第72話 男同士のほうが喜ばれるらしい。
中間試験後の日曜日。
今日は「ダビデ先輩ファンクラブ」のイベント開催日だ。
いつもと同じようにルームメイト達と朝食を済ませてから、209号室に戻って、ベッドの横で制服に着替える。
僕の隣では、クリさんも一緒にルームウェアを脱ぎ、制服に着替えている。
下着姿を見られて恥ずかしい――という感覚は消えてしまったのだろうか。
僕としては得をした気分だが、クリさんは、どうだろう。
さりげなく顔をあげると、クリさんと目が合った。
しかし、気まずい雰囲気ではなく、クリさんは笑顔で僕に話しかけてきた。
「アマちゃん、今日はファンクラブのイベントなんだよね?」
「そうです。もしかして、クリさんも来てくれるんですか?」
「私は、もう『壁ドン』してもらったし、行く必要もないでしょ?」
「ですよね。今日は、お出かけでしたっけ?」
「そうだよ。私に『いいね!』してくれた相手と実際に会ってみようと思って」
「えっ! それって、婚活ですよね? もう『お見合い』するって事ですか?」
「ううん、ただ会うだけ。『お見合い』にしちゃうと断れないから」
「なるほど。実際に会って、確認してみると。1人だと危険じゃないですか?」
「だから、今日はヤバちゃんと一緒に行くんだよ。2対1なら、安全でしょ?」
「お隣の
「もちろん、ヤバちゃんが会いたい人にも、私が同行するんだけど」
「それは、いい考えですね。制服女子が2人なら、相乗効果もありそうですし」
「でしょ? でしょ?」
「あははは、頑張って下さい。僕も応援してます」
クリさんは、208号室の矢場さんと一緒に婚活を開始するらしい。
タイプが異なるので、どちらかに人気が偏ることもなさそうである。
学園の外に出て婚活するなんて、2人とも前向きですね。
僕なんか、まだ心の準備もできていないのに。
「お兄ちゃん、ポロリはね、今日、お友達と一緒にケーキをつくるの」
「あはっ、私は試食係です」
ポロリちゃん達はケーキを作る予定らしい。
クマさんが試食係か。2人とも嬉しそうだ。
「イヨは、ケーキを食べ過ぎて太らないようにね!」
「はい。気を付けます」
クマさんは、
ケーキはクマさんの大好物なのに。
クマさん、心配しないでください。
少しぐらいなら、太っても平気ですよ。
僕はクマさん専用の乗馬マシン。
クマさんは、いつでも、僕に乗ってくれて、いいですからね。
「それじゃ、いってきます!」
「いってらっしゃーい!」
クリさんより先に部屋を出て、イベントの会場へ向かう。
会場は3年生の教室で、ファンサービスは、壁ドン+デコチュー。
教室で壁ドンするなら、ジャージよりも制服の方が似合いますよね。
――3年生の教室に到着。
『明日は兄の日! ダビデ先輩は、私達みんなの、お兄さまです!』
これは、入口のホワイトボードに書かれていた、僕へのメッセージだ。
ちなみに、兄の日は6月6日。今日は、6月5日です。
「ファンクラブ会員の皆さん、ごきげんよう!」
「きゃー! ダビデせんぱーい!」
イベント会場には、20人以上の後輩達が集まってくれている。
かわいい3年生達だけでなく、かわいい1年生達まで来てくれるなんて。
人気がある人に、さらに人が集まるという話は、どうやら事実のようだ。
「
「壁ドン会、始めまーす! おでこを
受付係の
嬉しそうに額を拭く後輩達を見ているだけでも、僕の心は
「私、壁ドンもデコチューも初めて!」
「私も、私も! しかも相手は高校生の先輩だよ!」
「カノジョさんから、許可をもらって、やってるんだって!」
「カノジョさんって、クマちゃん先輩だよね? いいなー!」
「きゃあー! アマイせんぱーい!」
「ノリタン、カッコイイ!」
「ノリタン、背もたかーい!」
1年生達は、とても楽しそうだ。
こちらに大きく手を振ってくれているのは、
「マッシュが似合ってるし、すごくカッコイイよね!」
「ハヤリちゃんが、先輩の髪型を決めてるんだって!」
「推し活に、お金が掛からないのが、いいよね!」
「甘えたら、逆に、お菓子を買ってもらえるのでしゅ!」
「ダビデ先輩なら、いつでも会えるし、みんなと一緒だし!」
「先輩が卒業するまで、あと2年は、私達と一緒だもんね!」
3年生達は「ダビデ先輩」というコンテンツを共有して、みんなで楽しんでいるようだ。スマホ禁止の生娘寮には、娯楽が少ないですからね。
「朝から待っていました! ダビデお兄さま、よろしくお願いします!」
フリーハグの時と同じく、先頭は
今回はオールバックで、おでこ全開の髪型になっている。
「ノゾミさん……じゃなかった、ノゾミ、いつも応援してくれて、ありがとう!」
壁ドンの際は「下の名前を呼び捨て」で。
これは、クルミ会長からの要望である。
「きゃー! 私、今日から顔を洗うの、やめます!」
「あははは、顔は毎朝、ちゃんと洗ってくださいね」
壁ドンした状態で、おでこにキスをする。
温盛さんとは、いい感じの身長差でした。
「よう兄ちゃん、ちょっとニキビがあるけど、気にすんなよ!」
次は
たしかに、おでこにニキビがある。
だが、それもいい。
かわいい女の子のニキビなら、ただのアクセントだ。
「ゲーム、応援ありがとう。これはニキビの薬です。お大事に」
「きゃっ! ……なかなか気が利くじゃねーか。ありがとな!」
デコチューの後、ゲームさんのおでこに薬を塗ってあげた。
これは、209号室の常備薬で、僕が用意したものだ。
ニキビに薬を塗ってあげるのも、ファンサービスの一環。
12歳から15歳くらいまでは、特にニキビができやすい年齢ですからね。
