第17話 金貨使いの怪人VS森の小さな暴れん坊4
いやー。マジでびびるわ。
まさか、あんなズタボロの状態で反撃かまそうとするとは思わんかったで、未遂で済んでほんま助かったわ。
この娘、何に対して執着しとんのか分からんけど、足が縺れて倒れた時分に俺を睨め付けたあの目はヤバすぎるで。真顔でドン引きしてもうたわ。
俺はうつ伏せになってギャン泣きしとるナナミンに視線を落とす。
「……ほんまどうしよこれ?」
闘いに負けたぐらいでこんな泣かんでもええんとちゃいますん。こんな小さな女の子を泣かしたという事実に、俺の心が締め付けられて罪悪感で一杯なんですけど…… もう、終わってええよね?
エネに方に視線を向けると、奴は懸命になって俺に何かを訴えとった。
遠くで聴き取り難いわ。あんだって〜?
「余所見をするな、馬鹿イチロウ!!まだ闘いは終わって無いぞ!!」
焦った様子で吠えるエネに、俺は首を傾げた。次第に客席にいる周りの冒険者達も一斉にざわめき出し、俺の聴覚が間近で何かが軋む音を拾い上げた。
嫌な予感を感じた俺は、軋む音に意識を向けると、先程までギャン泣きしていた小さな体のナナミンが、自身の体躯を軋ませ急速に巨大化していく姿が目に映った。
「あ、あんだって〜〜!?」
い、いや。偉大なる笑いの神の真似しとる場合や無いぞ、これ!
ナナミンは俺が見上げる程のデカさに急成長し、四メートル級の超巨大ゆるキャラへと変貌を遂げよった。衣服も巨大化の際に破れることもなくサイズ調整が行われる親切設計!これ、ヤバいやつや。
この世界に存在する魔法やスキルで、体が巨大化するなんて類のモノは無い。
「『
『 一握りの才能』は創造神がほんの一握りの人類に与えた、この世界のルールから外れた異能の事で、俺の『金貨生成』もこれに当たる。この『一握りの才能』を持つ者には、神から与えられた何かしらの使命があるらしく、過去幾度となく形を変えて訪れた世界の災厄を、『一握りの才能』を持つ英雄達が救ったそうや。
しかし、過ぎた力には、必ず代償が伴う。俺の「金貨生成」も金を支払う事がでけへんかったら、金額次第で命すら取り立てられる。ナナミンもあの巨大化する異能を持っとるって事は、何らかのペナルティーがある筈やねんけど、なんか色々と察しがついてもうたわ。
ルルはんの娘やったら超絶美少女エルフが爆誕しとった筈や。せやけどその娘のナナミンはエルフらしからぬ容姿で誕生した。恐らく、美しい容姿を持つ筈やったナナミンは力の対価として、あんなゆるキャラとしての生を全うせなあかん事になってしもうたんやろな……ほんま、エグい事しよるで、あのクソ邪神。
唖然と見上げる俺に、ナナミンの巨大な瞳がギョロリと動くと、極太の腕を振り上げ、鉄球の様な拳を俺目掛けて勢いよく打ち下ろしたよった。
「ぬおおおおおおおおぉおぉぉおっぉぉぉぉお!?」
体の芯に響く様な恐ろしい破壊音が響き渡り、地面に大きな亀裂が走る。
俺は既の所で、飛び引く様な回避行動を起こし、その衝撃の勢いのまま丸虫の様ににゴロゴロと後転しながら難を逃れた。
すかさず次の攻撃に備えようとナナミンと視線を合わせると、奴は表情を皺くちゃに窄め、再びギャン泣きしおった。
「んまあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鼓膜が弾ける様な泣き声、もとい奇声を上げ。巨大な体躯を子供が癇癪を起こした様な感じでこれでもかと暴れ倒すナナミンは、おもむろに地面を手で掬うように抉り出し、手に持った瓦礫を俺の方やなく、明後日の方へと全力投球しよった。
ドーム状になっとる訓練所には闘う場を囲む様に客席が設けられとる。瓦礫を投げ付けた先には当然、物見に来とった冒険者達が居るわけで、流れ弾を防ぐ様な分厚い壁も魔法の様な障壁が発動する訳でもない。全て自己責任でこの場は成り立っとる。ナナミンに瓦礫を豪速球で投げ付けられたその場所は、阿鼻叫喚の地獄絵図に変わり果て、冒険者達が右往左往し怒声や悲鳴が飛び交った。
そんな怒声や悲鳴も意に介さず、再び同じ動作で瓦礫を無差別に投げ付け暴れる廻るナナミンは完全に自我を喪失しとるようやった。
「暴走してやがる…… 早過ぎたんや」
って、小ネタ挟んどる場合やないな。訓練所におる冒険者供は暴れ回るナナミンを恐れ逃げ惑っとる。ギルドの職員さんが必死なって避難誘導しとるし、此処におっても巻き込まれるだけや。あんな暴走怪獣相手してられるかいな、アレはそのうち口から破壊光線だしよるで。俺も職員の誘導に従って避難させて貰いますかね。何処ぞの小坊主も言うとった。慌てず、騒がず、一休み〜。一休み〜。ってな。
小坊主の心境で、この場を去ろうとする俺の視界の端に、よく知る人物が暴走するナナミンに向かい突撃する姿を捉えてしもうた…… 何やってんのあいつ!?
「エネ!!何やっとんねん!?そんな暴走しとる奴に近ずくなんて死にに行くようなもんやぞ!?はよ逃げぇ!!!」
俺の叫びも喧騒の中に掻き消されエネには届いとる様ではなかった。ナナミンに必死になって、何かを語り掛けるエネに俺は小さく舌打ちをする。
ほんま世話のかかる女やで、ケツ揉むぐらいや済まさんぞ!絶対にや!!
俺の新たな決意表明に、互いに向き合ったナナミンとエネの間で事態が動き出す。
ナナミンの巨大な両の手が乱暴にエネを掴み、高々と持ち上げよった。エネは苦しそうに身をよじらせるも、徐々に握力が強まっているのか、苦悶の表情を浮かべた。
俺はすぐさま、すこぶるキレる鋭利な刃をイメージした「剣」の金貨を一枚生成しソレを放った。狙うのはエネを掴んどるナナミンの両手首を切断する事、逼迫しとるエネの状況を打破する為に、躊躇わず放たれた金貨は黄金色の軌跡を残す速さで、ナナミンの両手首を斬り裂き、そして砕け散った。
そう、切断やなくナナミンの皮膚を浅く斬り裂いただけで金貨が砕けてしまった事に俺は息を呑んでしもうた。
「ドラゴンのクソ硬い体躯ですら切断出来るレベルで生成した高レートの「剣」の金貨を、薄皮一枚斬り裂いただけって……洒落にもならんわ」
焦る俺を尻目に、顔が徐々に青み掛り、生気を失いつつあるエネの表情を胡乱げな双眸で見つていたナナミンが再び奇声を上げおった。
「 んんんまあぁぁああああああああああああ!!!」
ボキッ。ボキッ。と骨の砕ける鈍い音とエネの声にならない悲鳴があがり、真っ赤に充血した瞳から雫が流れ落ちた。
エネと俺との視線が交わった一瞬、諦めるような儚げな笑みを向けられた俺の理性は彼方へとぶっ飛ぶ。
「エネを離さんかい!!このゆるキャラがああああああぁぁぁぁ!!!」
右眼に着けた眼帯を毟り取り、露わになった俺の右眼には、失った眼球の代わりに女性の横顔が彫られた金貨が填められとる。俺にとっての
ーー
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