第63話 確認をお願いされていたらしい。

「クマさん、今日の予定は、どうなってますか?」

「あはっ、予定は特にないので、午前も午後もいてます」


 ハテナさんをバス停まで送った帰り道。

 クマさんと仲良く手を繋いで歩きながら、今後の予定を確認する。


「それは、昼も夜も、ずっと一緒に遊べるって事ですね?」

「うん、うん」


 いつもニコニコしているクマさんだが、今日の笑顔は、いつも以上。

 仲良し済のカレシだけが見ることのできる、クマさんの真の笑顔だ。


「2人だけでイチャイチャするのはいいけど、部屋でヤルなら、午後からにしてね。午前中は、ゆっくり休みたいから」


 僕達の前を歩くクリさんが、振り返って、こちらにくぎを刺す。

 クリさんは日頃の睡眠不足を補う為、今日の午前中は部屋で休む予定らしい。


 休みの日も早起きして、みんなの朝食を作ってくれているクリさん。

 きっと、今も眠いのだろう。


 僕達のせいで、さらに寝不足になってしまったら申し訳ない。


「了解しました。午前中は部屋の外で、イチャイチャさせてもらいます」


 ――ぱんっ。

「――あだっ!」


 クリさんへの返答に対し、クマさんから強く肩を叩かれる。

 この発言に、何か問題があるのだろうか。


「部屋の外でエッチするのは、恥ずかしいです」


 クマさんは僕との性行為なかよしを強く意識してくれているようで、顔が真っ赤だった。


 いや、僕は「外でイチャイチャさせてもらいます」と言っただけで、屋外でエッチなことをするとは一言も……まあいいか。


「では、午前中は部屋の外で遊んで、午後から部屋の中で、しましょうか?」

「うん、うん」


「そうしてくれると助かるよ。午後は部屋を空けてあげるから」

「あはっ、お姉さま、ありがとうございます」

「ありがとうございます、お姉さま」


「いいね、その呼び方。アマちゃんが、私の弟になったみたいで」

「クマさんの、お姉さまなら、僕にとっても、お姉さまです」


「ホントはアマちゃんのほうが年上なんだけどね」

「あははは、『1日だけ』ですけどね」


 クリさんの誕生日は10月12日で、僕の誕生日は10月11日。

 これは、僕達が仲良くなれたきっかけでもある。

(詳しくは「ろりねこ」第151話をご覧ください)


