第4話 バックトゥザフューチャー

中学2年の冬休み。映画バックトゥザフューチャー は公開前から話題になっていた。その時仲の良かった友達と2人で映画を見に行った。

最高に面白い。映画がクライマックスに近づく中、まだまだこの映画が終わらないでほしいと思った。エンドロールが終わり映画館の照明がついた時、館内で拍手が起こった。


帰りの汽車の中、もちろん話は映画のこと。私は主人公のマーティが過去の世界でギターを弾く姿が目に焼き付いていた。今まで感じたことのない胸の高鳴りだった。

「ギターやりたい。」


実は私はギターにのめり込むずっと前、小学校3年生の頃、6才年上の兄の影響でアコースティックギターを少し弾いていた。兄は従兄弟の結婚式で神田川を演奏した。

私は兄が練習する神田川を聴き、兄がいない間にこっそりと幼い体にギターを抱えて音を探した。音の記憶を辿って弦を押さえる。そして神田川のコードを発見していった。その後は長渕剛の曲も音を探して練習した。ただその頃は特にギターに興味があるわけではなく、幼い子供が兄の真似をする、そんな行動の一つだった。


映画の後、家に着いてもギターへの思いは消えない。兄の持っていたギターとは違うギター。音楽。

私は子供の頃から何か欲しくなったら、少ないお小遣いとお年玉を貯めて欲しい物を手に入れた。今回もそうするつもりだった。

エレキギターの種類、メーカー、値段、そのどれも知らない。その当時、同級生にエレキギターを弾いている人は無く、情報はゼロ。楽器という大きな括りを頼りに近所の楽器店に行った。

ピアノとエレクトーンが置いてある店内、数本のクラシックギター。私が期待したギターは置いてなく、カタログをもらって帰った。色々な形と色。それらをステージで演奏する髪の長い外国人。知らない世界がカタログの中に広がっていた。


6万円。カタログの中から選んだギター。中学生の私にはなかなか準備できる額ではない。お年玉では到底足りない。私は母親にギターを買って欲しいとお願いした。母は祖父に頼んでみなさい。と言った。祖父にギターを買って欲しいとお願いすると返事はこうだった。「ギター弾くなら歌が歌えないとダメだろ。歌ってみろ。」唐突な試験。私は兄のギターを抱いて座り、神田川を弾き語りした。祖父はポケットから分厚い財布を取り出した。

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