ゲームさんは戸惑いながらも、喜んでくれたようだ。
「あの……ぼくも、ゲーム先輩と一緒に来ちゃいました」
「きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ‼」
ゲームさんの陰に隠れていた小柄な男の子は、
向かい合う制服男子2人に、この場にいる全ての女子が注目している。
自分が壁ドンされるよりも、男子2人を見ているほうが面白いらしい。
これは、丘野君と僕の「相乗効果」と言えるだろう。
丘野君の性的指向は、異性ではなく、同性なのだろうか。
たとえ、そうだったとしても、僕のほうも特に問題はない。
なぜなら、僕の目には、丘野君は女の子に見えているからだ。
丘野君の心が男の子でも、体は女の子。僕は同性愛者ではない。
「ヒトスジ、みんなに注目されているけど、いいよね」
「きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ‼」
丘野君に壁ドンし、そのままデコチューすると大歓声が沸き起こった。
僕は覚悟の上だったが、丘野君は、どうだろうか。
「あっ……ありがとうございます」
恥ずかしそうに頭を下げる丘野君は、かわいい女の子にしか見えなかった。
丘野君、こちらこそ、ありがとう。
「センパイ、もしかして、男の子のほうが好きなんですか?」
丘野君の次は、アラワさんか。
「いや、そんな事はないですよ。僕はゲイではありませんから」
「あっ……、センパイ、顔が近いです」
壁ドンをすると、アラワさんは上目遣いでこちらを見る。
何か悪い事をしているような気分だが、これはファンサービスだ。
「アラワ、来てくれてありがとう。これからも、応援よろしく!」
「きゃあ~! これで、お姉ちゃんに自慢できます!」
「あははは、サラさんには、よろしくお伝えください」
サラさんとアラワさんは、相変わらず、とても仲が良いようだ。
「ノリタン、ノリタン! リータンの言ってた通り、頭いいんだね!」
次は
この子の場合、呼び捨てよりもニータンと呼んであげたほうが喜ぶだろう。
「ありがとう、ニータン。これからも、応援よろしく!」
「よろしくー!」
アラワさんと違って、デコチューしてあげても全く緊張感がなかった。
不思議な気分だ。
「ノリタン、ノリタン! シロも、シロもー!」
次は
小瀬さんと同じで、顔見知りの僕と、一緒に遊びたいだけらしい。
「ありがとう、シロタン。これからも、応援よろしく!」
「よろしくー!」
僕がデコチューしてあげると、ほっぺにチューで返された。
ファンクラブの会員は「抜け駆け禁止」のはずですが……まあいいか。
三輪さんは壁ドンの意味すらも、よく分かっていなかったようである。
この2人には、後で性について、もっと教えてあげないといけませんね。
「107号室の、
「はい。顔も名前も、覚えてますよ」
ニータン、シロタンの次は、伊部
初対面で不審者と思われてしまったので、よく覚えている。
「あの時は、ロリ先輩のお兄さまとは知らずに、失礼いたしました!」
「いえいえ、気にしてませんから」
ポロリちゃんは1年生達から「ロリ先輩」と呼ばれ、慕われているらしい。
兄としては、嬉しい限りだ。
「リコ、来てくれて、ありがとう!」
「きゃー、ロリ先輩のお兄さまに、味見されちゃいました!」
「あははは、とても
そう言えば、伊部さんは料理部員でしたね。
これからも、お料理、頑張ってください。
「104号室の、
「はい。知ってますよ。
「ダビデ先輩は、お姉さまと仲がいいんですか?」
「まあ、それなりに」
「私とも、仲良くしてください!」
「あははは、了解しました。ツキネ、来てくれて、ありがとう!」
「きゃー! ありがとうございます! 次は、チヤちゃんの番だよ!」
「104号室の、
「はい。知ってますよ。
「そうです! ウブお姉ちゃんの妹です。ブーお姉ちゃんじゃないですよ!」
「あははは、それは、高木さん本人も、よく言ってましたね」
「私は、チヤですから。ちゃんと覚えてください」
「了解しました。では、壁ドンいきますよ。チヤ、来てくれて、ありがとう!」
「きゃー! ありがとうございまーす!」
丘野君、アラワさん、ニータンとシロタン。
伊部莉子さん、赤井
1年生で参加してくれたのは、以上の7名だ。
その後には3年生達が続き、最後が
普段から、おでこを見せているので、ニキビもなく、とても綺麗だった。
「クルミ、今の僕があるのは、クルミのお陰だよ。ありがとう!」
「あわわっ、こちらこそ。今日は、ありがとうございましたー!」
――こうして、ファンクラブのイベントは無事に終了。
優嬢学園における「ダビデ先輩」の人気は、さらに上昇したはずだ。
そして、次の日、目が覚めると
夜中にハテナさんが忍び込み、こっそりと履き替えさせてくれたようだ。
期間限定の妹から、僕へのプレゼントらしい。
午後は部活を休んで、209号室でポロリちゃんと一緒にケーキを食べた。
『お兄ちゃん、いつもありがとう!』
これは、かわいい妹が作ってくれた「兄の日ケーキ」に添えられたメッセージ。
昨日、お友達と作っていたのは、このケーキの試作品だったらしい。
ケーキは予想以上に甘かったが、これは味見をしたクマさんのせいだろうか。
――いや、きっと、かわいい妹の笑顔のせいだろう。
ポロリちゃん、僕の妹でいてくれて、ありがとう!
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