1-3 侍女は絶世の美女で
「やばい……」
世間知らずのオローリン姫も、さすがに周囲が大騒ぎになっていることに気づいたらしく、思わず独り言を愛獣の上で呟いた。
「これはやばい。絶対に、セキにどやされる」
自分付きの侍女のセキの顔が浮かぶ。鬼のような形相で叱りつけてくる顔だ。澄ましていれば、王宮一の美女と謳われる顔が、オローリン姫に向かっては山姥かというほどの恐ろしい顔になる。すべて、オローリン姫のせいなのだが。
(うーむ。見つかったら、1週間おやつ抜きなのは間違いない。どうするべきか?)
姫は、自分が旅に出たことをすっかり忘れて、今日・明日のおやつのことを考えた。セキにはいつもおやつを抜かれる罰を与えられるのだ。
オローリン姫は、愛獣のうえでしばし考え込んだ。
(なんとかセキにバレない方法は……)
その時だった。オローリン姫の後方で、さらなる叫び声が上がる。反射的に振り向いた姫は、
「やっべ」
と真面目な顔でつぶやいた。バカでかい翼を広げた丸い鳥のような物体が、自分に向かって一直線に飛んでくるのが視界に入ったのだ。全身が鮮やかな紫の鱗に覆われて、強い陽射しをキラキラと跳ね返している。巨大な翼を持ち、移動速度は速いが、やたらと丸い体つきに愛嬌があって、使役獣として重宝されていた。もっとも、非常にレアな存在なので、まず一般人が所有することは無いが。
「ココナと来たら……」
ココナと呼ばれるその丸い体に翼がついた紫色の獣の背中には、虹色の髪を振り乱した正装の女性が、憤怒の表情で仁王立ちしていた。ココナの手綱をしっかりと握って、鞭をあらん限りの速さで叩き、オローリン姫に向かってくる。
「セキだよね~……やっぱり」
姫は、眉毛を下げて肩をすくめて、呟いた。愛獣チャロナがふさふさとした茶色い毛をふるわせて「ふおん」と肯定するように答えた。
「ひーーーーーーめえええええーーーーーーー!!!」
オローリン姫の侍女で乳姉妹、そして大陸一の美女と名高いセキが、今にも視線で射殺しそうな目つきで姫に迫ってきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます