第2話 クマさんはカレシ募集中らしい。

 室内ミーティングの後は、この部屋で生活を始める為の準備の時間だ。

 4人とも部屋の奥へ移動し、各自で運び込んだ荷物を展開する。


 部屋の奥の右側、窓のある東側の壁に向かって4つ並んだ勉強机は、手前からクリさん、クマさん、僕、ポロリちゃん――の机で、この席順は、姉または兄が妹の右隣に座って、妹の勉強を見てあげる事が前提となっている。


 ポロリちゃんと僕の席は101号室の時と同じ位置で、天ノ川さんが座っていた位置にクリさん、ネネコさんが座っていた位置にクマさんが座る事になる。


 部屋の奥の左側には2段ベッドが2台設置されており、手前側のベッドがクリさんとクマさんのベッド。奥側がポロリちゃんと僕のベッドだ。


 僕は、まず自分の机の引き出しに、101号室から運んできた数々の宝物をしまい込む。ルームメイト達に見られたくないものもいくつか含まれているので、クリさんとクマさんがセーラー服などをハンガーに掛けているすきにこっそりと。


 最初の宝物は、僕の元カノの乳歯だ。これは昨年の春に僕が抜いてあげた左右2本の奥歯で、そのお礼として本人からもらったものである。


 この小さな歯を見ると、当時のネネコさんの笑顔を思い出す。「要らなかったら捨てていいよ」と言われても、捨てるに捨てられなかった思い出の品だ。


 2つ目の宝物は、ハテナさんからもらったゴムの伸び切ったパンツ。


 ポロリちゃんと仲が良いハテナさんは、僕の事を「お兄さん」と呼んで慕ってくれていて、これは本人が使用していたパンツを僕の誕生日にプレゼントしてくれたものだ。客観的に見たら危険な品でも、僕にとっては素敵な宝物である。


 3つ目の宝物は、「校外持ち出し禁止」の下着カタログ。


 これは、管理部が独自に作成した販促用の下着カタログで、3年前に作られたものだ。当時2年生だった羽生嵐茜はぶらしあかねさんがモデルを務めているのだが、この方は優嬢学園を3年で卒業し、その翌年に16歳で結婚したレジェンドである。


 僕が今ここに居られるのは、この方が卒業する事によって欠員が出たお陰らしい。


 本日、令和4年4月1日より、女性が結婚できる最低年齢が男性と同じ18歳に引き上げられた為、僕と同い年で現在16歳の出口でぐち(旧姓:羽生嵐)茜さんは、「16歳で結婚できた最後の世代の女子」という事になる。


 僕は本人にお会いした事がないが、このカタログを見た限り、同学年では「抜けてかわいい」(←ダブルミーニング)女の子だと思う。


 あとは、未使用のコンドームが10個ぐらい。

 これはカノジョと「仲良し行為」をする際には、必須のアイテムだ。


 この学園を卒業するまでには使い切りたいところだが、また使う機会が訪れるかどうかは、元カノであるネネコさんの気分次第。若しくは、僕の努力次第だろう。


 ルームメイト達に見られたくないものは、このくらいだろうか。


 手芸部のリボンさんからもらった「ネネコさんに良く似た猫のぬいぐるみ」は、前の部屋と同じように、机の上に置いても問題なさそうだ。


 美術部の脇谷わきたにさんからもらった柔肌やわはださんの裸の絵と、先月卒業された口車くちぐるま先輩からもらったユウナ先輩の裸の絵は、この部屋に飾ってもいいのだろうか。


