第2話 金貨使いの怪人2
「離して!早く戻らないと二人が死んじゃう!!」
「戻った所でどうするつもりですか!?あの二人が命をかけて僕達を逃がしてくれた事を無駄にするつもりですか!」
先程までモンスターとの遭遇と見知らぬ冒険者の乱入で、仲間の一人を一瞬で失い。ソフィと斥候の男は残り二人の仲間達の機転でその場を逃げおおせる事が出来た。
「それじゃ見殺しにするんですか!?私達がいればまだあの二人にも生き残れるチャンスがあるのかもしれないのに!」
「僕達があの場に留まっていても全滅していましたよ。ソルジャーコボルト二匹ならなんとでもなりますが、あの突如現れた冒険者。 ……恐らく奴が
この世界の全ての生ある者には『格』と呼ばれる『魂』と『肉体』の昇格がある。他者の存在を奪い己の格を上げる事によって『魂』はその者が生まれ持った資質のスキルや魔法を習得し、『肉体』は自身の魔力の総量と身体能力が向上していく。格の昇格は個人によって上限があり、これも自身の生まれ持った資質や才能によって上限が決まるとされている。
「……なんとかなりませんか?」
ソフィが俯き震える声で呟いたが、沈黙だけがその場を支配しどうにもならない事を悟らせた。
斥候の男が無言でソフィに歩み寄り何かを語りかけようとしたその時、何かを弾く小さな音がした。
「お嬢ちゃん、安心しいや。あんたらのお仲間は二人共無事やで」
そう言いながら右親指で金貨を上に弾き手に収める。そんな事を繰り返しながら二人に近づく怪しい男が現れた。
この世界では珍しい黒髪で右目に眼帯をし、派手な朱のロングコートを纏った二十代後半と思われるその男は無警戒にソフィ達に近づき二人を見定める様な目を向けた。
「それ以上近づかないで下さい!何者ですか貴方は!?」
斥候の男が警戒心を強めた語気で黒髪の男に制止を促す。
「何者やって、俺がモンスターにでも見えんのかいな。あんたらと同じ冒険者やってるゼンってもんや。宜しくやで」
「何を宜しくなのか分かりませんが、さっき気になる事を言ってましたね。僕達の仲間が無事だと ……貴方もあの場にいたのですか?」
斥候の男の疑心のこもった視線もゼンと名乗った男は涼しい顔で受け流し、飄々と言い放つ。
「そうや。ギルドの依頼でな。ここ何日か臨時で組まれとるPTを見張っとたんよ。今日は何組かおったPTの中からあんたらの事をちょいと遠目に見とったんやけど。こんなに早くアタリを引けるとわなぁ。巨乳の姉ちゃんは残念な事になってもうたけど、残りの二人はあんたとそこのお嬢ちゃんが逃げた後、俺がすぐ助けに入ったんやし堪忍したってやぁ」
「……あの二人を助けた?ちょっと待って下さい。 ……まさかあの同業殺しを打ち取ったのですか?失礼な言い方ですが貴方には何の強さも感じられません。そんな貴方が奴に勝つなんて信じられる訳がない」
「なんや、兄さん感知系のスキル以外に鑑定系のスキルも持ってんのかいな。中々優秀ですやん。まぁ確かに俺自身は滅茶弱いし信じられへんってのも分かるけど、事実は事実やしなぁ。それに、あんたらを襲った冒険者は確かに巷を騒がしとる同業殺し本人やけど、まだ元は断っとらんで、アレは裏で糸引いとる奴に操られてるだけの
胡散臭そうな目の前の男から与えられる情報に困惑する斥候の男。
巷を騒がし自分達の前に突如として現れ仲間を殺した同業殺しが操られていただけの屍人だったという事実、そしてある事に斥候の男は気づくことになる。
「……この一連の怪事には『吸血鬼』が絡んでいると言いたいのですか?」
「おぉ。ホンマ優秀やな。察しの通り本来、第六区の深層を住処にしとる吸血鬼が何故かこの第一区のしかも浅い階層で悪さしとるみたいやな」
吸血鬼は人型の姿をしたモンスターで第六区の墳墓型ダンジョンで稀に出現する。生者の生き血を啜る事で相手を屍人にしてしまう種族スキルを持ち自分の意のままに操る事が出来きる。屍人がダンジョンで発見されるという事は必ず近くに吸血鬼が潜んでいる事と同義である。
個体数は非常に少ないが屍人を無限に造り操る事が可能な上に吸血鬼単体としても凶悪な強さを誇るので発見され次第、即討伐隊がギルドによって組まれる程に危険視されるレアなモンスターである。
「吸血鬼は『準魔王級』に認定されているモンスターです…… そんなモンスターがこの第一区の浅い階層に現れたとなれば一大事ですよ!?」
「ん~そうやなぁ。」
吸血鬼が現れたという重大な事実にも関わらず、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ気のない返事をするゼンと名乗る胡散臭い冒険者に、斥候の男は苛立ちを覚えた。
「そのニヤけた顔 ……貴方、事の重大さが分かっていないんですか?」
「あぁ、すまん。すまん。意外と吸血鬼が俺達の近くにおるかもなぁって思ったらついな」
「それはどういう意味ですか……」
ゼンが厭らしい笑みを浮かべながら、指差した方に斥候の男が顔を向けると、先程まで美しかったソフィの表情は抜け落ち、ゼンに対して明らかな嫌悪感と憎悪を込めた声色で呟いた。
「貴方 ……匂うわ」と――
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