第4話「幸せな帰宅」


  

   ~放課後~


 私は校門の前で、陽を待っていた。


「雪〜」


 陽が走ってくる。


「ごめん、先生からちょっと呼ばれちゃって。待った?」


「うん、待った」


 私は少しイジワルをしてみた。ここ2日ぐらい陽と話してなかったから、私のテンションが上がってしまうのは仕方ない。


「うぅ……、ごめん」


 弱った陽を見て、私はクスクスと笑ってしまう。 


「もう、気にしなくていいから。早くしないと置いてっちゃうよー」


「ま、待ってよー」

 


 校門を抜けて5分程歩いたら、周りの人は少なくなっていた。


「そういえば陽の家って、こっち方面じゃないよね」


「そうだね」


 陽は中学卒業と同時に、お父さんの仕事の都合で引越しをしたのだ。そして毎日の電車登校をしている。そこまでして、なぜ私と同じ高校へ入学してくれたのかは謎だ。


「今日は雪の家までついていくよ」


「ありがと。でもなんで私と一緒に帰ってくれるの?」


「……なんとなく」


 なにそれ。……嬉し。


 私は嬉しすぎて、足が弾んでしまう。


「陽、私と一緒のクラスになったね。嬉しかった?」


「嬉しかったよ」


「……まぁ、幼なじみだしね」


 私はその日寝れないぐらい嬉しかったよ。


「同じクラスになったんだし、私が陽のお姉ちゃんしないと」


「——身長低いのに?」


「ん?」


「あ……。ち、ちがうんだ!お、落ち着いて、雪」


「陽のバカー!」


「ご、ごめーーーーん!」


 追いかける私に、逃げる陽。お互いの顔には、少し笑みが浮かんでいた。

 大丈夫。私だって陽を笑顔にさせる事ができるんだ。

 


「あ!ここ覚えてる?」


「うん、覚えてる。昔に裕子ゆうこさんが連れてってくれたよね」


 私達が通りかかったのは、ゲームセンターだった。


 そして裕子さんとは私のママ。


「少し寄っていく?」


「うん!」

 


 ゲームセンターの中は、音がうるさくて、メダルゲームやUFOキャッチャー、音ゲームなどの機材でいっぱいだった。

 そして私達が向かったのは、UFOキャッチャー。


「このクマ可愛くない?」


「んー、確かに。とってあげるよ」


「え、とれるの?」


「UFOキャッチャーは得意な方だからね」


 陽がゲーム機に百円玉をいれる。

 アームを左右に動かして、見事に景品であるクマのぬいぐるみを掴む。そしてアームは景品を離さず、出口まで移動させた。ボトッと景品が落ちた音がする。


「え、すごい!」


「はい、これ」


「ありがと」


 私は嬉しくてクマのぬいぐるみに抱きついた。抱き心地はふわふわしてて気持ちよかった。

 


「ふんふふんふふーん」


 私は楽しくて楽しくて、クマを抱きながら足を弾ませる。


 もう少しで家に着くだろうか。そう思うと少し悲しい気持ちにもなってきた。家がもっと遠ければいいのに……。

 

「雪、手繋いでもいい?」

 

「え?」


 徐々に顔が赤くなっていくのが、自分でも分かる。


「え、えーと、雪と帰ってると昔の事思いだしちゃって……」


「いいよ」


「え、いいの?」


 私は恥ずかしくて目が合わせられないけど、こくりと頷いた。


 抱きついていたクマを右手で持ち、左手をフリーにさせる。すると、陽の左手が私の右手に触れてくる。ギュッとお互いに手を繋いで歩いた。


 陽の手は、小学生の頃と違っていた。ごつごつしてて、私の手より全然大きい。そして手から伝わってくる温かさ。その全部が好き。


 季節はまだ春なのに、ものすごく暑い。これは気温のせいではなく、体温のおかげだ。


 私は自分の手汗が気になって、手を離そうとする。だけど陽が私の右手を、力強く握りしめてきた。


「ごめん。……今は離したくない」


 胸が飛び跳ねた。だんだん鼓動が早くなっていって、おかしくなりそう。


「うん……。離さないで、絶対に」


 そして沈黙が流れつづける。でも私はそれでよかった。陽と一緒にいられる。それだけで幸せなんだ。

 


 気づいたら、もう家の玄関まで辿り着いていた。


「陽、今日はありがとね」


「うん」


「それじゃ、また明日」


「うん。また明日」


 陽が背中を向け、歩き出す。私はしばらくそれを見届けた。

 玄関のドアを閉めると、私は自分の部屋へ駆けだした。自分の部屋に入ると、すぐさまベッドへダイブする。


「好き好き好き好き好き……」


 クマのぬいぐるみを抱きしめながら、心に思った事を何度も言った。


 ふと、部屋のドアが開いた。


「雪?おかえりなさい」


「マ、ママ!?ただいま……」


「ずいぶんとご機嫌じゃない。陽くんと何かあったの?」


「エスパー!?」


「ふふっ。雪の事ならなんでもお見通しよ」


「うぅー……」


 ママにはほんと敵わないな。

 

 そして今日も寝れない一日になる雪だった。

 

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