「――サラちゃんとユウナ先輩かぁ。いいんじゃないの。綺麗きれいな絵だし」


 クリさんは、あっさりと許可してくれた。


「うん、うん」


 クマさんも同意してくれたようだ。

 女の子が女の子の裸の絵を見ても「綺麗な絵」としか思わないらしい。

 それ以上の感情が股間こかんから沸き上がって来るのは、やはり僕がオトコだからか。


「ありがとうございます。では、こちらに飾らせてもらいます」

「えへへ、よかったね、お兄ちゃん」


 僕がベッドの横に2枚の絵を飾ると、かわいい妹も一緒に喜んでくれた。

 美術部の皆さん、頂いた絵を「性的な目」で見てしまってごめんなさい。






「ダビデ先輩、先ほど言った相談事ですけど、今からでもいいですか?」


 荷物の展開作業が終わり、自分の席に座ってくつろいでいると、僕の右隣に座ったクマさんから声を掛けられた。


 何か僕に相談したい事があるらしいのだが、クマさんの表情は明るく、とても悩みがあるようには見えない。


「いいですよ。クリさんおねえさまやポロリちゃんには、聞かれてもいい話なんですか?」

「はい。それは全然構いません」


 クマさんが椅子いすを少し後ろに下げて、右隣に座るお姉さまにも話を聞かせようとすると、クリさんは会話に参加する為に、自分の座る椅子をこちらに近付ける。


 ポロリちゃんだけ仲間外れにするわけにもいかないので、僕も椅子を引くと、かわいい妹は、ニコニコしながら自分の椅子をこちらに近付けてきた。


「それでは、遠慮なくどうぞ」


 個人的な相談事ではなく、この部屋に関する相談事なのだろうか。

 僕は、そんな事を考えていたのだが――


「ダビデ先輩、『ネコと別れた』って、ホントですか?」


 ――それは予想外の、僕個人に関する質問だった。


「えっ! なに、その話? しかも、それを本人に直接聞いちゃう?」


 クマさんの単刀直入な質問に、クリさんも驚いている。


 ネネコさんとは昨日、別れたばかりなのに、もううわさは広まっているらしい。

 まあ、うそをつく必要も無いので、ここは正直に答えておこう。


「はい。クマさんは、良くご存知ですね」

「今日、ネコから聞きました。エイプリルフールでは、なかったのですね」


 情報源ソースは、ネネコさん本人でしたか。


 ネネコさんとクマさんは、お互いに「クマ」「ネコ」と呼び合っている仲だ。

 カレシと別れた事をすぐに報告するのも、おそらく当然の事なのだろう。


「えーっ! すごく仲が良さそうだったのに、なんで別れちゃったの?」

「うん、うん」


 今度はクリさんからの質問で、クマさんも理由を知りたいらしい。

 ネネコさんからは、僕達が別れた理由までは聞かされていないという事か。


「もともと昨日までの期間限定でしたから、ただの『期限切れ』です」

「アマちゃんがカノジョを振った訳じゃないんだ?」

「そんなひどい事はしませんよ。未練があるのは、むしろ僕の方です」


 僕はネネコさんに交際期間の延長を申請したのだが、却下されてしまった。


 お互いに将来を誓い合った仲という訳でもないし、「別れが辛くならないように」と最初から交際期限を定めていたのだから、これは仕方がない事だ。


「やっぱり、カノジョがいないと寂しいですよね?」

「あははは……まあ、そうですね」


 ネネコさんが寮から消えたわけではないのに、カノジョという概念は失われた。

 クマさんが僕に同情してくれても、僕には苦笑いを返す事しかできない。


 カノジョ持ちの良いところは、やはり心と性欲が満たされるところだと思う。


 ネネコさんは、「別れた後も、したくなったら、ボクとエッチすればいいじゃん」なんて言ってくれたが、次の機会は、いつになる事やら……。


「ポロリもね、お兄ちゃんには、カノジョがいたほうがいいと思うの」


 そうだよね。僕にカノジョがいないからと言って、ポロリちゃんにカノジョの代わりになってもらうわけにもいかないもんね。


