1-1 姫、門を飛び越える

 「姫!お待ちください!」

 両親や家臣たちの悲痛な叫び声を振り切って、オローリン姫は王宮の門を愛獣で軽々と飛び越えた。姫の愛獣チャロナの飛翔能力が高く、そんじょそこらの使役獣では追いつけないのであった。

 姫は当年とって17歳。スニャルダ大陸に広大な領土を持つオローリン・オローリン王国のオローリン朝の正統な生まれの姫君、つまり超深窓のお姫様である。豊かな栗色の髪、栗色の瞳、よく日に焼けた蜂蜜色の肌、よく鍛えられた足と手、そして平凡な顔立ちが、特に気品らしいものも漂わせず、ひたすら元気な印象を与える姫君である。身につけているものだけは、地位にふさわしく、非常に美しい刺繍の施された袂や裾の長い服装であるが。

 つまり、深層の姫君ではあるが、幼少のみぎりより体を動かすことが大好きで、広々とした王宮内の庭を駆け回っていた結果、こんがり焼けた元気な少女ができあがったのである。

 もちろん、王と王妃である両親も並み居る家臣も召使いも家庭教師もみな、彼女をおとなしく控えめな姫として躾けようと躍起になったことは間違いない。しかし、姫の元気が有り余っていたために、真面目な人々の努力はことごとく打ち砕かれ、いつの間にか姫は庭に脱出しているのであった。

 

 

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