第73話 1年生の水着が入荷したらしい。

 6月中旬の木曜日の放課後。

 管理部の部室では、いつものように、お茶会が開催されている。

 お茶会の参加者は、かわいい後輩達5名に、僕を加えた6名だ。


 左隣にカンナさん。右隣にチカナさん。正面にリーネさん。

 左斜め前にフランさん。右斜め前にアイシュさん。


 足利あしかが先輩と升田ますだ先輩は、この時間、部室には、いらっしゃらない。

 椅子いすが6つしかないから、後輩達に気を遣ってくださっているのか。

 それとも、結婚が決まった為、男子と同席するのを避けているのか。

 そのあたりは不明である。


「今日は1年しぇいの水着みじゅぎが入荷しゅる日なのでしゅ!」

「もう、そんな日でしたっけ?」

「そうよ。ミチノリさんも去年リーネ達と一緒に、ここで受け取ったじゃない」

「あー、言われてみれば、たしかにそうでしたね」


 アイシュさんとリーネさんの言う通り、今日は1年生の水着の入荷日。

 背後にある予定表を確認すると「水着入荷!」と大きく書いてあった。


 当学園の水着は、スクール水着ではなく、競泳水着だ。

 女子の水着はハイレグで、後ろから見ると背中は、ほぼ丸出し。 

 男子の水着は布の面積が極めて小さく、中身の形状まで分かってしまう。

 どちらも機能性を重視した、とても性的なデザインである。


「テンチョーさん、フランも水着が楽しみ!」

「ヒトスジちゃんの水着も入荷するよねっ!」


 フランさんとカンナさんは、水着の入荷を楽しみにしているようだ。

 昨年度まで小学生だった、かわいい1年生達の水着姿。いいですね。


 しかし、残念な事に、5年生は1年生との合同授業がない。

 したがって、僕はフランさんや丘野おかの君の水着姿を見ることができない。


 合同授業で会えるのは、4年生のカンナさんと、2年生のリーネさん。

 この2人の水着姿なら、去年の合同授業で何回か見せてもらいました。


 カンナさんは、水着の中にパッドを入れて、胸を盛っていましたね。

 リーネさんは、ポロリちゃんの次に小さくて、とてもかわいいです。


「今年もプール掃除ヤルんすよね? お姉さま、張り切ってましたよ」

「あははは、もちろんです。天ノ川あまのがわさんからも、頼まれていますから」


 チカナさんからは、プール掃除の話題を振られた。

 プール掃除は水泳部主体で行われ、管理部が協力する――という形だ。

 升田先輩と天ノ川さんから頼まれて、僕が断る理由もない。


「今年はリーネも参加するわ。ミチノリさん、一緒に頑張りましょう!」

「テンチョーさん、フランも一緒に、お掃除してもいい?」

「もちろんです。人数は多いほうがいいですから」


 今年は、リーネさんとフランさんも参加してくれるらしい。

 最後は去年と同じように水浴び大会になるのだろうか。今から楽しみだ。

(去年のプール掃除は「ろりねこ」第89話です)


