第12話 仲間を求めて 4

「俺はエネの頼みでも絶対タダ働きはせんぞ」




「む。まだ私は何も言ってないぞ」




「チラチラ期待する様な目をしとったやんけ」




「チッ。 ……まぁいい。幾ら払えばこの場の騒動を治められる」




 舌打ちしよったで…… あわよくば俺にタダ働きさせるつもりやったなこの鬼畜エルフめ……




「そうやなぁ」




 ギルドのホールでは、あのナナミンって子に触発されて結構な奴等が殴りあっとる。


 ざっと見た所、五十人ぐらいか?


 俺は頭の中でイメージする。多数の人間を出来るだけ傷つけず一斉に無力化し制圧する力を。


 すると頭の中で、いつもの慣れ親しんだ無機質な女の声がこう答えよる。




『いつもご利用ありがとうございます。銭ゲバ銀行神界支店へようこそ。お客様のご要望に応えた金貨の生成は、アルカディア金貨十枚となります。宜しいでしょうか?』




 この声の主は、通称「窓口さん」顔も本当の名前も分らんし、何時も事務的な受け答えしかしてくれへんから便宜上、俺が窓口さんと呼んでるだけやねんけど、この人も創造神に仕えてる女神様らしく、俺がイメージした力を金貨に落とし込んで生成してくれる大変有難い女神様や。タダではやってくれんけどな……




『ほな、それでお願いします』




『承りました。―――金貨の生成完了しました。またのご利用お待ちしております。』




 うん。何時もながら事務的な受け答えやで。


 さーて、エネちゃんにどんだけ吹っ掛けたろうかな~。 この前はタダ働きさせられたからなぁ~。




「アルカディア金貨三十枚やな」




 因みにアルカディア金貨一枚は日本の金に換算すると一万円程度や。銀貨やと千円、銅貨やと百円、簡単に説明するとこんなもんや。他にも硬貨があるんやけど、ややこしいし割愛や。






「高すぎる。十枚だ」




 おいおいおーい。いきなり足元見過ぎやでエネさんよ~。しかも、生成した金額とぴったしって、鋭過ぎるやろ。


 まぁ、この女の事や。値切りは当然あると思ってたしな。こりゃ、タフな交渉になりそうやで。




「しゃーないなぁ。友達価格で二十五枚に負けといたるわ。感謝しいや」




「十枚だ」




 うーん。ご満足頂けないと? おkおk想定内や。




「分かった! 俺も男や。日頃世話になっとるエネの為に、二十枚で請け負ったろ!これでどないや?」




「十枚だ」




「……」




 ……なんなんこの子。何でこんな頑ななん?金貨十枚って、俺の手元に一銭も残らんやん。




「エネ?流石に金貨十枚はしんどいってか、俺になんの利益にもならんっていうか……」




「金貨九枚だっ!!」




 一枚減らされてもうたぁーーーー!!




