第6話

 結果が良いにせよ悪いにせよ、その場で決着すると思っていた左右輔は予想外の展開に困惑しつつも言われるままベンチに腰を下ろした。そしてその隣に朔良が並んで座る。


 と、彼は当然のようにそう思っていたのでベンチの中心より少し横に寄って腰を下ろしていた。しかし彼女は正面に立ったまま一向に座ろうとしない。

 

「どした?お前も座れよ」


 朔良は首を傾げる左右輔に近寄って彼の両肩に手を置くと、足の間に片膝をついて迫ってきた。ふわりとピンクの髪と甘い香りが鼻先をくすぐる。


「うそクゥン♪」


 いつもより一層甘えた、直接的に言えば声と仕草に心臓が跳ね上がる。


「な、なんだよ…おい、近い、近いって」


 彼女は狼狽する彼の肩から手を放すと代わりにその両頬へ手を添えてコツンと額を合わせた。


「にゃは♪エイプリルフールは四月一日の午前中だけ♪ひとを傷付けるような嘘はいけませえん♪」


 妖しい微笑みで囁く彼女にドギマギする気持ちとは裏腹に、言葉の内容に頭は視界が暗くなるほど冷えていた。

 彼女は左右輔の言葉を嘘と判断したと、彼はそう受け取った。


 振られた。


 ならこの状況は朔良の悪ふざけでしかないだろう。見苦しく嘘じゃないって主張するくらいならこのまま振られたほうがマシだ。

 それより例えそれが悪ふざけでも、彼女に触れられるなら嬉しく思える自分が酷く薄汚れていると感じて泣きそうになる。

 そんな内心を知ってか知らずか、彼女は楽しそうに続けた。


「いけないなあ♪そんないけないお口はあ♪塞いじゃおうねえ♪」


 は?


 思考が追い付くよりも遥かに早く、朔良の柔らかなくちびるが左右輔の口を塞いだ。

 頭の中が真っ白になってしまった彼は、それでも薄目でじっと覗き込んでくる彼女の瞳を直視出来なくて反射的に目を閉じる。

 んふ♪と、朔良が笑うように小さく鼻を鳴らした。同時に重ね合わされたくちびるから彼女の舌が彼の口腔へと押し入る。舌先で歯茎を軽く撫でると歯の間を押し開いてそのさらに奥へと侵入した。


「ん♪ふ♪あふ♪んん♪」


 朔良は口に含んだぬるりとしたものをたっぷりと左右輔へと流し込みながらその舌とくちびるを丹念に貪ると、ようやく一休みと言わんばかりの表情で顔を離す。

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