第67話 一緒に読みたい本があるらしい。

 クマさんと付き合い始めてから40日が経過した。

 お陰様で、僕達は充実した毎日を過ごしている。


 朝は、クマさんを起こしてあげてから、ベッドでイチャイチャ。

 登校時は、周囲の皆さんにも気を配りつつ、さり気なくイチャイチャ。

 柔道の授業では、クマさんに寝技を掛けてもらってイチャイチャ。

 下校時は、クマさんと手を繋いで歩きながらイチャイチャ。

 夜は、マッサージをしてあげてから、お風呂の中でもイチャイチャ。


 部屋で2人きりになれた時は、イチャイチャした後、その先へ。

 先日、動画で見せてもらったハムスター達のように。


 机の引き出しの中に常備している避妊具コンドームも、順調に消費している。

 もし避妊をしていなかったら、今頃、クマさんは妊娠しているはずだ。


 僕の精子がクマさんの卵子に到達すれば、そこに新たな生命が誕生する。

 オトコである僕には、そんな能力があるそうです。

 それが本当かどうか、試してみる勇気は、ありませんけど。


 クマさんの良いところは、いつも笑顔で、一緒にいて楽しいところだ。

 この笑顔を曇らせない事――これが、カレシとしての僕の責任である。


 僕は今日も、いつもと同じ時間にベッドから出て、洗面所で歯を磨く。

 おはようのキスは、クマさんからのリクエスト。

 口が臭かったら、かわいいカノジョに嫌われてしまいますからね。




「アマちゃん、おはよー!」


 僕が洗面所で歯を磨いていると、クリさんが暖簾のれんをくぐって入ってきた。

 脱衣所を兼ねた洗面所にドアはなく、入口には暖簾が付いているだけだ。

 クリさんからは、僕の足が見えていたのだろう。 


「おはよう、クリさん。今日は、まだ部屋に居たんですね?」


 クリさんは食堂に居ると思っていたが、まだベッドの中に居たらしい。

 気配がないので、全然、気付かなかった。


「ちょっとトイレに行ってたんだよ。今からシャワーを使うけど、いいよね?」

「もちろん、構いませんよ。ごゆっくり、どうぞ」

「あっ、洗濯するなら、これも一緒に洗っておいてね!」

「了解しました」


 クリさんは僕と会話をしながら、パジャマとパンツを脱ぎ、脱衣かごに入れる。

 妹のカレシになら、お尻を見られても恥ずかしくないらしい。


 ――というか、もっと恥ずかしい所も、お互いに見られていますからね。

 ちなみに、クリさんもクマさんも就寝時はブラを着けていないようです。




 歯を磨き終えたら、次は洗濯だ。

 脱衣籠に入っているものは、全て洗濯機に入れて、一緒に洗う。


 洗濯ネットが必要なものは、各自、事前に入れてくれているので、僕の仕事は洗剤を入れてスタートボタンを押すだけ。実に簡単だ。


 クリさんのシャワーが済んだことを確認し、スタートボタンを押す。

 この時間に洗濯をすれば、朝食後に洗濯物を干す事ができる。

 乾燥機付きだったら、干す必要すらないのだが、残念ながら予算不足らしい。




 洗濯機が無事に稼働したので、そろそろクマさんを起こしてあげよう。

 クマさんは、今日も嬉しそうな顔で、寝たふりをしています。

 これは、僕が本当にキスをしているのか、確かめる為だそうです。


「クマさん、朝ごはんの時間ですよ!」

「ふふっ、ふふふふっ……」

「はい。ほっぺにチューしましたから、起きて下さい」

「ふふっ、ふふふふっ……」

「起きてくれないと、ベロチューしちゃいますよ!」

「ふふっ、ふふふふっ……」

「クマさんは、わざと起きないつもりですね?」

「ふふっ、ふふふふっ……ん? んんんっ! ……あはぁっ!」




 舌を挿入したらクマさんが起きてくれたので、3人で食堂へ。 

 今日はポロリちゃんが朝食担当で、クリさんは夕食担当らしい。


「もうすぐ中間試験だねー」

「そうですね。クリさんとクマさんは試験勉強とか、しますか?」


「もちろん、するよ。補習は受けたくないし」

「うん、うん」

「ですよね」


「アマちゃんは、いいよね。学年トップだし……」

「まあ、そうですけど。手を抜くと大石おおいしさんにしかられてしまいますから」

「ミサはガチだもんね」

「うん、うん」


 負けたら悔しがるのが礼儀――これは、大石御茶みささんの哲学だ。

 僕に負けて悔しがってくれる大石さんは、僕にとって、良きライバルである。

 学年トップと言っても、5年生の人数は、わずか18名。今回も頑張ろう。




「――はいっ!」

「はい。クマさん、何でしょうか?」

「私、ミッチー先輩と一緒に図書室で勉強したいです!」

「おー、いいね! それは、私も大賛成!」


 クリさんとクマさんは図書室で試験勉強をしたいらしい。

 この姉妹、そんなに勉強好きだっただろうか……まあいいか。


 3人だけで勉強したら、僕のかわいい妹が仲間外れになってしまう。

 図書室にはポロリちゃんも含めて、アマグリ部屋の4人で行くべきだろう。


「それじゃ、ポロリちゃんも誘って、4人で行きましょうか?」

「いや、私は行かないよ」

「――えっ! クリさんは行かないんですか?」


「アマちゃんがイヨの勉強を見てくれれば、私が見てあげなくてもいいでしょ?」

「あはっ、お姉さま、ひどい」

「なるほど。そういう事でしたか」


 それなら、クマさんと2人だけでいいか。

 クマさんと図書室デート……いいですね。


 ポロリちゃんの勉強は、別の時間に見てあげることにしよう。

 かわいいカノジョをでてから、かわいい妹を、ゆっくりと愛でる。

