1-2 姫、門番を放射状になぎ倒す。

  「わあああああ」

  門番たちが大声をあげて逃げ惑う。

 「ちょっとちょっと、どいて~~~!!」

 今にも門番たちの頭上に、巨大な使役獣チャルナが降ってこようとしているのだ。その上で手綱を捌いている人間が、王宮の奥深くに住まうはずの姫であるなんて、門番たちは予想もしていなかった。

 タンッ。

 巨体の割には軽い着地音とともに、チャルナと姫は門をあっさりと乗り越えた。かろうじて門番たちは踏みつぶされずに済んだが、チャルナの周りに尻もちをついた門番たちが放射状に広がっていた。

 「なっ、何者」

 真面目な門番の一人が、尻もちから態勢を立て直そうとした。それこそが門番の仕事だからだ。通常は、不審者は門の外からやってくるのであり、まさか門の中からやってくるとは予想していなかっただろうが。門番は衛兵の一種なのだから、不審者を誰何するのは正しい任務である。

 「ちょ、待て、待て待て待て待て!!!」

 膝立ちになって腰の剣の柄に手をかけた門番に、隣に尻もちをついていた同僚がすがりつく。柄を抜こうとしていたところにすがりつかれた門番は、もんどりうって2人して転がった。

 「何をする!?俺はあの不審者を―――」

 「あれは王女だ!!オローリン姫だ!」

 緊急事態ゆえに、門番は王族につけるべき敬称などは省いたらしい。

 「えっ?」

 「えっ?」

 ざわめきが放射状に広がっていく。王宮の門の外には、門番だけがいるわけではない。外門の周りには、登庁するさまざまな役人たち、王宮内で使用する食料や布や建築材などを納めに来る業者、さまざまな陳情に来る者、年貢を納めに来る者など、多くの人間で混み合っているのだ。そこへ、珍しい使役獣が王宮内から飛び出してきたのだから、大混乱は必至だった。

 「ええええええ!!」

 「王女?!」

 「いや、あの獣、めっちゃ珍しいって」

 「オローリン姫だって?!」

 「あれ、オローリン姫が悪い奴らをなぎ倒したんだって?!」

 周囲はあっという間に野次馬で埋め尽くされた。

 

 

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