第13話 仲間を求めて 5
「ナナミン、そこまでだ!!」
エネの制止の言葉に、留めの一撃となる筈の右拳をピタリと止めるナナミン。
た、助かった。……後数秒止めるのが遅かったら、俺の体は汚ねぇ花火状態になってたやろう……
なんせ、ナナミンの攻撃力は、準魔王級である吸血鬼の攻撃を悉く防いだ高レートで生成した「盾」の金貨の防御力を貫通させよったからな……このナナミンって子は間違いなく人外級の冒険者や。
冒険者ギルドはモンスターの種族によって強さのランク付けをしとる、この世界にはどんな生き物にも「格」っていうシステムがあるから強さが個体差によって変動するし、あんまり信用はでけへんけど、概ねこの種族のモンスターはこの辺りの強さぐらいですよーって言うなんとも緩い指標を示してくれる。
準魔王級は十あるランクの中で、上から数えて四番目、コレにソロで対抗出来る冒険者を総じて、人外級と呼ばれとる。
「むむ。叔母上、何故止めるんじょ!こいつは、あちしの必殺の一撃を防いだんじょ。しかも、蹴りが直撃する直前に硬い壁の様なものに威力を殺されたじぇ……アレがスキルなのか何なのか良く分かんないけど、弱そうな見た目の癖に、このおっしゃんは中々に骨があるじぇ。あちしは強い奴と闘いたんじょ!!」
なんなん……この戦闘民族、怖すぎるわ。てか、エネの事を叔母上?エネの親族って事か?
危機を脱し、安心したのか、我慢していた痛みが激流の様に押し寄せよった。
「ぁぁぁああああああ!!ぃでででででででで、そういえば俺、両の腕折られとったわぁがぁぁは」
青紫に変色した肌とパンパンに膨れ上がった両腕を見て、俺はすぐ様、回復の効果を持つ癒しの金貨を生成すると、浮遊した金貨が両腕周辺に淡い黄金色の光を照射した。折れて腫れ上がった両腕は、瞬時に元の正常な形へと戻っていき、痛みを消していく。
「おお。何じょ!?そのヘンテコな金貨は?折れた腕が直ぐに治ったじぇ!!回復魔法?やっぱり、おっしゃん面白いなぁ。あちしと勝負しようじぇ!!」
何をトチ狂った事言うとんねん、このゆるキャラがぁ。俺がそんな一銭の価値もなんらん事する訳ないやろ……
「ナナミン。何度も言っただろう?ギルドホールでは誰彼構わず、喧嘩を売るなと。此処には色んな人達が仕事をしているんだ。皆んなの迷惑になるような事はしてはいけないぞ」
エネはナナミンと視線が合うようにしゃがみ込み、子供を諭すような、優しい口調でエネを叱りおった。
身内びいきってヤツか?エネの奴、えらい甘ない?こんだけの騒動起こして、あまつさえ俺はナナミンに両腕の骨を折られてるんやけど……
「ヤルなら、ギルドの訓練場でしなさい。あそこなら不幸な事が起きても、私が何とでも理由を付けて処分出来る」
「ハイ!叔母上!」
「ええ訳あるかい!!二人とも満面の笑顔で頷き合うなや、言ってる事が物騒すぎるねん!!」
俺のツッコミも虚しく、エネは次いで衝撃の爆弾発言を投下しよった。
「そうだ、ナナミン紹介しよう。この胡散臭い男の名はゼンイチロウと言ってな、一応私の親友であり、お前の父様と一緒にダンジョンを冒険したPTメンバーの一人なんだ」
「え!?」
「……え」
俺とナナミンが同時に発した驚きの声の意味は、他の人間から聴いたら違うものに聴こえた筈や。
「皆からは『金貨使いの怪人』と呼ばれた英雄の一人だよ」
「ふおおおおおおお。本当なのじぇ、叔母上!?」
エネの言葉に興奮したのか、目を煌めかせながら小さな体をピョンピョンと飛び跳ねさせ、はしゃぐナナミンをよそに俺の頭の中は真っ白に染まっていた。
「何を固まっているんだ。ゼンイチロウ」
「……いや、もしかしてこの子って」
「あぁ。ナナミンは私の愛らしい姪っ子であり、ルルカン兄様の忘れ形見だよ」
何かを懐かしむ様な瞳で、はしゃぐナナミンを見つめるエネに、俺はなんとも言えない引き攣った表情を浮かべた。
あの狂ったゆるキャラがルルはんの娘?