「私もヒトスジちゃんと一緒に参加する! 日曜日は、お天気も良さそうだし」

「カンナしゃんが参加しゃんかしゅるなら、アイシュも参加しゃんかしゅるのでしゅ!」

「アイシュが参加するなら、私も参加っすね!」

「ご協力ありがとう。当日は、れても構わない服装で、お願いします」




 プール掃除の全員参加が決まったところで、1年生の水着が入荷した。

 大きな箱の中には、女子用の競泳水着が17着と、男子用の競泳水着が1着。


 1年生は今週中に売店まで取りに来ることになっているのだが、カンナさんが弟の水着を嬉しそうに持ち帰った事は、言うまでもないだろう。






 ――プール掃除当日の朝。


「あはっ、私はネコに呼ばれたので、先に行ってます」

「いってらっしゃい」


 クマさんは体操着に着替え、プールバッグを持って、先に部屋を出た。

 プール掃除には、ネネコさんから、事前に誘われていたらしい。




「ポロリはね、今年もプール掃除のみんなに、おにぎりを作ってあげるの」

「ありがとう。とっても助かるよ」


 ポロリちゃんは、料理部のお友達と一緒に、おにぎりを作ってくれるそうだ。

 料理部のお友達――磯辺いそべさん、大間おおまさん、丸井まるいさん――ご協力ありがとう。




「アマちゃん、ハミ毛とかしてない? よく確認しておいたほうがいいよ」

「そうですね。クリさん、ちょっと確認してもらってもいいですか?」

「――あっ! 私、もう行かなきゃ! ヤバちゃん、待たせてるから!」

「あははは、今日も婚活でしたね。頑張ってください!」


 クリさんは、今日も矢場やばさんと一緒に婚活らしい。

 ハミ毛の心配をしてくれたのは、僕が脱衣所で水着に着替えていたからだ。

 去年は体操着で参加して、パンツまでびしょ濡れになってしまった。

 今年は水着なので、誰かに水を掛けられても問題ないだろう。


 念の為、洗面台の鏡でハミ毛がない事を確認。

 男女問わず、身だしなみは大切ですからね。


 水着で寮の廊下を歩く勇気はないので、上に体操着を着て、準備完了。

 今日は天気も良く、暑い1日になりそうだ。




 プールに到着すると、プールサイドには、ずらりと並んだデッキブラシ。

 そして、約1年ぶりに見る、元ルームメイトの水着姿。


 僕が心の中で「おっぱい国宝」と呼んでいる、素晴らしいおっぱい。

 科学部の副部長であり、水泳部の部長でもある、天ノ川深雪みゆきさんだ。


「天ノ川さん、1年ぶりの競泳水着が、良く似合ってますね!」

「ふふふ……去年より少し太ってしまいましたけど、なんとか入りました」


 なんとか入りました……って、水着を着るだけでも大変という事か。

 まあ、そうでしょうね。


「去年までが細かったんじゃないですか? 今のほうがいいと思いますよ」

「ふふふ……お陰様で、婚活サイトでは、オジサマに大人気です」

「それは、良かったです。いい相手は見つかりましたか?」

「今のところ、総理になれそうな人は見つかりませんね。気長に探します」

「そうですか。頑張ってください。僕も応援してます」

「ふふふ……お互いに、売れ残らないといいですね」

「あははは、そうですね」


「甘井さん、今日は、ご協力ありがとうございます。今、更衣室の掃除から初めてもらっているところですが、去年よりも参加者が多くて助かっています」


「更衣室の掃除って、僕も参加した方がいいですか?」

「いえ、更衣室は女子に任せてください。中で着替えている子もいますから」

「……ですよね」


 プールの更衣室は男女共用だが、大浴場と同じで、僕には使いづらい。


 お嬢様方が着替えている更衣室なら、きっと、いい匂いがするんだろうな。

 そんな事を考えていると、更衣室から水着の女子が出て来た。


 先頭は、やはりネネコさんか。クマさんも一緒だ。


「あれ? ミッチーは水着じゃないの? 去年、びしょ濡れだったじゃん!」

「ちゃんと下に着てるよ。さすがに、寮の廊下は水着で歩けないから」

「うん、うん」


「そんなの気にしないでよくね? 今日、日曜日だし」

