を残してピアノソロ曲を組み立てていく。


水曜日。私は先生を隣に、少し出来た曲を弾いた。先生はその曲にアレンジを加え、本格的な曲になっていく。その変化に感動しながら曲作りは進んでいく。私が生むメロディーに先生のアイデアを乗せる。そしてそこからまた新しいメロディーが生まれる。音楽に純粋な17才の直感と先生の理論は化学反応を起こし、色鮮やかな音の渦を作っていった。

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