第5話 出会い

父と母、そして私が見守る中、ダンボールの蓋を開けると黒く光るそれは姿を現した。宝箱から宝石が現れたような、そんな感じだった。そっと取り出し抱えてみる。ズシリとくる重み。ツルツルのボディ。

コードを押さえてみる。ネックが細い。押さえる弦が軽い。私が知ってるギターとは全く違っていた。これがエレキギターとの出会いだった。


本屋で買った教則本で基本的な弾き方を学ぶ。左手の運指、チョーキングにビブラート。右手のピッキング、カッティング。どんどん練習する。のめり込むとこの世代の集中力は凄い。



〝何もない〟この頃たまにふと頭をよぎってた。勉強には全く興味を持てず危機感も無し。成績は中の下。兄と姉が通った進学校への憧れはあったが、全く勉強する気がしなかった。何もない。そんな中で出会ったエレキギターと音楽。ギターといえば俺。そんな近い未来を思い描いた。


エレキギターを練習するにあたり、お手本が必要だ。映画のシーンしかイメージがない。エレキギターはどんな音楽で演奏され、どんな音が鳴っているのか。音楽雑誌の新譜アルバムの評価を読み、どのアルバムを聴けばエレキギターを知ることが出来るのか探した。〝キーボードの◯◯が脱退し、ジェイクEリーのギターが圧倒的な存在感〟私はアーティスト名とタイトルをメモして近くのレコード店に向かった。

オジーオズボーンの罪と罰。魔女のような女性と炎の絵のレコードはすぐに見付けることが出来た。

家のレコードプレーヤーの針をそっと下ろす。

ドラムの音と今まで聴いたことのない激しい音、音楽。

「なにこれ⁉︎」

ハードロックを聴いたことのない私はディストーションで歪んだギターの音も、その音楽も全く理解出来なかった。


兄は私にTOTOを勧めた。スティーブルカサーのギターソロで歪んだギターの音が理解できるようになった。「そうか、オジーオズボーンのアルバムで鳴ってた音。あれがエレキギターの音だったのか。」繰り返してオジーのレコードを聴くうちにバンド全体で作り出す独特の音楽に惹かれていった。ハードロックにのめり込んでいった。

RAT、モトリークルー、KEEL。その頃はLAメタルの全盛期。歪んだギター、早弾きと長い髪。彼らのようなギターが弾けるようになりたい。必死で練習した。中間テストや期末テストで学校が早く終わる日は最高の練習日。ギターを弾くことに集中し、気が付けば部屋が暗くなっていた。


海外のミュージックビデオを紹介する番組は毎回ビデオに録画した。その中でボンジョビは他のLAメタルバンドと違う輝きがあった。メロディがいい。私が知る日本の歌謡曲とは全く違うタイプのメロディ。スリーピングウェンウェットは私の大好きなアルバムとなり、私はリビングオンアプレイヤーを耳コピして練習した。

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