 それに、「カノジョがいるお兄ちゃん」の方が、「カノジョがいないお兄ちゃん」よりカッコイイよね。それは僕にも、なんとなく分かるよ。


「――はいっ!」


 落ち込んでいる僕とは対照的に、クマさんが元気良く手を挙げる。

 クマさんは、相変わらず楽しそうだ。


「はい。どうぞ」

「――あのっ! 私も今、カレシ募集中ですっ!」

「おーっ! ここで、いきなり告白? なんか面白くなってきたなぁ」


 クマさんの発言に、クリさんは大喜び。

 クマさんの相談事って、この事だったのか。


 うちの学園は、人里離れた山奥にある全寮制の女子校なので、カレシの供給が需要と比べて圧倒的に少ない――というか、皆無だ。


 クマさんにとっては、カレシを作る千載一遇のチャンスなのかもしれない。


 これは、僕にとっても渡りに船。カノジョと別れたばかりで、すぐに別の女の子から声を掛けてもらえるなんて、ありがたい事だ。


「いいんですか? クマさんと僕では、全然、釣り合いが取れませんけど……」


 そもそも僕は、優嬢学園のお嬢様方とは全く釣り合いが取れていないオトコである。こうして、後輩の女の子と普通に会話できている事自体が不思議なくらいだ。


 もちろん、僕は元カノのネネコさんとも全然、釣り合いが取れていなかったのだが、性格と体の相性に関しては最高だったと思う。


「あっ、ごめんなさい。そうですよね。私じゃ全然、先輩に釣り合わないですよね。

 ――でしたら、先輩はカノジョを欲しがっている男の子を私に紹介して下さい。私もカレシを欲しがっている女の子を先輩に紹介して上げますから」


 ちょっと会話がみ合っていない気がするが、まあいか。クマさんは大人しい子だと思っていたけれど、意外と積極的で、それでいて謙虚な性格なのだろう。


「なるほど、お互いに相手を紹介し合う作戦ですね。でも、ごめんなさい。僕には同性の知り合いなんて、マー君ぐらいしかいませんから」


 マー君とは、寮の育児室にいる新妻にいづままさる君(1歳10ヶ月)の事だ。

 僕達5年生の担任――新妻みさお先生――のご長男である。


 クマさんのカレシになってもらうには、まだ早い年齢だし、母親代行の横島よこしまさんだって「12歳も年上の女性との交際」を許してはくれないだろう。


「そうでしたか。ダビデ先輩には、お姉さまを紹介してあげようかと思ったのに……残念です」


「私? ちょっと! 勝手に姉を売らないでくれる? ――っていうか、ホントに私がアマちゃんをカレシにしちゃったら、イヨはどうするの?」


「あっ! それは、ダビデ先輩が、お姉さまの事を『好き』って、おっしゃっていたので……でも、男の子を紹介してもらえないなら、お姉さまは紹介できません」


「なんだ。そういう事か。――それで、アマちゃんはどうするの? 今日からイヨと付き合っちゃう? 私もカレシいないけど、募集はしていないからね」


 なぜか姉妹で盛り上がっているようだが、この姉妹なら、どちらも「エッチなかよししたいと思える相手」なので、特に「お姉さまのほうが好き」というわけではない。


「本当に、いいんですか? 実は『エイプリルフール』だったりしませんか?」

「そんな事ないよね? イヨにカレシがいるなんて話、私も聞いたこと無いし」

「うん、うん」


 クマさんがカレシ募集中という話は本当のようだ。


 クリさんはカレシを募集していないそうだが、もしかしたら、現時点で、もう就職活動(=婚活)を開始しているのかもしれない。


 うちの学園では、5年生で面接(=お見合い)を受け、17歳のうちに内定をもらう(=婚約が成立する)人が多いらしい。


 僕はオトコなので、まだ焦る必要はないと思っているのだが……。


「えへへ、クマちゃんならネコちゃんとも仲がいいし、ポロリも賛成なの」


 僕がクマさんと付き合う事に、かわいい妹も賛成してくれた。

 ――となると、あとは僕の返答次第か。


「――分かりました。クマさんがカレシを募集しているという件に関しまして、お姉さまからも許可を頂けるというのでしたら、応募を前向きに検討させて頂きます」