「すんません。やっぱ金貨十枚で請負させてもらっていいですか?」




「チッ。仕方のない奴だ」






 あれぇ?俺いつの間にかタダ働きさせられる事になっとる……


 確かこの前もタダ働きした様な……ウッ……頭が……気のせいか?涙が止まれへんねんけど。






「それで、この場をどうやって収める気だ?」




「そんなん俺がやれる事は一つしかないやん」




 量の腕を広げると俺の周りに五十枚の金貨が霞みの様に現れ、宙を漂う。




「わわっ。ギルマス凄いですよ!急に金貨が現れて宙に浮いてます、しかも一杯!!」




 初々しい反応するねクラレンスちゃん。確かに手品みたいでビックリするわなぁ。




「相変わらず訳の解らん力だな。前から思っていたんだが、自分で金貨が造れるなら金なんて要らないんじゃないか? ……もうずっとタダ働きでいいんじゃ?」




「エネ。獲物を見る様な鋭い目付きをするんやない……大体、この生成した金貨で稼げるんやったら冒険者なんて命懸けの仕事してへんわい」




「それもそうだな。まぁ、取り合えず目の前で暴れ回っている馬鹿共をどうにかしてくれ」




「はいよ。そんじゃ、行って来ーい」




 俺の周りに浮かんで漂っていた金貨が、音も無く一斉に動き出す。暴れている冒険者達に向かっていった金貨が、一人、又一人と冒険者の体の一部分に張り付いていく。


 誰も体に金貨がくっ付いとる事に気付いてへんみたいやな。




「なんだ?金貨がくっ付いただけで、何も起きないじゃないか?」




「すぐ分かるから見とき」




 俺が指を鳴らすと、合図に反応した冒険者達にくっ付いていた金貨がバチィと、小さな青白い火花を放ち、ギルドホールに絶叫が木霊しよった。






「「「ぎゃぁぁぁぁああああああああああああ。 いでぇぇえぇぇぇぇぇ」」」




 痛みを訴えながら、バタバタと倒れ伏す冒険者達。




「どないや!超高電圧のスタンガンをイメージした金貨の味わ!」




 元の世界の人間なら後遺症が残るレベルの電撃や、しかも自分らの意識外からの攻撃やからな「効果は抜群だっ!!」ってなもんや。


 頑丈なこいつらも筋肉がビックリして、数秒程まともに動く事はでけへんやろ。でもそれで十分や。


 これで頭に上った血も少しは冷めるやろ。




「流石だな。一体何をしたのか分らんが、ほぼ全ての冒険者達を無力化させるとはな」




 エネのお褒めの言葉に無い胸をそらす俺。 ……ほぼ全て?全員やないの?




「おおぉぉぉ。あちしの体がビリビリするじょぉ。わはははは。何だか痛気持ちいいじょ!」




「…………ウソやろ」






 あの不意打ちの電撃を喰らって、痛気持ちいいじょ!と吐かすゆるキャラ。もとい、ナナミンが辺りをキョロキョロっと見渡し、そして当然の如く俺との視線が交わる。


 目が合った瞬間、背筋に怖気が走り、数々の修羅場を搔い潜った俺の脳みそが、激しい警鐘を鳴らしよる。




「見つけたじょ!!次の相手はお前じょな!!ぶっ飛ばしてやるじょ!!」




 ヤバい、ヤバい、ヤバい、ロックオンされてもうた。


 怒り狂った猛牛の突進の如く接近するナナミンは、俺の手前直前で天井まで届かんばかりの勢いで、大きくジャンプすると、小さな体を丸めクルクルと勢い良く回転し遠心力のついた重い踵蹴りを浴びせてきよった。




「喰らえナナミン流奥義!!セルフ隕石落としいんぱくと!!」




 俺は咄嗟に頭上を両の腕で交差させ、防御態勢に入った。


 こんな動作をしても、弱っちい俺には無意味やと理解してる筈やのに、反射的に防御態勢を取ったのは、今まで冒険者としてやってきた経験が生きたんやなと思う。


 ナナミンの踵落としは、インパクトの瞬間、俺の足元の大理石に蜘蛛の巣状のヒビを入れ、俺が何時も保険で持ち歩いとる高レートで生成した「盾」の金貨の防御力をぶち抜いた挙句、俺の両腕を破壊しよった。


 骨が折れる嫌な音に、のたうち回りたくなる程の激痛に耐え、すぐさま無様な格好で距離を置く俺にナナミンは、追撃の一撃を加えようと肉迫してきよった。




「エネええぇぇぇぇ!!はよ、この狂犬止めぇ!!!」




 俺の懇願にも近い言葉に、エネは小さいながらも力強く頷いた。






「金貨八枚だっ!!」






 このアマァァァァァァ!!金貨十枚で納得してへんかったんかい!!


 どうでもいいから、はよ助けろや!!

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