 カノジョと妹は、別腹ですから。




 ――という訳で、今日の放課後はクマさんと図書室で勉強する事になった。


「えへへ、お兄ちゃんもクマちゃんも、お勉強、頑張ってね!」

「あはっ、ロリちゃん、ありがとう!」


 かわいい妹は空気を読んでくれたようで、あっさりと許可してくれた。

 そもそも許可なんて取る必要はないのだが、報告ぐらいはしておかないと。 




 その日の放課後、クマさんと手を繋いで校舎の2階にある図書室へ向かう。

 クマさんは、いつも以上にニコニコしていた。


「実は、ミッチー先輩と一緒に読みたい本があるんです」

「僕と一緒に読みたい本? それって、どんな本ですか?」


「ちょっとエッチな本です。チカ先輩に教えてもらいました」

「チカ先輩のお勧めですか。それは楽しみですね」


 チカ先輩とは、クマさんの部活の先輩でもある、6年生の乙入おといりちか先輩だ。

 エッチなチカ先輩がお勧めする、ちょっとエッチな本とはいったい……。


「あはっ、この本です!」


 クマさんが見せてくれた本のタイトルは「NKY48エヌケーワイフォーティエイト」。

 その下には、「図解、2人で楽しむ仲良しの48手」と書いてあった。


 仲良しの体位が、かわいいイラスト付きで48種類も紹介されているらしい。

 少女漫画のような絵柄だが、登場人物は、男女共に18歳という設定である。


「これは、エッチですね」

「うん、うん」


 これって、実は女の子向けのエロ本なのでは?

 一応、結合部分は見えないように描かれていますが、明らかに入っています。


 なぜ、こんな本が中高一貫のお嬢様学校の図書室に置いてあるのか。

 それは、おそらく、この学園が、お嫁さんになる為の学校だからだ。


 書棚を良く見ると、婚活関係の棚には似たような本が沢山置いてあった。

 きっと、6年生の先輩方が参考書として使用しているのだろう。

 もしかしたら、試験の範囲にも含まれているのかもしれない。


「よし! 早速、借りて帰りましょう!」


 効率の良い勉強法は、インプットとアウトプットを組み合わせる事。

 この本の場合、読むだけでは不十分で、実践してみることが重要だ。


 ――ぱんっ。

「――あだっ!」


「センパイは、興奮し過ぎです!」


「いや、クマさんも、これを読んだら、きっと試してみたくなりますよ」

「あはっ、そうかもしれません」


「試験勉強なら部屋でも出来ますし、図書室には、また2人で来ましょう」

「うん、うん」


 クマさんが「僕と一緒に読みたい本」を借り、2人で寮の部屋へ。

 当学園では、図書室の本は自由に借りられ、手続きの必要もない。




 寮の部屋に戻ると、クマさんと僕は制服を着たまま自分の席に着く。

 4つ並んだ勉強机の、左から2番目が僕の席で、3番目がクマさんの席だ。


 クマさんは嬉しそうに机の上に本を置き、僕がページをめくる。

 これは、試験勉強ではなく、男女の営みについての勉強である。




 最初の体位は、いわゆる正常位。女性が寝て、男性が上だ。


「これは、いつもの僕達と同じかな」

「うん、うん」


 次のページでは、合体したまま、お互いに抱き合っている。


「こうやって、体を密着させるのも、いいよね」

「うん、うん」


 クマさんは無口だが、僕と目を合わせて、嬉しそうにうなずいてくれる。


「こんな風に角度を変えてみると、また違った味わいがあるのかも」

「うん、うん」


 女性の両足が男性の肩の上にあったり、片足だけ抱えていたり。


「正常位だけでも、こんなにバリエーションがあるんですね」

「うん、うん」


 これを見ただけで、世界が広がったような気がする。


「これなんかも、すごく楽しそうですよね」

「うん、うん」


 ここからは、女性が上だ。

 クマさんは大きく頷いてくれた。


「いやー、これは勉強になるなー」

「うん、うん」


 僕はもう「仲良し」に慣れた気がしていたが、それは気のせいだった。

 僕なんか、まだまだ初心者で、「仲良し」は、とても奥が深いようだ。


「クマさんは、これを見て、どう思いますか?」

「2人とも、とっても幸せそうです」


「ですよね。あー、なんだか、僕もクマさんと、したくなってきました」

「あはっ、私も、です」


「まだ夕食まで時間があるし、今から、しちゃってもいいですか?」

「うん、うん」


「どこから、試してみましょうか?」

「センパイは、どれがいいですか?」

「せっかくだから、全部、試してみましょう!」


 ――ぱんっ。

「――あだっ!」


「全部は無理です。私、体が大きいですし、柔らかくもないですから」


 たしかに、立ったまま抱えるような体位は、ポロリちゃんぐらい体重が軽くないと無理だろうし、体を折り曲げるようなアクロバティックな体位は、ネネコさんぐらい体が柔らかくないと無理そうだ。クマさん、無茶な事を言って、ごめんなさい。


「あははは、それじゃあ、できる範囲で、いろいろと試してみましょうか?」

「あはっ、頑張って勉強します!」






 ――ここから先の1時間は、オトナの事情で詳しくお伝え出来ません。


 読者の皆様には「今日はクマさんが上だった」とだけ、ご報告致します。

 ポロリちゃんに見つかってしまいましたが、おとがめはありませんでした。


 クマさん、ありがとう。とっても楽しかったです。

 ポロリちゃんも空気を読んでくれて、ありがとう。

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