第29話 第二区事変9~断罪者Ⅳ~
あちしの胸の中でカチリと音がしたじょ。
「うん、コレでいいんだなー」
あちしの胸から長い爪を引き抜き、満足げに一人頷くエヴァン。
刺された胸を摩り、血や傷どころか服すら破けていない事に、あちしの目が点となってしまったじょ。
「エヴァン、あちしに何をしたんだじぇ?」
「ナナミンの"
「それって……"怪獣化"ってスキルの事じぇ?」
「うーん。正確には怪獣化は"一握りの才能"では無いんだなー。ナナミンの真の力を解放させる為の前段階って所なんだなー。ナナミンのその小さな身体では強大な力を解放した瞬間に即爆散なんだなー。だから、怪獣化は力を一旦内包させる為の器造りってとこなんだなー」
「分かった様な……分かんねぇ様な……。バカなあちしにも理解できる様に、もっと簡単にーー」
突如、あちしの身体の奥底からナニカが激流の様に溢れだす感覚を覚える。
な、なんじょこれ……。身体が張ちきれそうなんだじょ……。
こんなの耐えられないんだじぇ……。
助けーーーー
「ぬがあああああああぁっっっぁぁぁぁぁっぁぁああああああああああ!!!」
あちしは全身に駆け巡る激痛に耐え切れず、絶叫を上げ反射的に地面をのたうち回ったじょ。
「ナナミン、よく聞くんだなー。今、七つのアルカディアダンジョンは一人の男の手によって支配され、世界中を巻き込もうと破滅の道を歩もうとしているんだなー。ナナミンも見ただろ?肉の柱に囚われ哀れな姿となった人々を……。君が見た人達だけじゃ無い。第二区に住まう全ての住人が、悍ましい化け物を生み出す為の贄となってしまったんだなー」
何も考えられ無い……。何も聞きたく無い……。早く、この痛みからあちしを解放して……。
誰でもいい……。あちしを壊してくれじょ……。
痛みで意識が朦朧とする中、霞んでいく視界の先にエヴァンと、いつの間にか見知らぬエルフのお兄しゃんが悲しげな面持ちであちしを見下ろしていたじょ。
「二百年前のあの日、 僕達は、決して到達してはならない神域へと至ってしまった。今、あの地上で起こってしまった事、そして此れから起きるであろう事、あの時、歪な欲望に囚われた仲間にトドメを刺す事が出来ていればこんな事にはなら無かったんだ……」
倒れ伏すあちしを抱きかかえる見知らぬエルフの男。
この人、何だか叔母上に似てるんだじょ……。
それに、この人に触れられていると、痛みがだんだんと引いていく感じがするんだじぇ。
「もう、奴を止める事が出来るのは、使徒として選ばれた君達三人しかいない。どうか、その与えられた力で、世界を救ってーーーー」
叔母上に似たエルフのお兄しゃんの瞳から突然、堰を切ったように涙が零れ落ち、苦悶の表情を浮かべ、あちしの頰を濡らしていく。
「……僕は君を愛してあげる事が出来なかった。病に伏せる最愛の妻も救う事が出来ず、背中を預け合った仲間達が惨たらしく殺されていく様が目に焼き付いて離れない。あの日、あの男の所為で、僕の手から沢山の大切なモノが零れ落ちたんだ。許してくれ……ナナミン。こんな事を願ってしまう情けない僕を許してくれ……」
「とう……しゃま……?」
「あの狂った男に、飛び切りの憎悪を込めた断罪を……」
震えながら告げる男の声色には、後悔、哀しみ、憎悪、そんな感情がごちゃ混ぜになったモノが込められたような気がしたじょ……。
あちしは、その言葉を聞くと、何とか繋ぎ止めていた意識を手放してしまい微睡みへと落ちていったーーー
「飛び切りの憎悪を込めた断罪を……。そんな事を言う為に、あの子の前に現れたんだなー?ルルカン」
「……あの言葉は僕の本心ですから。」
小さなため息ひとつ吐き、ルルカンの肩に触れるエヴァン。
「はぁ……。そうだとしても、あの子に本当に伝えたい言葉があった筈なんだなー。本当に君は馬鹿なんだなー」
両の手を見やり、先程まであった娘の感触の余韻に切なげな笑顔を見せるルルカン。
「僕達の無念を晴れしてくれるなら、愛おしい娘ですら利用してみせますよ」
「やはり君は馬鹿で……嘘つきなんだなー」
エヴァンに触れられたルルカンの肩が脆く崩れ去り、瞬く間に全身が塵となって風に乗って散っていく。
「
エヴァンの聖域である森が、突如大きく揺れ動き、何処からともなく耳をつん裂く唸り声が響き渡る。
『んんまあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁ!!!』
「……始まってしまったんだなー」
断罪者ナナミン、覚醒の刻ーーーー
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