「あははは、一応、僕にも『恥じらいの心』は、あるからね」

「うん、うん」


 薄型のネネコさんと、丸型のクマさん。

 元カノと今カノ。おそろいの競泳水着で、2人ともかわいいです。

 これも「相乗効果」ですね。




「ネコせんぱーい! 私を置いて先に行かないでくださいよぉ!」


 次に更衣室から水着で飛び出して来たのは、1年生の田尾たおさんだ。


「べつに置いて来たわけじゃないし。タオリンが遅かっただけじゃね?」

「あはっ、ネコ、ひどい」

「田尾さん、ごめんね。僕が代わりに謝っておくよ」


 ネネコさんは、めんどくさい事が嫌いなだけで、弱者に優しい人である。

 ネネコさんに悪気がない事は、きっと田尾さんも分かってくれるだろう。


 なお、2人と同じ陸上部の宇佐院うさいんさんは、婚活の為、今回は不参加。

 小笠原おがさわらさんは、女の子の理由で不参加らしい。




「天ノ川先輩、更衣室の掃除が終わりました!」

「まだ着替えている子もいますが、異常ありません!」


 続いて出て来たのは、科学部の2人組。

 4年生の板野いたのさんと臼井うすいさんだ。


 天ノ川さんと並ぶと、胸の格差はネネコさんとクマさん以上。

 でも、安心して下さい。僕は控えめな胸も素敵だと思います。




 続いて、水着にメガネという特殊な組み合わせの先輩。

 その隣には、僕を兄と慕ってくれる、お尻の大きな子。

 科学部部長の升田先輩と、科学部員のハテナさんだ。


 さらに、その隣にいる、かわいい子は誰だろう。


「シノビちゃん、メガネなしでも見えるの?」

「よく見えません! 更衣室に取りに戻ってもいいですか?」

「見えないとメガネを探せないだろう? 私も一緒に戻ってあげよう」


 2人が連れていた1年生は、メガネを外した山中さんだった。

 メガネが似合う子って、外しても、やっぱりかわいいですね。

 ちなみに、升田先輩もメガネが良く似合う美人さんです。




「ダビデ先輩、フランがいつもお世話になってます!」

「いえ、こちらこそ、いつも助かってます」


 こちらは、フランさんのお姉さま――4年生の橋下はしもとれいさん。

 ネネコさんと同じ、陸上部員である。

 プール掃除は、今回が初参加らしい。




「ダビデしぇん輩に水着みじゅぎを見られるのは、恥じゅかしいのでしゅ」

「何を今さら。脱衣麻雀の時に、いつも下着を見られてるっしょ」


「テンチョーさんに水着を見られるの、フランも恥ずかしいよ」

「ミチノリさんなんて、いつも全裸よ! 気にしちゃダメだわ」


 続いて、管理部のかわいい後輩達。

 アイシュさん、チカナさん、フランさん、リーネさん。

 4人とも、競泳水着が良く似合っています。




「ダビデ先輩! ヒトスジちゃんを連れて来たよ! どう? 似合ってる?」


 4人の後に、かわいい弟を連れたカンナさん。

 カンナさんは、去年よりも胸が小さくなっているように見える。


「カンナさん、今年は胸にパッドを入れてないんですね?」

「ダビデ先輩が言ったんじゃない! 『入れない方がいい』って!」

「そうですね。パッドで圧迫していると、成長の妨げになりそうですから」


「それで、どう? 水着を見た感想は?」

「いいと思いますよ、競泳水着。カンナさんに良く似合ってます」

「私じゃなくて、ヒトスジちゃんを見てあげて! どう? 変じゃないよね?」


 そうか。カンナさんじゃなくて、丘野君のほうか。

 丘野君は、僕と同じ男子用の水着だ。男の子だから、当然ですよね。


「ダビデ先輩……どうですか?」

「丘野君! こっ、これは……」


 丘野一筋ひとすじ君。体は女の子、心は男の子のトランスジェンダー男子。

 年齢は、まだ12歳。個人差はあるが、性を意識する、お年頃だ。


 保健体育の授業によると、男子は声が低くなり、女子は胸が膨らんでくる。

 男女ともに、あらぬところに毛が生え始めたりもする。


 そして、男子は精通を迎え、女子は初潮を迎える。

 僕の場合、白いおしっこは、かなり遅かったが、丘野君はどうなのだろう。


 丘野君は、ほかの1年生達と比べて、体は、かなり小さい。

