第2話 招集
その後、私たちは教室に戻ってきたけれど、どこもかしこもやっぱり合唱祭中止の話でもちきりだった。
何しろ「中止になった」ということ以外には何の説明もなかったのだ。
なぜ中止になったのかについてはもちろん、いつ、誰の判断で中止になったのかも。
(ちょっと待ってよ……なんで中止なの?)
うちの学校では、合唱祭は体育祭や文化祭と並ぶ三大行事なのだ。
理由もなく中止になるなんて、正直考えられない。
だから私を含め、ほとんどの生徒は何かしらの説明を期待していたと思う。それなのに、担任の本田先生はその件に触れようとはしなかった。
こちらから訊いてみてもよかったのかもしれない。
でも誰もそうしなかったのは、なんとなく訊いてはいけないような雰囲気を感じたからだろう。あるいは、訊いたとしてもたぶん答えてもらえないだろうという予感が──。
「──おい、木崎。ちょっと」
斜め後ろの席から小声で名前を呼ばれる。
振り返ると、声の主である乾がやや険しい表情でこちらを見ていた。
「これ、どういうことだと思う?」
「どういうこと、って言われても……」
私に訊かれても困る。
彼が合唱祭の中止のことを言っているのはわかったけれど、私だってさっき初めて聞かされたのだ。
ただ、私に声をかけずにはいられなかった乾の気持ちはわからないでもない。というのも、私たちは同じ立場の人間なのだ。それも「合唱祭実行委員会」の委員という、非常に厄介な立場の。
私は「わからない」の意を込めて首を振った。
「──執行部は事情、何か知ってる?」
乾は早々とこちらに背を向け、今度は庄司くん──生徒会執行部の現副会長に話しかけている。
私は淡い期待を胸に彼を見つめたけれど、彼もまた静かに首を振っただけだった。
ホームルームが終わってから、私は改めて乾に声をかけた。
「どうする? 集まる?」
合唱祭実行委員会は、二・三年生を中心とした有志で構成される合唱祭の運営委員会だ。
乾も私も、委員長でこそないけれど中枢メンバーに数えられる立場にいる。三年生なのだから当然と言えば当然なのだけれど。
「そうだな……とりあえず優也に──あ」
優也に何なんだ、と思ったけれど、事情はすぐに察せられた。
制服のポケットの中でスマホがふるえたのだ。急いで確認する。
「あいつの方が早かったな」
乾も同じ文面を見ているに違いない。
たった今届いたのは、委員長である新垣くんがグループ「合唱祭実行委員会」に流したメッセージだった。
年度初めの顔合わせで連絡先を交換して以来、委員会関係の連絡は基本的にスマホのメッセージアプリで行うことにしていたのだけれど、今回のような緊急の招集には本当に便利だ。
そして、新垣委員長の行動の早さはさすがだと思う。
この後には学力テストが控えているため下校時間までは余裕があるけれど、知らせるなら早いに越したことはないのだから。
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