「色んな意味で似てねぇ……故郷に 嫁さんがおるって事は知っとったけど……えぇぇ」
俺が困惑するのも当然で、ルルはん、ルルカンは俺の元PTメンバーの一人でエネの兄貴にあたる人や。絶世のエルフ美男子な上に人格にも優れ、世の女性冒険者達の憧れの的やった。
「美しき要塞」と呼ばれる程、防御系の魔法やスキルに優れ、華奢な体に似合わずPTの盾として前線に立ち俺達PTの危機を幾度も救ってくれた凄腕冒険者や。
当時、この世界に来たてで右も左も分からん時分に、俺は欲に目を眩ましてヘマをやらかした。身も心もズタボロになったどうしようもない時があったんやけど、その時、手を差し伸べてくれたんがルルはんとエネや。この二人との出会いが無ければ俺はとうの昔に死んでる事やろ。ほんま、二人には返しても返しきらん恩があるのに、ルルはんは無念の内に死んでもうた……産まれてくる子を一目でもええから見たいって言いながら事切れてもうたんや。
「そうか……あの子がルルはんが言うとった子か」
俺は、仲間達を失ったあの時の光景を思い出し、無意識に強く握り込んでいた右拳の隙間から血がポタポタと雫を垂らしとった。
その強く握った拳にそっと触れる小さな手の主が、花を咲かせた様な笑顔で俺を見上げ、こう宣いよった。
「おっしゃんも血が滲む程拳を握りこんで滾ってるんじょな?あちしもおっしゃんと闘いたくて滾ってるじょ!!はよう、訓練所に行こうじぇ!はよう!はよう!」
……君は何を言っているんだい?
「ちょ、ま、待って!俺は昔の事で感傷に浸ってただけで、滾ってた訳やなくて、ちょっと手ぇ離して!痛い!痛だだだだだぁぁぁぁ!だ、誰か、警察呼んでえええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ゴリラかよ!と思わせる握力で俺の手を引っ張り訓練場に連行しようとするナナミンに、俺の抵抗は虚しく。ズルズルと地獄へと誘われる罪人の様な面持ちでおるとギルドの女神様が無慈悲なる追撃をかましてくれよった。
「ナナミン。ゼンイチロウは、今ダンジョンを共に攻略する仲間を求めているんだ。奴と闘うという事は奴のPTに加入しなければならないという冒険者の掟に従わなければならない。それでも良いのか?」
……お前も何を言ってるんだい?
「エネ、その訳の分からん冒険者の掟ってなんや!?初耳過ぎて心臓止まってまうわ!」
「父しゃまと肩を並べた英雄と闘えるなら、あちしは、おっしゃんのPTに入ってもいいじょ!!」
幾らルルはんの娘でも、お前みたいな戦闘民族とPTなんか組みたないわい!嬉々としてモンスターの大群に特攻して俺まで巻き添え喰らう光景が有り有りと思い浮かべれるわ!
エネの奴、ホンマ何考えとんねん!
恨みがましい視線をエネに送ると、奴はやってやったぞ!言わんばかりのドヤ顔で親指を立てとった。
「私に感謝しろよ。ゼンイチロウ!」
「お前はケンカ売っとんのか!?」
こうして俺はナナミンに、されるがままに訓練場に連行され私闘を繰り広げる事になってしもうた。
俺は心の中で誓いを立てた…… いつか、あの鬼畜エルフのプリ尻を赤く腫れ上がるまでぶっ叩く!!
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