 そのため、男の子だと言われても、違和感は、あまり感じなかった。


 実際に、丘野君の胸は、ほとんど平らだ。同年齢の男子と大差ないだろう。

 しかし、僕は「男女の違い」というものをよく知っている。


 女の子は男の子と比べて、乳首が1周り大きい。

 上半身ハダカの、丘野君の乳首は、どう見ても女の子のそれだった。


 丘野君は、男の子だ。

 心でそう思っていても、僕の股間こかんは即座に反応してしまった。

 ああ、これは、僕が何度もお世話になった、ネネコさんの胸にそっくりだ。


「うん。すごく、いいと思う。綺麗きれいで、かわいいよ」


 真っ白い体に、ピンク色の乳首。

 これが男の子であるはずがない。


「ダビデ先輩、なに興奮してんの? ちゃんと水着を見てくれた?」


 ――水着?


「あー、ごめんなさい。つい胸を見ちゃって。水着を見てあげないとね」


 僕が確認すべき点は、丘野君の胸ではなく、水着が変じゃないかどうかだ。

 この競泳水着は、元からオトコである僕でも恥ずかしい。

 丘野君なら、なおさらだろう。

 

 僕は視線を下げ、丘野君の股間を確認。

 まさか、ハミ毛が……なんてことは、ないですよね?


 念のため、しゃがんでよく観察してみる。

 これは、あくまでも、オトコ同士の、水着の確認だ。


 丘野君の股間は、意外と、もっこりしていた。

 というか、しっかりと盛り上がっている。


 モリ●ン? いや、これは……えっ? どういう事ですか?

 

「これ、ちょっと、触ってみてもいいかな?」

「……うん。ちょっとだけなら」


 いや、いや、いや。

 これ、もしホンモノだったら、どうします?

 僕達、ガチホモじゃないですか!


 ――つん、つん。

「――あっ!」


 僕が丘野君の股間をツンツンすると、それなりの反応があった。

 それと同時に、僕は安心した。


 これは、偽りの宝剣だ。

 おそらく、カンナさんがパッドを改造して作ったのだろう。


「どう? 良く出来てるでしょう?」

「たしかに。これなら、どう見ても男の子ですね」


「――だって。よかったね、ヒトスジちゃん!」

「はい、姉さま。ダビデ先輩、ありがとうございます」


「きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ‼」


 ちょっと、皆さん、見てたんですか?

 もっと、掃除に集中して下さい! 僕は同性愛者ではないですからね!




 その後、プールの隅を掃除しながら、元カノ、今カノと3人で会話をした。

 ネネコさんの隣にいる田尾さんにも聞かれているようだが……まあいいか。


「ミッチー、スジタン相手にコーフンしすぎじゃね?」

「いや、あれは、きっと何かの間違いだから」

「うん、うん」


「クマは、ミッチーの相手、ちゃんとしてあげてんの?」

「あはっ、ヤる事はヤってるよ」


「週に何回ぐらい?」

「そんなにしてないよ。月に3回くらいかな?」


「少な過ぎじゃね? それじゃミッチー、すぐに溜まっちゃうじゃん!」


 ネネコさんの言葉を聞き、クマさんは無言で僕の目を見る。

 ここは正直に答えておいたほうがいいだろう。


「それは、あるかも……ごめんね、クマさん。なんか性欲が強くて……」


 でも、いいんですよ、クマさん。

 僕には「チン静の儀式」があります。


 クマさんの分身である熊の抱き枕エヒメさんもいます。

 エヒメさんは、2日に1度、僕にクマさんの匂いを届けてくれていますから。


「あはっ、それなら、今日も、いいですよ!」

「ホントですか? やった! プール掃除の後の、お楽しみですね!」


 ネネコさんのアドバイスに、クマさんが快く応えてくれた。

 元カノと今カノの、素晴らしいチームワークだ。


 こんなに気が利く2人なら、将来、いいお嫁さんになれるでしょう。

 3年後の婚活も、きっと楽勝ですね。


 ネネコさん、クマさん、いつも、ありがとう!

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