第26話 第二区事変6~断罪者Ⅰ~
「ーーーーなさい」
誰かの声がするじょ。
「ーーーーいつ迄ーーーー」
あちは、一体……。 あぁ、そういえば白いキラキラがあちしの周りに降り注いで、そんで……。そんでぇ……。えーと、その後が思い出せねぇじょ。
「とっとと起きろ!!この、凶暴エルフ!!」
「さっきからピーピー耳元でうっせーじょ!!あちしは今、考え事をしてるんだじぇ!!」
意識が覚醒し、あちしは上体を起こし耳元で囁くヤツに拳をくれてやる。
ガキリッと、あちしの拳を剣の鞘で受け止めたポニーテールのパッツン黒髪女は、眉を吊り上げあちしに怒鳴ったじょ。
「このバカナナミン!!起き抜けの挨拶が、あんたの殺人パンチとか私を殺す気!?ほんと、相変わらずね!あんたは!」
「……お前、誰じょ?」
あちしの言葉に黒髪パッツン女は、何故か目尻に少し涙を溜めて、あちしを指差したじょ。
「あ、貴女の永遠のライバル!!A級冒険者ユーリよ!!私がそんな安い挑発に乗ると思ったら大間違いよ!!」
「…………」
「何、呆けた顔をしてるのよ……。あんたと十回以上は訓練場で闘り合ってるわよ?……まさか、覚えてないとか?……嘘よね?」
あちしはコクリと頷くと、ユーリと名乗った女冒険者は滝のような涙を流しながら、その場でへたり込んだじょ。
「ナナミンのアホ〜〜ッ!毎回、あれだけ私をボコボコにした癖に、覚えてないとか酷過ぎる!ヤリ逃げだぁぁぁぁ!うわーーーーーん」
何だか凄い人聞きの悪い事を言われてる気がするじぇ……。
あちしがおろおろと辺りを見渡すと、第二区の街並みと同様に黒い肉塊に覆われただだっ広い空間に、見知った顔とそうで無い四人の冒険者達があちしの元にやって来たじょ。
「目覚めよったか"暴れん坊"」
「バイ爺。叔母上やゴブイチロウ、他のみんなは何処じぇ?」
見知った顔のバイ爺が困り顔で顎髭を撫りながら首を小さく横に振ったじょ。
「解らん。気付いた時には此処に飛ばされておったわい。此奴らも儂らと同じ口みたいでな」
バイ爺の視線の先に、サラサラの金髪で目元が隠れた印象の薄っすい人族のキノコ頭と、上半身裸で身体の至る所に古傷を付けた筋肉モリモリの兎獣人のおっしゃん。
それと、あちしと視線すら合わせようとしないエルフのお兄しゃん……。
「初めまして"暴れん坊"さん。僕は第七区で主に活動してます。A級冒険者キルナといいます。いや〜、第一区で有名な人外級冒険者ナナミンさんと、こうしてお喋りするのは緊張するなぁ。あの、いきなり襲い掛かって来るとかしないですよね?」
「馬鹿ねぇ。こんなに可愛らしい子が、人とモンスターの区別も付かない程、闘いに飢えた戦闘狂に見える訳ぇ?どうせ、この子の才能に嫉妬した馬鹿共が流したデマに決まってるじゃ無い。あ、私は第四区で活動してるA級冒険者のウーサンよぉ。ヨロシクね。ナナミンちゃん♡」
「悍ましい半獣が、そんな出来損ないに媚を売るか。くく。醜い者同士、お似合いだな」
エルフのお兄しゃんの棘のある物言いに、ウーサンと名乗る兎獣人のおっしゃん?が呆れ顔で肩を竦めたじょ。
「ほんと、凝り固まった古い考えを持つエルフって嫌いだわぁ。ねぇ、気付いてる?貴方、確かに見てくれはいいけど中身は、あの黒いゴブリン以上の醜くさよ?うぅ〜。思い出すだけで吐き気がするわぁ」
「……私を侮辱するのか。殺すぞケダモノ」
「おう。ヤレるもんならヤッてみろよ?糞れエルフが」
