第5話 金貨使いの怪人5

 <斥候の男視点>




「彼は一体何者なんだ……」




 同業殺しから逃げ、僕達の前に突然と現れた右目に眼帯を着けたこの異世界では珍しい黒目黒髪の胡散臭い男はゼンと名乗り、見た事も聞いた事もない力で仲間だと思っていた彼女……いや、モンスターを一方的な強さで圧倒した。




 彼女は瀕死の状態から人の姿を捨て、正にバケモノといった邪悪な風貌を曝け出し狂ったかの様な咆哮を上げ彼に襲い掛かる。


 アレが吸血鬼の本当の姿だと認識した時、足は震えだし、その存在感に吐き気を催した。アレは唯の冒険者がどうこう出来るレベルの域ではないと絶望したが、彼はそんなバケモノ相手に終始、薄ら笑いを浮かべながら全ての攻撃を無効化していく。


 放たれる強大な魔法攻撃も全てを打ち砕く打撃攻撃も彼は避ける動作をする事もなく、ただ、ただ立ち尽くすのみ。変化があるとすれば彼の周りに浮かぶ金貨が攻撃を受けるたびに弾けて砕けていく。






 あの金貨は何なんだろう……?


 彼は呪われた能力だと言い。彼女は異能者だと言った。


 あの力は決して、この世界に存在する魔法やスキルの類ではない。どんな者にも魔法やスキルを使用すると体内の魔力を消費するし、僕は感知系のスキルを持っているので僅かな魔力の流れでも感じ取る事ができる。


 だが彼の振るう力は、そんな僅かな魔力でさえ感じる事が出来ない。


 あんな出鱈目な戦い方をするあの男に僅かながら恐怖する一方で、昔話に出て来る強大な敵に立ち向かう英雄的な彼の強さに憧れを抱いていた。






「英雄的な力……」




 自分が呟いたその一言に引っ掛かりを覚え、ふと子供の頃に冒険者をしていた母から聞いた、とある冒険者PTの事を思い出した。


 二百年前、長い歴史を誇るアルカディアで誰一人として成し得なかったダンジョン制覇を成し遂げ、僕達冒険者達にとって伝説となる程の冒険者PT。


 七つあるアルカディアダンジョンの内、『第七区』と呼ばれる城型のダンジョンを制覇し神に至ったとされるそのPTの名は『金貨の願い』だった筈、そしてそのPTを率いたリーダー格の男が異能の力を使い数々の修羅場を仲間の窮地を救った。そして、その男にはある異名があった。


 黄金を纏い、その身を煌めかせ戦う正体不明の冒険者。彼の能力以外、彼の姿を知るものは何故か極端に少ないとされている。故に当時の冒険者達は彼の事をこう呼んだ――




「『金貨使いの怪人ファントム』……思い出した……しかし、そんな事が有り得るのか?」




 彼はどう見ても人族だ。長寿種と呼ばれるエルフ族やドワーフ族とは違う。そんな彼が二百年も生きている筈が無い。


 それでは今、僕の目の前で、あのバケモノ相手に不思議な金貨を使い戦う彼は一体……


 思考が巡る中、人外達の戦いに終止符が打たれようとしていた。




「ええ加減しぶとすぎるわ!! パーティー行かなあかんねん!!」




 彼は訳の分からない言葉を宣うとドラゴンと思われる絵が彫られた金貨が強い閃光を放ち極太の光線がバケモノ目掛けて飛んでいき、物凄い轟音と共に辺り一帯を消し飛ばした。


 地面は煙を上げながら高熱で溶けえぐれ、彼の直線状にあった岩壁にバカでかい大穴が出来ていた。バケモノがいた筈の場所には両の手で収まる程の黒い魔石と、残骸と思われる燃え滓が宙に漂い儚く霧散していく……




「なんて滅茶苦茶な力だ……」




 唖然と立ち尽くす僕を尻目に、奇声を上げる者がいた。




「うひょおおおおおぉぉ。でっかい魔石ゲットだぜぇ!こらぁ高う売れるでぇ」




 ダンジョンの地形を変える程の激しい戦いをしたのにも関わらず、バケモノからドロップしたであろう魔石に、小躍りしながら飛びつく彼に、僕は何とも言えない気持ちになってしまった。

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