第7話 金貨使いの怪人(プロローグ)

 どうも俺です。凄腕冒険者やらせて貰ってますゼンです。


 俺は現在、第一区の最寄りにある冒険者ギルドの一室にいとります。


 余談やが、アルカディアには七つのダンジョンと七つの冒険者ギルドが都市の中に散らばって出来とる。其々のダンジョンを中心に都市が区画分けされとって、各ギルドが一つのダンジョンを受け持ち運営しとる。


 何故冒険者ギルドが七つもあるのか?答えは簡単アルカディアって都市がアホみたいに、だだっ広いからや。


 一つの冒険者ギルドだけじゃ不便やし、冒険者の数が余りにも多すぎてギルドが回しきられへんらしい。




 まぁ、そんな事はさて置きやな。


 俺は今、非常に。ひじょーーにマズイ事になっとる。




「ふざけんなや!約束と違いすぎるやん!」




「ふざけてるのはお前の方だぞゼンイチロウ。こんな馬鹿げた金額をギルドに請求するなんてどうかしてるぞ」




「必要経費やったんや!相手は準魔王級クラスの吸血鬼やぞ。俺の能力知っとるお前なら、この金額は妥当な請求やと解ってるはずや。エネ、頼むわ!!こんなんじゃ俺ほんまに身の破滅やわ」




 このエネは第一区の冒険者ギルドでギルドマスターをしとるエルフ族の女性や。


 エネがまだギルドで新人の受付嬢しとる頃からの馴染みで、俺がこの世界に連れて来られた頃から散々とお世話になっとる大恩人のお姉さんや。


 顔良し、スタイル良し、具合よ……具合は……分らんな。うん。恐れ多いで。




「確かに今回の同業殺しの件で、ゼンイチロウに指名依頼を出したのは私だ。冒険者として復帰するお前に丁度良い依頼を見繕ったつもりだったし、その異能を鑑みて、ある程度の予算は出すと約束はしたが、アルカディア金貨千枚とかドラゴンの希少素材並みの額だぞ……そんな金額を「はいそうですか」と簡単に渡せると思っているのか?」




「いや……二百年ぶりの冒険者稼業やったし。まさか同業殺しの裏で吸血鬼がおるとは思わんやん。そらちょこっとハッスルしてしもうたけども約束は約束ですやん……」






 そう、俺は訳あって二百年ぶりの長い眠りから目覚め冒険者として復帰したんや。忘れもせえへん『第七区』最終階層を攻略した俺達はダンジョンの神々の謀り事によって、仲間の一人が裏切り。俺以外のPTメンバーは全滅。


 瀕死の状態から生き延びた俺は、ダンジョンの神々と対立しとる創造神に救われ傷が癒えるまで永い眠りについた。


 眠りから目覚め、冒険者に復帰したんもすべては、あいつ等に復讐する為に金が必要やからや。


 俺の異能は力の対価として金が必要や。金が無ければ俺はダンジョンに足を踏み入れた瞬間、屍を晒す事になるやろう。


 魔法もスキルも無い世界から連れて来られた唯の人には、この世界はデンジャラス過ぎる。


 せやから金や!!


 金さあれば仲間達の無念を晴らせる。俺から大切な仲間達を奪った奴等をぶっ殺す事が出来る。


 せやから――土下座や!!!




「エネさん頼んます!!アルカディア金貨千枚どうか都合付けて貰えませんか?エネさんの犬になれ言うんなら喜んで尻尾振らせて貰います!足の裏でも何でもペロペロさせて貰います!寧ろ望むところです!!せやからお願いや。友達助ける思うて払ってくれまへん?」




「本当にお前と言う奴は……情けない。かつて英雄とまで称えられたお前が土下座か」




「そんな何の足しにならんもん犬にでも食わせて!」




「はぁ…… 分かった。アルカディア金貨千枚はギルドで持つ事にするよ。ただし、今回の成功報酬は当然支払わないしお前が獲得した魔石も没収させて貰う。それでいいな?」




 え? そんなんタダ働きみたいなもんやん……


 この女には人の…… いやエルフの血が流れとらんのか?人情ちゅうもんを見せてくれてもええんとちゃういますの?


 此処は断固として、この鬼畜エルフに俺の正当な取り分を主張せなあかん! 平身低頭でな!!


 俺のネゴシエーション見晒せや!




「いや……成功報酬はしゃーないとしてですね。魔石の没収は酷過ぎまへん?アレは――」




「嫌なら私は一向に構わないが?その吸血鬼からドロップした魔石を売ったところでアルカディア金貨千枚もしないしな。ギルドとしても余計な負債を抱え込まなくて済むし。 ……そうするか?」




「じょ、冗談ですやん!ちゃんと魔石もお渡ししますんで、へへ…… どうぞ良しなに」




 ネゴ終~~了~~。


 話にならんわい!てか、エネの目が怖すぎてこれ以上何も言えんわい!


 撤収や。




「ほな、俺帰るわ。金になる依頼があったら教えてや。すぐ駆け付けるから」




 扉に手をかけ部屋を出ようとしたら、エネが神妙な声で俺に問いかけてきよった。




「……ゼンイチロウ。本当に冒険者として復帰するんだな? ……後悔だけはするなよ」




「後悔なら二百年前にしとるわ。なんや心配してくれてんのかいな?オリハルコンの女と言われたエネらしく無いで」




「お前はバカだからな。それに友人と呼べる間柄の者は、もうお前しかいないんだ。心配ぐらいするさ」




 せやな友人と呼べる奴らはエネ以外、みんな殺されてしもうたか、過去の人になってしもうた。


 やからこそもう一度、冒険者としてダンジョンに挑まなあかんねん。




「心配すな。借りたモン返すまで俺は死なんで。新しい『金貨使いの怪人』の活躍、期待しといて見とってや。また伝説作ったんで!」




「あぁ、やはりお前は、昔と変わらずバカのままだな」




「ごっつええ笑顔でバカ言うなや!!こっちは大真面目やっちゅねん」




 失礼なエルフやで、そのすました笑顔を曇らせたろかい!




「兎に角だ。……おかえりゼンイチロウ」




「……おう。ただいまやで」

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