第4話 金貨使いの怪人4

「うおおおおおぉぉぉぉ。怖わぁ!マジかいな!!急に接近してくるとか、モンスターの嫌いな臭いちゃうん!?何で近寄ってこれるん!」




 いきなり死角からの攻撃に絶叫するゼンと、自分の右拳が相手に届く直前に見えない壁の様なモノに阻まれ距離を取り直し警戒を露にするソフィ。




「……我慢すればいいだけの話じゃない。其れより貴方、一体何をしたの?」




 殴り掛かったソフィの右腕は痛々しい程ぐちゃぐちゃにひしゃげ、骨が皮膚を突き破りドス黒い血を滴らせていた。




「保険や!まさか百万円相当の金貨が壊されるとかどんだけ馬鹿力やねん!吸血鬼やばすぎるやろ」




「百万円?何かの単位かしら……答えになってないわね」




 ゼンは右拳を突き出し手に握っていた金色の砕けた欠片をソフィに見せつけながら地面に落とした。


 それはソフィ達と出会った時にゼンが右手で弄んでいた金貨の欠片だった。




「俺にはこの世界で言う『格』ちゅうもんがないねん。やから魔法もスキルも使えん、身体能力もあんたらからしたらゴミ当然や。せやけど、この世界に連れてこられた時にこの呪いみたいな能力に目覚めてな」




 そう語るゼンの周りに突如キラキラと黄金に煌めく金貨が何百枚と宙に漂い、その姿は一枚の荘厳な絵画に描かれる神の如き雰囲気を漂わせた。


 漂う金貨はこの世界で使われている金貨と違い、『盾』、『剣』、『槍』、『狼』、『龍』と様々な絵が彫られていて、それぞれに特別な力を感じさせる異様なモノだった。




「俺のこの力は、対価として代金を支払う事で特殊な金貨を生成するんや。支払う金額がデカければデカい程、金貨其々に付属しとる能力が増す。その腕がオシャカになったんも『盾』として生成された金貨を持つ俺に殴り掛かったからや。素手で思い切りクソ硬い盾に殴り掛かればどうなるか馬鹿でも解るわな」




「なるほど……ね。異能使い。まさか邪神に遣わされた使途だったなんてね。益々、貴方を殺さなくちゃいけなくなったわ。私達の主の名に懸けて!!」




「ぬははははは。邪神とは言い得て妙やな。俺も同意や。神様のくせして金に意地汚いヤクザみたいなおっさんがこの世界の創造神やねんからな。そら他の神さんも反逆しますわ」




 ケラケラと笑うゼンをよそに、ソフィが指を鳴らすと地面に大きな魔法陣が現れ、其処から九人の冒険者達の成れの果て、物言わぬ屍人達が這い出るように現れ、光を失った双眸でゼンを睨め付けた。


 五人の前衛がすぐさま機敏な動きで散開しながらゼンに迫り、残りの後衛が魔法を放つ為に詠唱を始めた。




「人数増やした所でどうにもならんで。今回はギルドがバックについとるからな大盤振る舞いや。対価の制限が無い俺の能力は神すら殺すで!」




 ゼンの周りに浮かんでいた『狼』の絵が彫られた金貨数十枚が生き物の如く無軌道に蛇行しながら屍人達に襲い掛かっていく。前に出た屍人達は襲い来る不気味な力を宿す金貨を躱そうと其々に回避しようとするが、金貨も意思が宿ったかの様に屍人達を追撃していく、その様はまさしく狼の群れが如く獲物を追い詰め、逃げ場を削り襲い掛かる貪欲なる餓狼を連想させた。




「ちょこまか逃げても無駄や!『金狼の追撃』効果を持つ金貨からは何人たりとも避け切る事は出来へんで!大人しゅう喰われろや!!」




 ゼンの言葉どうり金貨の追撃を躱し切れず、屍人達たちの身体に金貨が触れた瞬間、ブチィと肉が千切られる生々しい音が響き渡り、当たった個所が大人の拳大程度の喰い千切られたかの様な痕を残した。


 不思議な金貨に襲われ、次々と目を瞑りたくなる悍ましい姿になっていく屍人達を見て喉を鳴らすソフィ


 屍人達をいとも容易く屠っていくゼンの異能に戦慄を覚えヒステリックな声をあげた。




「何をしているの!?さっさとあいつに魔法をぶっ放しなさい!!」




「足元がお留守やで!『金爆弾』!!」




 ゼンは狼の金貨を放った折に数枚の金貨を悟られないようソフィと、その周りにいる後衛の屍人達の足元に散らしていた。金貨から目が眩む程の光を放った瞬間、凄まじい轟音と爆風と共に辺りを爆散させた。




「おぉぉ…耳がキーンとしよる。ちょっと支払う代金の量が多かったか、どえらい爆発やったで……これなら奴さん等、あの世までぶっ飛んだやろ」




 血煙が舞い上がり、辺りに屍人達の肉片が散乱するなか、四肢が千切れかけ整った顔立ちは見る影もなく痛々しい姿を晒すソフィが少しづつ這いずりながらゼンに迫ろうとしていた。


 ゼンは小さくごちる。




「マジ引くわぁ……そんなグロ画像みたいになって何で生きてるん?」




「……ゴロ……じてや……る」




 辺りに散らばった屍人達の肉片がソフィの傷ついた肉体に向かって蠢き、それを取り込んで肥大化していくソフィの身体。


 大きな肉の塊となったその躰は徐々に形を変え、辛うじて人だと認識出来る歪な躰を形成していく。腕や足、目と口が躰のそこら中に癒着しており、精神を病んだ者が造る狂ったようなオブジェの様相を呈し、恐怖を煽る絶叫を上げた。

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