「もちろん、私は反対なんてしないよ。イヨは、もう13歳だからね」


 クマさんは、もう13歳――クリさんの言う通り、ここでは「まだ13歳」ではなく「もう13歳」という考え方のほうが普通なのだ。


 今日から法律が変わって、日本人は18歳で成人という事になったらしい。

 13歳のクマさんがオトナになるまで、あと5年しかない。

 16歳の僕は、あと2年。おそらく、あっという間だ。


「――あのっ! お返事は、いつ頂けますか?」

「そうですね……今日はエイプリルフールですから、明日中には、必ず」


 即答しても良かったのだが、これはネネコさんにも報告しておかないと。

 僕の一番の親友は、元カノとなってしまったネネコさんなのだから……。






 ご愛読特典:優嬢学園お嬢様名鑑②

「ろりくま」の第2話を最後までご覧下さって、誠にありがとうございます。


 今回は「ろりくま」からの読者様に向けて、第2話の本文中に登場した8名のお嬢様方をご紹介致します。なお、身長は新学期開始時点の推定身長です。


畑中 果菜 はたなかはてな  2年生の出席番号14番。身長154㎝。

初登場は「ろりねこ」第38話。お尻が大きく内股。髪型は3つ編みのお下げ。

昨年のミチノリの誕生日に自分が使用していたパンツをプレゼントしている。

109号室から203号室に転居。科学部所属。姉は脇谷萌。


羽生嵐 茜 はぶらしあかね  優嬢学園を3年で卒業したレジェンド。

幼妻動画配信者の出口アカネとして、ネットでは有名らしい。

ミチノリが入学できたのは、アカネの卒業によって欠員が出た為である。

在学中は管理部に所属していた。4年生の羽生嵐葵は実の妹。


中吉 梨凡 なかよしりぼん  2年生の出席番号13番。身長151㎝。

初登場は「ろりねこ」第64話。ネネコからはチューキチと呼ばれている。

ネネコからの誕生日プレゼントとして2日間だけミチノリのカノジョになった。

105号室から205号室に転居。手芸部所属。姉は花戸結芽。


脇谷 萌 わきたにもえ  5年生の出席番号18番。身長159㎝。

初登場は「ろりねこ」第20話。絵が上手で、描いた絵は写真のようである。

積極的な性格で、人気漫画家の嫁兼アシスタントとして内定をもらっている。

109号室から203号室に転居。美術部副部長。妹は畑中果菜。


柔肌 晒 やわはださら  4年生の出席番号18番。身長153㎝。

初登場は「ろりねこ」第18話。色白で理想的な体型。性格はおっとり穏やか。

ミチノリとはそれなりに仲が良く、春休み中に101号室で一泊している。

303号室から109号室に転居。美術部所属。妹は第1章で登場予定。


口車 謀 くちぐるまはかり  昨年度の卒業生。当時の身長は168㎝。

初登場は「ろりねこ」第19話。長身で口上手なイケメン女子。

昨年の春、ミチノリにヌードモデルを依頼し、ダビデ像のポーズを取らせた。

優嬢学園卒業後は、新興宗教の教祖様の奥様となったらしい。妹は柔肌晒。


影口 優奈 かげぐちゆうな  6年生の出席番号4番。身長158㎝。

初登場は「ろりねこ」第71話。「ろりくま」では美術部の新部長を務める。

同学年の上佐花、乙入誓と仲が良く、ミチノリには様々な影響を与えている。

205号室から30?号室に転居。美術部部長。妹は入部誘。


横島 黒江 よこしまくろえ  5年生の出席番号17番。身長155㎝。

初登場は「ろりねこ」第73話。家庭的で大人しい性格。胸は大きい。

重度のショタコンだが成績は常に上位で、マー君の母親代行を務めている。

109号室から204号室に転居。文芸部所属。妹は小笠原我寿。


 上記以外にも優嬢学園のお嬢様方が多数登場する予定です。

 お気に入りの子が見つかりましたら、フォローしてあげて下さい。


 それではまた。ごきげんよう。

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