閑話

第8話 始まりの日

「だ、だから何度も言うてるやないですか。どうして俺がこんな身に覚えがない借金を払わないかんのですか……」




善一郎ぜんいちろうく~ん。こうして君が連帯保証契約した書類だってあるんだ。子供の様に駄々をこねちゃいけないよ。それにだね君の親父さんが残した借金をちゃんと返済してくれないと、おじさんは兎も角、周りにいるお兄さん達が、善一郎君にイケナイ事しちゃうかもしれないよ。それでもいいのかい?」




 いい訳ないやろ!とビビりな俺には言える筈もなく……


 今現在、俺こと成樹善一郎なるきぜんいちろうは、とある雑居ビルの中にある怖いお兄さん達の事務所に拉致されている。


 周りにおる黒のスーツを着たどう見ても何人かヤッてそうなお兄さん方もヤバそうな雰囲気はするが、先程から俺の体面で会話しとる、顔に無数の切り傷がありキッツいパンチをかけた大男は、片手で俺の頭を握り潰せるんやないかと思える程デカい。コイツ人間か?


 紳士ぶっとるが、その瞳の奥はヘドロの様に暗く濁り淀みきっていて、何とも言えない不安感と恐怖心を煽られる。




 こんな事になってしもうた全ての原因は、まだ幼かった俺と母さんを捨てて、蒸発した筈の糞ったれな親父が、巧妙な手口で俺を保証人に仕立て上げ、莫大な借金を押し付けられて今に至ってる訳やねんけど……




「百億って……ホンマに俺みたいな唯のサラリーマンに払えると思っとるんですか?それに、こんな出鱈目な金額を個人で貸し付けるなんて嘘っぽい言うか……詐欺っぽい言うか……ちょっと警察に相談しても?」




「ほぅ……なら儂が善一郎君を嵌めようとしていると?」




「そ……そんな事は……」




 くっ……なんて目で凝視めるんや。このパンチおじさんは。少しちびってもうたやんか!!


 周りの兄さん達も俺に詰め寄ろうとするなや!怖いねん!!




「確かに、こんな出鱈目な借金を急に返済しろと言われて、返せる人間なんてこの世界でも、ほんの一握りしかいないだろう。儂とて何年も前に蒸発した親父さんの作った負債を契約だからといって、君に負わせる事を多少なりとも気の毒だと思っている。だから、儂が善一郎君の借金完済の為に、出来うる限りのサポートをしようじゃないか」




 うわぁ。なんて笑顔の似合わんおっさんなんや……


 にちゃぁっってしとるで。この世で一番、信用ならん笑顔やで。




「あの……その出来うる限りのサポートとは、具体的にはどういった事を?」




「この現代社会で、君の様な何の取柄もない若者が、この莫大な借金を返済する方法なんてものは無いに等しい。しかし、この世界ではなく別の世界になら君にも返済できる可能性か生まれるかもしれない」




「この世界ではない別の世界?ってどういう意味なんでしょうか?」




 それは本当に不気味で底冷えする様な声やった。




「善一郎君。異世界に出稼ぎに行こうか」




「……は?」




「異世界行こう!な!!」




 こうして俺は身に覚えのない親父の借金を返済する為、剣と魔法とモンスターが存在する異世界へと永い出稼ぎに行く事になったんや……

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