第5話「一年前の約束と嘘」



   ~一年前~

   

   真澄ますみ ゆき

 

 私とようが中学三年生だった頃のお話。


 私はずっと陽の事が好きだった。だけど、この気持ちを伝えるのが物凄く怖かった。陽とはまだ仲の良い、幼なじみに過ぎなかったの。もし、拒絶されたら絶対に、私は死にたくなる。それだったら、この何もない関係で良かった。


 陽の隣に、一緒にいられるだけでいいの。それだけで私は幸せなの。

 

「雪って、好きな人とかいたりする……かな?」


 ——それは突然、陽から発せられた言葉だった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 今日は体育があって、私はクタクタ。友達の由美ゆみは今日も部活で、私が所属しているバトミントン部は休みの日だった。


 私、一人かぁー。


 一人の帰り道は新鮮で、いつもは由美ちゃんと帰るから、少し切ないような。


 すぐそこに公園があるので、私は休憩をとろうと思い、公園にはいる。

 そして私はブランコに乗って、足をブランブランさせた。


 なっつかし〜。昔もここで陽と遊んだっけな〜。てか、まだ私地面に足つかないの!?……ううん、大丈夫。私の成長期がまだきてないだけ!しかも、これ十二歳用ブランコだから!(私が十四歳なのは内緒)


 私は久しぶりの公園で、昔の思い出に浸っていた。


「雪、なにしてるの?」


「ッ!?」


 振り向くと、そこには帰宅姿の陽が立っていた。


「な、なな、なんでもない!ちょっと休憩してただけだから……」


 急すぎて、焦っちゃった!


 私は赤面した顔を、すぐさま手で覆い隠す。


「顔色悪いけど、大丈夫?」


「うん、ほんとに大丈夫!」


「あ、ちょっと待っててよ」


 陽はそれだけ言い残すと、近くにある自動販売機に向かっていった。なんだろうと思って見ていたら、両手に二つの缶を抱えて戻ってくる。


「はい、片方は雪にあげる」


「あ、ありがとう」


 もう、そうゆうとこが好きなんだよ……。


 私は、缶のプルタブを開けて、一口飲んでみせる。

 お水じゃないんだ……。


 実際、顔色が悪い時には、水を飲むのが最適だろう。だが、陽のいつものドジっ子がでてしまい、中身はオレンジジュースだった。

 でも陽からもらったおかげか、オレンジジュースはいつもの何倍も美味しかった。むしろ、お水より良かったかもしれない。


「昔、雪が好きだって言ってたから」


 そう言って、陽も私の隣に座り、自分の缶から一口。


 オレンジジュースの事だろう。それにしても昔って、まだ幼稚園の頃じゃない?


「覚えててくれたんだ。ところでさ、陽はどうしてこんなところに?」


「あ、えーと……、僕はお散歩だよ」


「お散歩かぁー」


 こんな偶然あるんだ!神様ありがとう、感謝感謝!


 私はいつものように、雑な話をしてみる。


「私ね今日体育があってさ、それで由美ゆみがいつもみたいに……」

 

「雪って好きな人とかいたりする……かな?」

 

 ——胸がドキッとした。


 それは急に陽から発せられた言葉だった。


 え、これって……。


 一瞬、私の思考が停止した。だけど、胸の音がうるさくて、すぐ気を取り戻す。


 これ「うん」って言ったら、どうなるの?もしかしたら付き合えちゃったりして……。いやいや、妄想のしすぎ!きもいぞ、私!てゆうか、さっきから胸がうるさいんだけど!静まれ、静まれ!