おぉ。二人の睨み合う視線の間にバチバチと火花が散ってるじょ。
ケンカじぇ?ケンカが始まるんだじぇ?あちしも混ぜてもらいてぇけど、叔母上にケンカした事がバレたら、また心配を掛けてしまうじぇ……。
あちしが、ウズウズそわそわチラチラしていると、バイ爺のジャンピング拳骨が睨み合う二人の頭に直撃し、その場で唸りながら二人が蹲ってしまったじょ。
「馬鹿もん共が!こんなとこで揉めとる場合か!それと、ユーリもいつ迄泣いとるつもりじゃ!?シャキッとせんか!」
「くぅ〜〜。流石、元人外級冒険者の拳骨。効くわぁ〜〜」
「……ど、どうして私まで」
「お祖父様……。だってナナミンが酷いんですもの」
ほぇ?このユーリって娘、バイ爺の事をお祖父様って……。
そういえば、あちしがイケイケだった頃 、強い奴と闘いたくてバイ爺にケンカ売りに第3区まで行った事があったじょな。
その時、「お祖父様と闘いたくば、まず私を倒して見せる事ね!!」とか言われて絡んで来たクッソ弱ぇ奴がいたじょ!
「ユーリ!!思い出したじぇ!あちしに何度もケチョンケチョンにされても、ハァ。ハァ。言いながら向かって来た変態マゾ女じょ!!」
「語弊のある言い方しないで!てか、人前で変態マゾ女とか呼ぶなんて、私もうお嫁に行けないじゃ無い!罰としてナナミンが私を娶って!!」
……こいつゴブイチロウ並に訳分かんねぇ事言い出したじょ。
やべぇじょ……。やべぇじょ……。
あちしはゴブイチロウと同様の思考の持ち主から逃げる様に違う話題を振ったじょ。
「と、とりあえず。早く叔母上達に合流するんだじぇ!」
「それが出来れば苦労せんわい。よく周りを見てみぃ。このだたっ広い空間には何処にも出入りする箇所が存在せん」
目を凝らして辺りを見渡すと、確かに出入り出来る箇所が一つも見当たらなかったじょ。
「本当じょな。うーん。んじゃ、あちしの拳であの肉壁をぶち抜いて出入り口を作ってやるんだじぇ!!」
あちしが腕をブンブン振り回して準備を始めるとバイ爺があちしの前に立ち塞がったじょ。
「なんじょ?バイ爺、邪魔なんじぇ」
「まぁ……。見とれぃ」
バイ爺が肉の壁に向かってゆらりとした動作で剣を一太刀振るうと、肉の壁に無数の斬撃跡が刻まれ、瞬時にそれが塞がっていったじょ。
「な、なんじょこれ!?」
「あらゆる攻撃が、この肉の壁の前ではほぼ通用せん。破壊もしくはキズを付ける事が出来たとしても、ああやって直ぐさま修復しよる」
あちし、この現象に見覚えがあるじぇ……。コレって……。
「気付きましたか?ナナミンさん。こんな不思議な現象が起こる場所といえば、一つしかありませんよね?」
キノコ頭の言葉通り、あの場所はあちしの拳を持ってしても、破壊は不可能。いや、違うじょ……。破壊は出来ても直ぐさま元の形に戻るように、あそこには不思議な力が働いてるんだじぇ。
あちし達、冒険者にとって最も所縁のある場所。
「あちし達はダンジョンに飛ばされたんだじぇ?」
「ええ。バイエン様が言うには第一から第七区。どのダンジョンにも属さない未知のダンジョンでは無いかと……」
出入り口のない閉ざされた未知のダンジョン……。
不味い事になってしまったじぇ……。
お菓子のストック、もっと持ってくるべきだったじょ!
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