第22話 第二区事変2
「皆の者、良く聴けぃ!!第一区冒険者ギルド、ギルドマスターエネ殿は諸事情により、ギルドマスターの任を降り、再び冒険者として復帰する事になった!!よって、第三区ギルドマスター 、バイエンが代理としてこの場を取り仕切る!!良いな!!」
即席で作られた壇上で抑揚の効いた声を上げ、俺達、冒険者に語りかけるバイ爺様。
エネがギルマスの任を降りて冒険者に復帰した事を聞いた冒険者達が、えらい騒ついとるわ。
「今より二時間程前に、第2区冒険者ギルドから各地区の冒険者ギルドに救援要請の依頼が入り、先程から第2区冒険者ギルドとの通信が出来ん状況じゃ!!先行した各地区の冒険者ギルドの情報では第2区「地下遺跡型」ダンジョンから数匹のゴブリンが外に出て来たそうじゃ!数匹のゴブリン供は第2区の住人に襲いかかり人々を次々とゴブリンに変化させていると聞く!しかし、この情報も確かなものでは無い!各地区の冒険者ギルドも混乱状態で情報が錯綜しとる!」
バイ爺様の熱のこもった言葉に周りの冒険者達に緊張感が走り。我がPTの凸凹エルフ供は、未だげっ歯類の様にサクサク、ビスケットを貪り食うユル珍と、先程まで神妙な面持ちで語っとった変態がニヤけた表情でユル珍に怪しい視線を送る何ともゆるーい空気を作り出しとった。
此奴らに緊張感って言葉はないんか?それにしても此処までエネに促されて勢いで来てもうたけど、また、金のかかる戦いになりそうな気がしよるんよなぁ……。お家帰りてぇなぁ……。
「なあ、エネさんや。俺とナナミンって、冒険者資格停止食らってるよな?この場合どうなんの?不参加でええの?ええよな?良いよって言ってよエニィ〜〜」
「誰がエニィだ。アルカディア始まって以来の一大事に貴重な人外級冒険者二人をギルドが遊ばせる訳無いだろ?状況が分かっているのか?真面目にやれ!バカイチロウ!!」
「困ったゴブイチロウなんだじょ。ほれ、ビスケット一欠けらやるから、ちゃんと祭りに参加するんだじぇ!ビスケットのお礼は、白熊ダディ亭の超ビッグパパッフェで良いんだじぇ?」
誰か〜〜!? 僕の代わりに突っ込んでくれませんかぁ〜〜?
「皆の者、これより第2区へと突入する!第2区の冒険者ギルドからは通信が途絶え、各地区の冒険者ギルドも混乱する程振り回されとる不測の状況じゃぁ!ゴブリン相手だからといって、決して油断はするな!ダンジョンの神々から与えられたこの試練、共に乗り切るぞぃ!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおうっっ!!!」」」」
転移門の広場におる冒険者達が、拳を握り込み一斉に右腕を掲げる。地鳴りが起こるほどの咆哮を上げ、次々と転移門へと潜っていく冒険者達を慈しむ様な視線で送り、俺は転移門と反対側の方へ踵を返す。
「ゼンイチロウはクゥールに去るぜぃ!」
しかし、俺の朱のロングコートの裾を掴んで離さない小さなお手手の持ち主が、俺の向かうべき方向とは逆の方へとずるずると引き摺っていく。
「ゴブイチロウ。訳わかんねぇ事言うなじょ。はよう行くじぇ!」
「いやぁっぁぁぁぁ!?乱暴にせんといて!身体は好きに出来ても、あたいの心まで好きに出来ると思ったら大間違いや!?てか、ナナミン。おっさんは許せるけど、ゴブイチロウは、ほんま止めて!?」
「……お前、本当にバカだろ?」
エネのガチめのバカにシュンとなる俺は、静々とナナミンにドナドナされていく。
……ちょっと興が乗っただけやん。そんな目せんでもええんとちゃう?ゾクゾクするやんけ……。
「はぁ……。分かりやすい男だよ。お前は。ゼンイチロウ、今回の件でギルド本部は戦功大と認められた冒険者、又はPTに対してアルカディア金貨一万枚を褒賞として用意しているそうだ。勿論、依頼報酬とは別口だ。オマケにこの件に絡むモンスターに限りドロップ品の査定を高く見積もるらしいぞ」
ガタッ!!
「ほんまですか!?エネ社長!!」
「ああ。事が事だからな。本部もそれだけ本気だと言う事だ」
キターーーーーーーーッ。永い眠りから目覚めて、碌な金にもならん仕事ばっかやったけど、ここにきて大商いの発生ですわ!!フハハハハハハ。我が世の春が来たぁ。ってやつや。
「い、何時も覇気のねぇ顔のゴブイチロウが、燃えてるじょ……」
「ゼンイチロウは昔から金にがめつい所があるからな。まぁ、金はあいつにとって生命線みたいなものだ。執着する気持ちも分からなくは無いがな」
久々に金貨使いの怪人の本気を披露しようではないか!やったるでぇー。
「よっしゃぁ!凸凹エルフ供、俺に続かんかい!!新生、冒険者PT「金貨の願い」の初陣や!派手にぶちかますでぇ!!」
「あちし……何故かやる気に満ち溢れてるゴブイチロウを見てると、ぶん殴りてぇ気持ちになるのは何故なんじょ?」
「ふふ。何時もやる気の無さそうな男が、急に張り切りだしてあんなウザ顔で仕切ったら、誰だって殴りたくもなるな。しかし、あいつのああいう一面も可愛いとは思わないか?」
「……思わねぇじょ。叔母上、趣味わるいんだじぇ」
「そ、そうかな?」
「おらぁ!いつまでくっちゃべっとんねん!さっきも言うたやろ!?時は金成りや!!はりー!はりーや!!」
なんとも複雑そうな表情の二人を引き連れ、第一区の転移門を潜り第2区の転移門広場へと足を踏み入れ外に出ると。俺の眼前には、先ほど先行した無言の冒険者達の群れと、一目で異常だと理解出来るほどに変わり果てた第2区の街並みがあった。
「な、なんじゃこりゃぁっっ……」
俺の頰に一雫の冷たい汗が伝っていきよる。
建物や歩道などの大半が薄気味の悪いヌメヌメとした黒の肉塊で覆われ、歩道には肉塊の柱が乱立されとる。
よく見るとその肉塊の柱は、僅かに蠢き人の顔だけが剥き出しに晒されとった。
ふと。肉塊の柱に囚われた一人の女性と目が合うと、彼女はボソボソと何かを呟いた瞬間、俺達にも痛みが伝播するかのような絶叫を上げた。
「い、いだぁぃいいいぃいいい!た、たずけぇ…ああああっぁぁっぁぁあああああっぁぁぁああ」
涙を流しながら絶叫する彼女の剥き出しの顔から下の肉塊が縦に裂けていき、ごぽりと粘度の高い白濁した液と共に黒い物体が彼女から溢れ落ちおったーーーー
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