第14話 金貨使いの怪人VS森の小さな暴れん坊1

冒険者ギルドには必ずといっていい程に訓練場が備わっとる。此処ではあらゆる不幸が黙認される恐ろしい場所や。俺達、冒険者の間では訓練所=決闘場って意味で使われてて、実際糞真面目に訓練しとる冒険者を俺は見た事はない。冒険者なんてやってる奴等は全部とは言わんが、ガラの悪いもんや血の気が多いのがようさんおるから、喧嘩が頻繁に起こり、殺し合いに迄に発展する事もしばしばや。発散出来る場所を提供したらんとそこら中で、おイタしよるからギルド側が世間様の体裁も込めて訓練場を用意しとるらしい。




「はぁ……お家帰りたい」




俺はあらゆる不幸が許される場所で、戦闘マシンーンナナミンと対峙しとる。


ギラついた瞳に、今にも喰らい付かんばかりの飢えた犬の様に待てをするナナミンの姿を見て、俺はもう一度深い溜息をついた。




「なぁ、ホンマにあの子と闘わないかんの?」




俺の横で腕を組みながら待機しとる、この茶番の張本人にお伺いをたててみた。




「当然だろ?お前が腕の立つ冒険者を紹介しろと言うから、都合を付けてやったんだ。それに、闘うだけであんな妖精のように可愛らしくて強い私の姪っ子を仲間に出来るんだぞ。有り難く思え!」




凶暴さが抜けとるで、エネさんよ。


しかし、どうしたもんかな。正直、あのナナミンと闘うのはリスクが高過ぎる。


仲間になる云々やなく、俺の能力的な意味でや。


準魔王級である吸血鬼をソロで倒すんのに、アルカディア金貨千枚を使った。久々の冒険者稼業やったしギルドが費用を持ってくれる話やったから大分遊んでもうたけどあの子は、あの吸血鬼と同等かそれ以上、少なくともアルカディア金貨千枚前後は覚悟せなあかんか?


今月の能力の支払いも、残り一週間と期日が迫っとるし、此処で無茶な金額を使って期日に支払いが出来ませんなんて事になったら、サブ姐さんに体をバラされる事間違いなしや。……いっそトンズラかますのもアリやな。


俺がどうやってこの場から逃げ出そうかと思考を巡らしとると、外野から数々の罵声が飛んできよった。




「いつまで待たせるんだ、ゴラァ!!」




「こちとらお前らの賭けが成立してるんだ!とっととおっ始めろ!!」




「眼帯の兄ちゃん、負けんじゃねぇぞー!お前ぇに負けられたら、女房を質に入れなきゃならなくなるんだ!」




「二人共死んじまえー!」




「その醜いエルフ擬きを殺せー!!」




暇人共がぁ、好き勝手言いやっがって。てか、客席がほぼ埋まっとるってどう言う事やねん……


支部にによって訓練場の大きさや外観は其々やが、第一区の冒険者ギルドは客が三百人ほど収容出来るドーム型の訓練場になっとる。




「やかましい!!お前らも冒険者の端くれやったらこんなトコで、野次飛ばさんとダンジョンにでも潜って来いや!」




「「「「うるせぇ!!余計なお世話だ!!!」」」」




五月蝿いのはお前らの方じゃ……  咄嗟に耳を塞いでしまう程の怒号のハモリに俺は後退りしてしまう。




「お前の言う事も最もだが、こうなってしまったからには、収まりがつかん。諦めてナナミンと闘って来い ……とは言っても、お前の表情を見てると、どうやってこの場から逃げ出そうか、そればかり考えてるだろ?」




「当たり前やろ?あの子と闘うのはリスクが高過ぎる。冷静に考えれば、確かにあの子の戦闘力は魅力的や、仲間になってくれるんならダンジョン攻略もぐっと楽になるやろな」




戦闘狂いってのは頂けへんけど




「お前が、逃げ出そうとする理由は金か?」




「そうや。ナナミンがダンジョンのモンスターなら幾らでもやったるわい。でも、あの子はモンスターやない。倒したかて、魔石や素材をドロップする訳やないからな。エネも知っとるやろ?俺の能力には金がいる。銭にもならん相手とやり合っても俺が破滅するだけや。ましてや、相手は人外級の冒険者やろ?はした金でどうこう出来る相手やないしな」




すると、エネはおもむろに腰帯に括ってた皮袋を取り外し、俺の方へと放り投げた。その皮袋を受け取ると、ズシリと重く中身を確認すると大量のアルカディア金貨が入っとった。


幾ら金に困っとる友人がおるからって、こんな大金を理由もなくポンと渡す程、この女は優しくはない。そうまでして俺とナナミンを闘わせたい理由があるんか?




「何のつもりやエネ?」




俺の当然の疑問に、エネは糞真面目な表情で答えよった。




「私個人がお前に指名依頼を出そう。その金貨二百枚は前金だ。もしナナミンに勝つ事が出来れば、お前が使った金額を全て私が払おう」




「叔母上!いつ迄おっしゃんと喋ってるんじょ!?あちし、もう我慢できないじょ!!」




もう、辛抱堪らんといった感じで、ナナミンが駄々を捏ね始め、それを見たエネが困り顔でその場から離れ観客席へと向かっていく。去り際に肩を叩き呟いた言葉に困惑する俺を置き去りにして。




「あの子を救ってやってくれって ……どう言う意味やねん」




 ギルド職員の男が、開始の合図を告げると、訓練場に割れんばかりの歓声と怒号が交じり合い地鳴りを起こした。


エネの言葉の意味も解らんままに、俺とナナミンの闘いが始まってしもうた。

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