「ご、ごめん!今の忘れて……」


 陽が焦ったように言いだした。


「……」


 私は何も言えなかった。急すぎるし、まだ頭の整理ができてないっていうか。


「……」


「……」


 沈黙が流れ続ける。


 なんで陽は落ち込んでるんだろう。陽は私の事好きじゃないはず。昔から陽は、お姉さんみたいな方がタイプだって言ってたし。実際私は身長が低くて、お姉さんみたいな態度をとっても、妹みたいな意識されてた。

 

 ——本当にこの恋は叶うのだろうか。

 

「陽、聞いて。私にもきっと運命の人がいると思うの。でも運命の人も完璧じゃない。頼りなくってドジな人が、私の運命の人だったりする。私は将来、その運命の人と絶対に結婚するの。だから、まだ好きな人はいないかな……」


 もちろん、この運命の人とは陽の事だ。私の運命の人なんて陽しかいない。遠回しにこれは私からの、ちょっとした告白プロポーズだった。


 って、私何言っちゃってんの!少女漫画の読みすぎか?あー、恥ずかし。


「僕にも運命の人がいたりするのかな?」


 ……私だったりして?なわけないか。

「きっといるよ!」


「……僕もまだ好きな人はいないかな」


 ですよね〜。


「約束しよ!お互いが運命の人と結ばれるように頑張ろうって」


「そうだね。お互いに頑張ろう」


 そして私は、缶にまだ残っているオレンジジュースを一気に飲み干した。


 これが私と陽の一年前にした約束だった。


 そして、私はこの時に決めた。

 私が陽の運命の人になって、——この恋を絶対叶えてみせる。

 そして——。


 

   沖村おきむら よう


 僕は今日、ゆきに告白をしようと思っていた。


 昔から雪の事が大好きで、中学校の終わりが近づいていく度に、不安で仕方なかった。この気持ちを伝えられずに、雪がどこか遠い高校にいったらどうしようって。

 拒絶されたら、雪との関係は絶対に壊れるだろう。でも、この気持ちを伝えられないままの後悔は絶対にしたくなかった。


 僕も男だ。

 

「あ、えーと……、僕はお散歩だよ」


 僕、怪しすぎるでしょ。絶対、変に思われたよ。だからって、告白するタイミングがなくて、あとをつけてきたなんて言えないし……。


「お散歩かぁー」


 あ、案外、いけるもんだね……。


「私ね今日体育があってさ、それで由美ゆみがいつもみたいに……」

 

「雪って好きな人とかいたりする……かな?」

 

 あ、あれ?僕、今なんかいった……?む、無意識に好きな人、聞いちゃったよ!ど、どうしよう。雪、固まっちゃってるし……。


「ご、ごめん!今の忘れて……」


「……」


 忘れてくれる訳ないよね。


「……」


「……」


 終わったよ。フォローの言葉もでてこないぐらいに、幻滅されちゃったし。もう無理だ。

 

 ——本当にこの恋は叶うのだろうか。

 

 ふと、雪が話しだす。


「陽、聞いて。私にもきっと運命の人がいると思うの。でも運命の人も完璧じゃない。頼りなくってドジな人が、私の運命の人だったりする。私は将来、その運命の人と絶対に結婚するの。だから、まだ好きな人はいないかな……」


 好きな人はいないのか……。失恋しちゃったなー。


「僕にも運命の人がいたりするのかな?」


 もちろん、僕の運命の人は雪だ。雪以外に考えられない。けど……、最後の足掻きで僕は聞いてみた。


「きっといるよ!」


 気づいてくれないか。


「……僕もまだ好きな人はいないかな」


 嘘だ。この関係を壊したくないから、僕は逃げたんだ。何が男だ。僕はまだ男にだってなれない。ほんとにダメダメだな、僕は。


 胸が痛かった。嘘をつくのが辛かったんだと思う。


「約束しよ!お互いが運命の人と結ばれるように頑張ろうって」


「そうだね。お互いに頑張ろう」 


 僕は泣きそうなのを堪えて、缶に残っているオレンジジュースを一気に飲み干した。


 これが僕と雪の一年前にした約束だった。そして、僕の失恋と嘘でもあった。


 でも、僕は諦めない。この時に決めたんだ。

 僕が雪の運命の人になって、——この恋を絶対叶えてみせる。

 そして——

 


 もし仮に雪(陽)に運命の人が現れたのなら、僕(私)が——運命なんかぶっ飛ばしてやる!

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 こうして私と陽は、一緒の海青かいせい高校に受験することになった。受験勉強では、私が陽に付き合ってあげた。まぁほとんど私の自己満足なんだけどね。


 そして私達は、無事に海青高校への合格を果たしたのだった。

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運命なんかぶっ飛ばせ!! れんこん @renkon114

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