第9話 違和感

ライブが始まってもお客さんは誰も立たず無表情で私達を見ていた。体育館に集められた生徒みたいに。


ライブはみんなノリノリになる。当然のようにそう思っていた。私達もリハーサルを全力でやったものだから、エネルギー切れの状態でいまいちノリきれない。曲は淡々と進んでいった。しかしライブ後半、一気に場の雰囲気が変わる。ノリのいいイメージダウンが始まり、ドラムとベースだけの間奏で私はステージから客席に降りてお客さんの手を引っ張って強引に立たせていった。前例で立ち上がったお客さんから一気にその後ろのお客さんも立ち上がる。


みんな恥ずかしくて楽しむことが出来てなかったのだ。その結界が解かれた時、ホールには手拍子が生まれ、まさにロックコンサートのそれになった。大好きなBOOWYの楽曲にライブ開始からずっと溜めていた10代のエネルギーは爆発した。アドレナリン全開。


曲はオンマイビートに続き、会場のノリは最高だった。そして最後の曲に極め付けのノーニューヨーク。

予定してなかったアンコールにもう一度イメージダウンで応えてライブは終わった。

これから高校卒業までの2年間、地元で圧倒的な人気を誇るバンドはこうして初めてのライブを終えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る