第20話 再結成(エピローグ)

「納得でけへんわ…」


 俺とナナミンの戦いから三日程が経過しよった。俺とエネとナナミンは、第一区冒険者ギルド最寄りにある「熊嵐のブーしゃん亭」と呼ばれる女性に大人気の菓子専門店で茶をしばきながら暇を持て余しとった。


「グチグチ煩い男だな、お前は。たかが、一週間の冒険者資格停止を食らっただけだろ?一週間程ダンジョンに潜らんでもモンスターは逃げはせんぞ。それに私もギルドの引き継ぎやら何やらで忙しいからな。お前達の謹慎は私にとって都合がいいんだ」


 スラリと伸びた脚を組み優雅に茶を啜るエネの姿に、周りの女性客が羨望の眼差しを向ける。


「俺の故郷には「時は金成り」って有難〜い至言があるんや!大体、訓練所を破壊したんも暇人の冒険者供に大怪我負わせたんも全部、このゆるキャラのせいやないか!俺は、お前等の茶番劇に巻き込まれただけやのに、一週間も冒険者資格停止ってあんまりやわ」


 短い脚をブラブラと遊ばせ両の手にナイフとフォークを持ったナナミンが、鼻歌混じりで菓子の到着を待つ。


「おっしゃんは本当に小さい男なんだじぇ。ちんち○も絶対小さいはずじぇ!」


 小さないわい! 鬼の金棒みたいに太くて黒光っとるわい!!

 此処で開帳して、周りの女供をドン引きさせたろか…… 。 いや、そんな事すれば、衛兵が飛んで来て即逮捕やな。一週間、冒険者資格停止どころの話や無くなる。

 此れは勇気ある撤退や!見栄はった訳や無いからね!小さくなんか無いんやからね!


「ナナミン。お食事時にゼンイチロウの小枝の話は、お行儀の悪い事だぞ?」


「グヘェ。ごめんじょ」


 グスンッ。


「はぁ……。過ぎた事考えてもしゃーないか。取り敢えず謹慎が解けたらガンガン、ダンジョン攻略して行くから覚悟しとけよ。特にナナミン。考え無しにお前の「一握りの才能ユニークワン」は使うんやないで。場所によっては俺とエネが圧死するかもしれんからな」


「「一握りの才能」ってなんじぇ?」


「お前が巨大化したやつや」


「あぁ。突然使えるようになった「怪獣化かいじゅうか」って変な名のスキルじょな?アレはあちしもビックリしたじぇ。「断罪者の身の危険が生じた為、閉じられた才能を開花します」って、頭の中に女の人の声が響いたんだじょ……。あちし、あの力はもう使いたく無いじぇ。力もしゅごい漲るし、おっしゃんにやられたダメージも回復したけど、あちしの体があちしじゃ無くなる感じが、凄く怖いんだじぇ。あの力を使って、また叔母上を傷付けてしまったら今度は立ち直れそうにないじぇ」


 しょんぼりとするナナミンに向けて惚けてしまいそうな笑顔で慰めるエネ。


「安心しろナナミン。今度そんな事になりそうになったら、すぐゼンイチロウを私の身代わりにしてやる」


「お前なぁ……」


「それに、そんなショボくれた顔をしていると、お前の大好物も味気ないものになってしまうぞ?」


 そう語るエネの視線の方に目を向けると、この店の制服であろうフレンチメイド風の衣服を身に纏い熊耳、熊尻尾が生えた二人の若い獣人女性の給仕が、俺達の席へ巨大な物体xをサーブしおった。


「お待たせしまた!熊嵐のブーしゃん亭スペシャルメニュー。超熊嵐!蜂蜜ぶっかけシャワー!白濁添えで御座います!!」


 此処の店主は何ちゅう危険なネーミングを付けとんねん。しかし、メニューの名前もヤバイが見てくれもヤバすぎやろ……。

 給仕の女性が二人がかりで運んで来た大皿の上には、色とりどりの果実が皿の縁に散りばめられ、真ん中に巨大なパンケーキのようなもんが二十段程重なっとる。その、巨大な塔のてっぺんに大量に盛られた緩めの白いクリームとアホみたいにぶっかけられた蜂蜜とが混ざり合い、大皿に存在する全ての素材をテカテカとコーティングしとる。


「見とるだけで胸焼けしそうや……。誰や?こんなカロリーのバケモンを呼び出したアホは?」


 吐き気を催す俺の傍に、椅子に乗り上がりピョンピョンと飛び跳ね興奮するアホがおった。


「ふおおおおおぉぉぉ!?こんにゃろ〜〜。今日も蜂蜜のキラキラが眩しいじぇ!唆るんだじぇ!ね。ね。食べていいじょ?食べていいじょね?」


「ふふ。ゼンイチロウの奢りだ。たんとお食べ」


「なんでやねん!?」


 俺の高速のツッコミよりも速く、フォークとナイフを器用に使い己の大口に物体xを頰袋一杯に詰め込んでいくナナミン。口の周りに蜂蜜をべっとりと付着させ、さっきまでのしょんぼり顔が嘘の様に幸せそうな笑顔で咀嚼していくナナミンの姿を見て、俺の胃から酸っぱいものが込み上げてきよる。


「う、うめぇじょ!むぎゅむぎゅ…。あちしの口の中で峯蜜とクリームの甘さが…もにゅもにゅ……。渾然一体となって暴れ回ってるんだじぇ!!悪魔的な美味さなんだじぇ!!」


「うっぷっ……。ヤバい。吐きそうや」


「はぁ…。はぁ…。流石、私の妖精。食べる姿ですら愛らしいなんて。むしろ私はナナミンを食べたいぞ……」


 こいつは何を口走っとんねん?頰を高揚させ野獣の眼光の如く目をギラつかせるエネに、俺が呆れた表情を向けた視線の先には見覚えのある女性が焦った様子で周りを見渡しとった。


「なぁ、エネ。あの娘。お前の所の受付嬢ちゃうん?確かクラレンスって名前やったかな?」


「ん?確かにそうだな。あのサボリ魔、こんな所で暇を潰そうとしてるのか……。死刑だな」


 エネがクラレンスに声を掛けようとした瞬間、彼女も俺達に気づいたのか店内に響く程の大声を上げよった。


「やっと見つけましたよ、ギルマス!!」


 あれ?なんかこの似た様な展開、三日前もあったよな?何か嫌な予感がすんねんけど……。


「第2区冒険者ギルドより救援要請です!!ダンジョンからモンスターが氾濫しました!!スタンピードの発生ですっ!!!」


 アルカディアダンジョンでは決して起こる事は無いと思われたモンスターの氾濫。俺達、新生冒険者PT「金貨の願い」にとって最初の試練が始まろうとしていたーー

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