第19話 金貨使いの怪人VS森の小さな暴れん坊6

 うん。うん。女の子同士が抱き締め合う姿って、なんかええよね。二人の間にあったわだかまりも解消でけたみたいやし、ほんま良かった。


 百合の花が咲き乱れる背景を幻視しながら、エネとナナミンの結末に納得するかのように、俺はほっこりしながら、何度も小さく頷く。小さく…頷く…… 小さく……




「納得出来るかい!?現実逃避してみたけど、納得出来る訳あらへん!!てか、俺の性癖にユリ属性なんてもんは無いんや!!」




「喧しいぞ!ゼンイチロウ!!」




「おっしゃん、うるさいじょ!!」




 俺の魂の一人ノリツッコミに、二人の世界に浸っていた凸凹エルフ共が抗議の声を上げよった。




「煩ない!お前らのしょーもない関係を改善する為だけに、俺は希少な金貨の能力まで使ってもうたんやぞ!! 納得なんか出来るかいな!?」




「しょ、しょーもない関係とはなんだ!?お前のお陰で、私とナナミンの絆が確かなモノになったんだぞ!喜ばしい事じゃないか。なぁ?ナナミン」




「グヘヘェじょ」




 再び見つめ合い、お互いはにかみ合う二人。


 ナナミンの笑い方、うぜぇ……


 苦虫を潰したかの様な俺の表情に、エネはため息混じりに応える。




「金の事を心配しているのか?お前はナナミンに勝ったんだ。ちゃんと約束通り報酬は支払うし、ナナミンも私もお前のPTにちゃんと加入するんだから、悪い事ばかりじゃないだろ?だから、そんな不細工な顔をするな」




 不細工ちゃうもん! 標準やもん!




「最後に使ったあの金貨は金でどうこう出来るレベルの代物やないんや。来たるべき日の為に温存しとった回数制限有りの俺の隠し球…… いや、あの状況で、あの金貨を使うって選択肢以外は無かったけど……けどなぁ、そもそもお前らの茶番劇に、俺を巻き込めへんかったら使う事も無かった訳やし」




 グチグチと小言を言う俺に、エネの鋭い蹴りが俺の尻肉を震わせた。




「ヒギィ!」




「男の癖に細かい事を言うな!私とナナミンがPTに入ると言ってるんだ! そんな訳の解らん力以上に私達が活躍すれば良いだけの話だろ!?」




「う、うーん。さっきも敢えてスルーしたんやけど…… エネさんや。 まさか冒険者になって、俺について来ようとしとる?」




「そうだが?」




 そうだが?(キリッ)ちゃうぞ! なに考えとんのやこいつ。




「叔母上、冒険者になるんじぇ? ……いいなぁ。あちしも叔母上と一緒に冒険がしたかったじょ」




 しょんぼりとするナナミンの広いおでこをエネが微笑みながら指で優しく弾いた。




「ナナミンも人の話を聞いていなかったのか?私とお前で、ゼンイチロウのPTに入るんだ。自分を追い込んでまで強さを求めるなとは言ったが、冒険者まで辞めろとは言ってないぞ?」




「ほえ? じゃ、あちし冒険者を辞めなくてもいいんだじぇ?」




「あぁ。今度からは私が一緒だからな。無茶な事は絶対にさせないぞナナミン」




「やほーーい! おっしゃんの事はどうでも良いけど、叔母上と一緒にダンジョンに行けるんだじぇ!?嬉しいんだじぇ! やほほーーい!」




 エネの周りをぐるぐると小躍りしながら、不思議な踊りを披露するナナミンに、頬を染めながらニヤけるエネ。こいつMPでも吸われてんのやないか…… なんか、怖わなってきたわ。




「あんなぁ。ダンジョンに遊びに行く訳やないんやぞ。ナナミンがPTに入ってくれんのは有難い話やけど、エネはどう考えても足手まといや。受付嬢上がりのギルマスが何の役に立つちゅうーーぶへぇ!?」