「ミッチー先輩の、お誕生日は10月11日。私も覚えました」

「ありがとう。クマさんの、お誕生日は1月でしたよね?」

「はい。1月の4日です」


「1月4日生まれだから、イヨ。覚えやすいよね」

「なるほど。1月4日生まれだから、名前がイヨさんなのか」

「うん、うん」


 クマさんのフルネームは熊谷くまがい伊予いよさん。

 名前の通りクマ好きである。


「愛媛県で生まれた――という訳ではないんですね?」

「はい。生まれたのは埼玉県です」


「そう言えば、たしか埼玉には『熊谷くまがい』って駅もあったよね?」


「お姉さま、その駅は『クマガイ』じゃなくて、『クマガヤ』です」

「あれ? そうだったっけ?」


 クマタニと書いて、クマガイだったりクマガヤだったり。

 日本語って難しいですね。






「それじゃ、私は部屋で休んでるから、イヨをよろしくね!」

「了解しました」

「あはっ、お姉さま、ごゆっくり」


 学園に到着し、校舎の前でクリさんと別れる。

 ここからは、クマさんと2人きりだ。


「部屋の外で遊ぶ」と言っても、場所は学園の敷地内。


 ネネコさんとは、非常階段や体育倉庫で「仲良し」した事もあるが、インドア派のクマさんと一緒に遊ぶなら、どこがいいだろうか。


「――はいっ!」


 僕が迷っていると、クマさんが元気よく右手を挙げる。

 行きたい場所は、すでに決まっているのかもしれない。


「はい、クマさん、なんでしょう?」

「私、歩いたら、おなかすきました!」


 そうでしたね。クマさんは性欲よりも食欲が優先するタイプ。

 まずは、クマさんの食欲を満たしてあげよう。


「了解しました。では、売店で何か買いましょう」

「あはっ、やった!」


 クマさんは大喜びで、僕の腕にコアラのようにしがみつく。

 コアラにしては大きすぎるが、コアラよりもずっとかわいい。


「クマさん、おっぱいが当たってますよ」

「これは、当ててるんです」


「僕も、当てていいですか?」

「あはっ、それは、お昼を食べてからです」


 あの、お昼どころか、まだ9時半なんですけど……まあいいか。


 クマさんと腕を組んだまま、校舎内の売店へ。

 目指す場所は、ヨーグルトやプリンが並ぶデザート売り場だ。


「私、これにします」


 クマさんが選んだ商品は、カロリー高めのジャンボプリン。

 小腹を満たすには、丁度良さそうだ。


「じゃあ、僕は、これで」


 僕がカロリー控えめのフルーツゼリーを選ぼうとすると、クマさんの表情が曇る。

 これは、良くない選択だ。


 体重を気にしていたはずのクマさんが、勇気を出して、ジャンボプリンを選んだのだから、カレシである僕も同じリスクを背負ってあげなければ。


「あっ、やっぱり、僕もジャンボプリンにしようかな」

「うん、うん」


 ジャンボプリンを手にすると、クマさんの表情が、とても明るくなった。

 今後もクマさんと一緒の時は、出来るだけ同じものを選ぶことにしよう。




 ジャンボプリン2個のバーコードをスキャンし、僕のJOCAジョーカで全額支払う。

 クマさんは、素直に喜んでくれている。


 クマさんに性欲を満たしてもらう代わりに、クマさんの食欲を満たしてあげる。

 これは、男女の正しいあり方だと、僕は思っている。




「あーっ! クマしゃんばっかり、じゅるいのでしゅ!」

「クマちゃんは先輩のカノジョなんだから、当然っしょ」


 プリンを2つ買ったところで、背後から叫び声が聞こえた。

 この声は、3年生の2人組。アイシュさんとチカナさんだ。

 どうやら、こっそりと僕達の様子を見ていたらしい。


「あはっ、3年生の先輩方に見つかっちゃいました」

「問題ないですよ。2人とも売店の関係者ですから」


「ダビデしぇん輩は、アイシュ達にもプリンをおごるのでしゅ!」

「あははは、了解しました。では、プリンを後2つ追加で」


 アイシュさんの、おねだりに応えて、プリン2つを追加購入。

 僕が安心してクマさんと遊べるのは、アイシュさんやチカナさんのお陰だ。


 売店の仕事の報酬は、学園から毎月JOCAポイントで支払われているが、報酬の額は年功序列になっていて、下級生より上級生のほうが、もらえるポイントが多い。


 その為、先輩が後輩に、お菓子をおごるのが、管理部の伝統となっている。




「先輩も部室で一緒に食べましょうよ。クマちゃんも早く食べたいっしょ?」

「うん、うん」


 クマさんはチカナさんの誘いに2回うなずく。

 4人で一緒に食べたいのではなく、プリンをすぐに食べたかったのだろう。




 こうして、午前中は管理部の部室でプリンを食べる事になった。


 5年生と3年生は合同授業がない為、あまり接点がないのだが、3年生と2年生は音楽や体育の合同授業がある為、それなりに仲がいいらしい。


 アイシュさんは、クマさんから僕の私生活や性癖を聞き出そうとしている。

 クマさんは終始笑顔で、僕のいい所だけをアイシュさんに宣伝してくれた。

 ありがとう。クマさん。


 チカナさんは、クマさんに気を遣いつつ、次回のファンクラブのイベントについて相談してくれた。


 次回のイベントは中間試験の後で、内容は、予想通り「壁ドン会」らしい。


 前回は「握手会」のオプションとして「フリーハグ」があったが、「壁ドン会」にもオプションをつける予定だそうだ。


 チカナさんからの「お願い」に対し、クマさんは「あはっ、それくらいなら、いいですよ」と答えていた。いったい、次は何をさせられるのか、今から楽しみだ。




 その後、4人で寮の食堂へ行き、一緒に昼食をとった。


「ダビデ先輩ファンクラブ」には「抜け駆け禁止」というルールがある為、3年生の皆さんは、僕を食事に誘う事ができない。


 今日はクマさんがアイシュさんとチカナさんを誘ったので、ルール違反ではない。

 そういう事にしておきましょう。






 そして、午後の1時以降は、部屋でクマさんと2人きりの、お楽しみタイム。

 一緒に、お風呂に入ってから、僕のベッドで、ゆっくり、まったりと。


 いつものように全身マッサージで、クマさんにリラックスしてもらい、僕が我慢できなくなってきたところで、避妊具コンドームを装着する。


「クマさん、そろそろ、いいですか?」

「もちろん、いいですけど……その前に、確認しても、いいですか?」


「はい、どうぞ。ほら、ちゃんと着けてますよ」

「そっちじゃなくて、袋のほうです。アヤちゃんから、頼まれていたので」


椎名しいなさんから? それって、もしかして……あっはっはっ、くすぐったい!」

「あはっ、やっぱり、無理でした」


「それは、そうですよ。左右の玉の入れ替えなんて、不可能ですからね」

「ごめんなさい。痛くなかったですか?」


「あははは、痛いどころか、さらに元気です。では、始めましょうか?」

「うん、うん」




 ここから後は、誠に申し訳ありませんが、大人の事情で割愛させて頂きます。

 クマさん、今日も1日、楽しませてくれて、ありがとう。






「――ダビデ先輩、クマちゃんとのエッチは、もう終わったん?」


 目覚めると、ベッドの横に、控えめな胸の、かわいい後輩が立っていた。

 管理部の4年生で、売店の副店長であるカンナさんだ。


 最近は弟のヒトスジ君にベッタリで、部屋に遊びにくる事もなかったのだが。

 ちなみに「終わったん?」は、気を抜くと、たまに出てしまう群馬弁らしい。


「あれ? なんでカンナさんが、僕の部屋にいるんですか?」


「だって、最近、私の出番が少ないでしょ? ポロリちゃんもだけど」

「いや、小さくてかわいい妹なら、明後日には、戻ってきますよ」


「その前に、お尻が大きな妹ちゃんが、戻ってくるよね?」

「さすがカンナさん、よくご存知ですね。ハテナさんは、多分、明日です」




「次回予告! カレシと再会したハテナちゃんが、生娘寮に戻ってくるよ! 年上のカレシと仲直りできたかな? エッチも、しちゃったのかな?」


「なるほど。これは予告編でしたか」


「『ろりくま』第64話! 『イケメンにも弱点があるらしい』お楽しみに!」

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