第6話 金貨使いの怪人6

 眩い閃光が走り私の意識が少しずつ消えて無くなる。


 私のこの結末に神々は愉しんでくれたのだろうか?悦んで頂けたのだろうか?


 あの忌々しい邪神の使途が、私の前に現れなければ、もっと愉しませて上げる事が出来たのに……




 モンスターである私が、若い冒険者達に紛れ、騙し、殺す。


 死の絶望に歪むあの子達を見て神々はどう思っていただろう?


 私は…… 愉しかった。冒険者達の輪に入り、夢や希望を語り合うあの子達を騙し殺して、私の下腹部にどれほどの喜びをもたらしただろうか……




 熱い…… 私の全てが灰となって塵に変わっていく。


 もう、私は神々を愉しませて上げる事は出来ないし、私も二度と愉しむ事は出来ない。なんて歯がゆいの。


 こんな結末をもたらしたこの世界の理から外れた糞ったれな異能者に呪詛の言葉を――










「うひょおおおおおぉぉ。デッカい魔石ゲットだぜぇ!!こらぁ高う売れるでぇ」




 一人異常なテンションで盛り上がるゼン。


 この世界で魔石は、様々なライフラインで使用され人々の生活に無くてはならない程に必要とされている資源だ。魔石の力は人々の文化、文明の発展をもたらし世界を大きく動かした。


 魔石はアルカディアダンジョンで出現するモンスターのドロップでしか取れず、モンスターの『格』が上がれば上がる程、魔石の大きさや中に内包されている魔力の純度が高くなる。


 アルカディアに富を求める者達が後を絶たないのは、命の危険と引き換えに無尽蔵に取れる魔石の巨大収獲地だからである。




「あの……ありがとう。貴方に助けられましたね」




 隠れて二人の戦いの顛末を見届けた斥候の男がゼンの前に立ち、手を差し伸べた。




「なんや兄さん、まだおったんかいな。ところでその差し伸ばしとる手はなんや?魔石ならやらんで、この極上モンは俺の働きに対する正当な報酬やからな」




「……いえ、そういう訳じゃ無いんですけどね。ははは……」




 ただ感謝の意思を示そうと手を差し出し握手を求めようとした斥候の男はゼンの言葉に顔を引きつらせながら気まずそうに手を引いた。




「ふーん。ならええけど。兄さんも折角拾った命や、帰り道には気を付けるんやで。ここら辺におる弱っちいモンスターは、さっきの戦闘でビビッて出てこうへんと思うけど、ダンジョンは何があるか分らんからな。まぁ、兄さんは感知系のスキル持ってるみたいやしモンスターに出くわす事もそう無いやろけどな。ほいじゃ、俺はこれでお暇させて貰うわ」




「ま、待ってください!貴方に伺いたい事があるんです!」




 斥候の男は自分の中にある疑問を確かめる為にゼンを引き留めようと声を掛けるが、ゼンの足元が金色に輝き、目が眩む程の眩い光を放った瞬間、ゼンの姿は消えていた。


 呆然と立ち尽くす斥候の男だったが、背後に数人の人の気配に気付き警戒を強める。




「おい!あんた大丈夫か!?物凄い轟音がこの辺りに鳴り響いてって……なんだこりゃ……」




「おいおい……マジかよ」




 ダンジョン内で異常な程の轟音を聞きつけ、駆け付けた他の冒険者PTがゼンとソフィが戦った跡をみて驚愕する。






「これあんたがやったのか?」




 厳ついスキンヘッドの大男が斥候の男に問いかけ、警戒を解いた斥候の男が呆れた様に答える。




「馬鹿言わないで下さい。ダンジョンの岩壁にこれ程の大穴を開けるなんて唯の人には絶対に無理ですよ」




「だよなぁ。まさかこんな浅い階層でドラゴンでも出たのかい?あんたのその様子だと此処で起きた事を見てたんだろ?」




「えぇ……まぁ」




「随分と歯切れが悪いじゃねぇか」




「……きっと言っても信じては貰えないかもしれませんから。それに僕も今さっき起きた事なのに、まるで夢を見てるような……現実感が無いというか」




「なんだそりゃ。もしかして『ダンジョンの不思議』ってやつかい?」




 ダンジョンには度々、夢幻の如く不思議な事象が起こる事がある。


 ダンジョンを支配、管理する神々がもたらすと言われているその軌跡は時として冒険者を救い、時として冒険者に試練を与える。




「ダンジョンの不思議ですか……。ダンジョンには僕ら人類には及びもしない不思議が存在すると聞きます。今回の事もその一つだったのかもしれませんね」




 二百年前、英雄と呼ばれた冒険者が突如として現れたのは神々の差配した軌跡なのか――


 其れとも神々すらも預かり知らぬ軌跡なのか――




 ただ、地に残った一枚の金貨が怪しく煌めくのだった。

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