見えない音符を追いかけて
蒼村 咲
第1話 始業式
八月二十五日。晴れ。予想最高気温は三十二度。
暑い盛りは過ぎたものの、夏の気配はまだまだ色濃く残っている。
外よりきっと蒸しているに違いない体育館に詰め込まれた私たちは、それぞれあくびをかみ殺しながら始業式をやり過ごしていた。
そう、今日から二学期が始まるのだ。
(あとどれくらい……?)
私は正面の壁に埋め込まれた時計を見上げた。九時五十分──あと十分か、十五分もすれば解放されるだろうか。
そう思って私は、またこみ上げてきたあくびを我慢する。
特別寝不足というわけでもないはずなのに、式だの集会だの、とにかく大勢が集められてひたすら話を聞くだけの時間は、どうしてこうも猛烈な眠気を誘うのだろう。
まあ、今日みたいな始業式に関しては、ただの休みぼけかもしれないけれど。
きっと、今日という一日はこのどこか気怠げな雰囲気のまま終わる。そして、本格的に授業が始まる明日になって初めて、私たちは夏休みが終わってしまったという現実を痛感するのだ。
それが毎度お決まりのパターンである。
「……えー、なお、今年の合唱祭については、えー、中止することが決まっておりますので、えー、例年のような時間割の変更はなく、えー、午後も普段通りの授業が、えー、あります」
ここがもし小学校だったら、絶対に「えー」の数をカウントされるだろうな、なんてくだらないことを考えていた私は、危うく教務の篠田先生が口にしたとんでもないニュースを聞き流すところだった。
(──えっ?)
もともと静かだったはずの体育館が更にしん、とした。
生徒たち──特に二、三年生だ──は互いに顔を見合わせ、そして思い出したようにざわめきだす。私だって、隣前後に友達がいたら同じことをしただろう。
だって──合唱祭が中止?
先生が注意して一応は静まったけれど、生徒の間には何とも言えない違和感が漂っている。
私をあんなにも支配していた眠気さえ、すっかり霧消してしまっていた。
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