2章 再結成
第9話 仲間を求めて 1
「待ちなさい!ゼンイチロウ!!人の顔を見て毎回逃げ出すとは、どういう了見なのかしら!!」
「俺はあんたにトラウマ植え付けられとんねん!反射的に逃げてまうんわしゃーないやろが!?」
あ、どうも俺です。今現在、サディスティックな女神様から逃走中の凄腕冒険者ゼンです。
いやー。街中で一人叫びながら激走する俺って大分ヤバいよなぁ。さっきから街の皆さんの視線が痛いっす。
なにせ街の皆さんには、俺の背後から鬼の形相で迫っとる、あのサディスティックでか乳女神様が視えてないんやからな。神さんの使いは下々の者に姿を晒す事を極端に嫌うらしいですわ。
「チッ。本当に世話をかかせる男ね」
危機感を感じ振り向くと、奴は弓矢を引き絞るような動作をし、人差し指に小さな光が無数に集まりだした。力を感じさせるその光を収束させていくと、獰猛な笑みを浮かべ、そいつを躊躇いなく放ちおった。
「こんな街中で、神気を使うとか何考え--」
細い光の筋が、恐ろしい速度で俺の足元に刺さると石畳みの道を起点に大爆発を起こした。
「うおおおぉぉぉぉ!何だ。何が起こった!?」
「石畳みの道が勝手に爆発したぞ!どうなってる!!」
「きゃあああぁぁ。い、今、人が爆発に巻き込まれたわよね? ねぇ!?」
「おいおい。結構な大穴が空いてるぞ……巻き込まれた奴はいねぇのか!?」
大の字になって倒れていると、濛々と立ち込める砂煙が、だんだんとクリアになって視界が明けてきよる。町の人々の喧騒をよそに、バサバサと黒い翼を羽ばたかせ俺を見下すサディスティックな女神様が、何事もなかったかの様に俺に語りかけてきよった。
「ゼンイチロウ。話があるわ。ちょっと顔をかしなさい」
「お前、ほんま……お前ぇぇぇ」
いつか、この女の無駄にデカい父を捥いだる……
「そんで、わざわざ神界から一体なんの用ですの?サブ姐さん。支払いの期日はまだですよね?」
「用がなければ、こんな糞溜めに来る訳ないじゃない。お父様からの伝言を伝えに来たのよ。咽び泣いて感謝しなさい」
「へい。へーい」
狭い路地の壁際に背を預け、腕を組みながらご自慢のお乳様をこれでもかと押し上げ主張するこの女神様の名はサブリナ。通称サブ姐さんや。
この世界の創造神に仕えてて、日本からやって来た俺のサポートと金の取り立てをメインに活動しとる。
サポートに関しては、大した事をして貰った記憶はないけど、月の終わりにやってくる支払日に関しては何処ぞの帝王の様に追い込んで来よる生粋のサディストや。
身に覚えのない親父の莫大な借金で、この世界に出稼ぎに連れ去られた俺やが、その借金以外にも俺は金を取り立てられる……そう、俺の異能や。特殊な金貨を生成するあの力には金がいる。あの力を使えば使う程、月の終わりにやって来る支払日がキツくなるんや。
一度、能力の使い過ぎで支払いがでけへん事があったんやけど、このお乳様はペナルティとして俺の右目を嬉々として抉りよった。過ぎた力の契約を反故にした当然の報いやそうや。
その出来事がトラウマになって以来、俺はお乳様を見るたび逃げ出す癖がついてしもうた。
「余り此処に長居したくないから、お父様の話を簡潔に言うわ。ゼンイチロウ。貴方がこの世界に留まれる時間は、そう多くないそうよ。長くて一年。それが貴方に許された時間だそうよ」
その言葉を聞いて、俺は大きな溜息と共に、自分が今置かれている状況の拙さに奥歯を嚙み締めた。
「……意外と短いな」
「当然といえば当然ね。人族は二百年も永くは生きてはいけないもの。貴方はもうこの世界では死んでなきゃいけない存在なのに、お父様の慈悲で留まっていられる」
「対価は払ったんやけどね」
「ええ。だからこその一年よ。それにしても……当初の目的だった貴方の父親の負債は、既に完済され自由の身となったのに、此処に留まり過去になった者達の為に復讐を成そうとしている。初めて会った頃に比べて随分と男の子らしくなったものね」
俺の元に歩み寄って来たサブ姐さんは、造り物の様な美しい左手を俺の頬に添えると、反対側の頬に顔を近づけ、瑞々しい果実かと思わせる唇を押し当ててきよった。
あぁぁぁ、サブ姐さんの素晴らしく良い香りが、俺の鼻腔を犯していくぅぅぅ。
「素敵よゼンイチロウ。そのだらしない顔をちゃんと隠せていたらね。……まぁ、今度は短い付き合いになるでしょうけど、また可愛がってあげるわ」
サブ姐さんは氷の様な微笑を浮かべると、翼を羽ばたかせ空へ昇っていきおった。
「……はぁ。やっぱ、あの人苦手やわ」
それにしても後一年か。時間が無さ過ぎるし、ソロでは無理があるな。
やっぱり仲間は必要になるか……はぁ……仲間か。
エネえもんにでも相談するか。
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