 俺の顔面に一枚のカードらしきモノを投げ付けたエネは、腕を組み自慢げな表情を見せた。


 投げ付けられた少し厚みのある黒光りしたカードをまじまじと見る俺の両手は、奴の意外な一面を知って動揺し震えてしもうた。




「嘘やろお前!?これ、冒険者カードやん。しかも、人外級の冒険者に与えられるブラックカード……」




「ただの受付嬢が冒険者ギルドのギルマスなんかなれるはず無いだろ。 お前が二百年も眠りこけている間に、私が何もしてないと思っていたのか?皆んなの仇を討ちたくて私はギルドの受付嬢を辞めて冒険者になったんだよ。まぁ、仲間も作る気にもなれずソロで人外級冒険者に上り詰めたのは良いが、自分一人では限界を悟って一度は引退した身だがな」




 エネの奴、俺らのPTが全滅した後、冒険者になっとったんか… しかも、ソロで人外級の冒険者に成り上がるって相当ヤバいで。ナナミンにしろルルはんにしろ、こいつらの家系は化けモンしか生まれんのか?てか……なんか違和感があるんやけど、なんなんやろか?




「お前が永い眠りから目覚め、再び冒険者となってダンジョンに挑むと聞いた時に、私も決心していたんだ。お前と共に、奴とダンジョンの神々に復讐しようと。しかし、なんだ……なかなか言い出せないでいたんだが、お前から冒険者を紹介して欲しいと聞かされた時に、ナナミンをダシに私もシレッと仲間にして貰おうと思ってな」




 モジモジしながら恥ずかしそうに体をくねらせ、チラチラと俺の方に視線を寄越すエネ。


 恥ずかしがる要素がどこにあんねん。たまにお前の事が理解でけへんぞ。

 しかし、どうしたもんかな・・・こいつ等を巻き込んでええもんなんやろか…



「無茶な冒険になんぞ?お前もナナミンもそれでもええんか?」




「まるで死にに行くような言い草だな。私は誰も欠けさせるつもりはないぞ。誰彼、欠ける事なく奴等に復讐を果たしてやる!お前もナナミンも私が必ず護ってみせるさ」




 エネの瞳に決意の火が灯ったかのように煌めき、力強く右拳を俺の胸元へと押し付けよった。




「新生、冒険者PT『金貨の願い』再結成だ」




 その言葉は俺の心を昂ぶらせ、熱が帯びていく感覚を覚えさせた。




「『ハートに火を付けて』ってか。 へへ。頼りにしてるでエネさんよ」




「あぁ。任せておけ!」




 エネの奴、熱うさせるやん。これからこんな、話を振らなあかん俺の小者加減に嫌気がさすで。


 やけど、聞かずにはおられへんのや。お約束なんや!




「まぁ、その話はええとしてやな。エネよ。お前、ナナミンが巨大化して両手で掴まれた時、自分でどうにか出来たんとちゃうか?人外級冒険者な訳やろ?」




 俺は出来るだけ満面の笑みを顔に貼り付け、エネに問いただした。俺が感じた違和感の正体を白日の元に晒す為に……




「ふっ。あれがモンスターなら私を掴んだ瞬間に細切れだ。私が、あの愛らしい妖精ナナミンを傷付けられると思っているのか?あの子を傷付けるぐらいなら、私は喜んで死を受け入れるぞ!」




 その話を聞き、俺の笑顔が一瞬の内に憤怒の表情へと切り替わる。




「お前の血は何色や!!結局、俺はええように踊らされただけやないか!?希少な金貨の能力を使ってまで、お前を助けた俺の純粋な漢心を踏み躙りやがって!!この、クソ鬼畜詐欺師エルフがぁぁぁぁぁぁ!!!」




「あいつが傷付く事は許容でけへん、 ナントカかんとか、だったか?お前も随分、恥かしい台詞が言えるようになったものだな。だが、ほんの少しだけ胸がキュンとしたぞ。ゼンイチロウ」




「や、喧しいわい!!」




 赤面しながら吠える俺に。余裕ぶった態度で俺を手玉にとるエネ。未だに必死になって不思議な踊りを披露するナナミン。 ……この娘は邪神でも召喚しようとしてんのか?


 ほんま、こんな面子でダンジョンなんか攻略できるんやろか?奴等に復讐なんか果たせる事が出来るんやろか?




 俺の心配を他所に、前途多難な復讐劇が本格的に幕を開けようとしていたーー

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