第3話「一通のメール」

 

「げっ」


 金髪のチャラい男が私に気づいて、嫌な声をだす。

 そして私は大きな声をだしたせいで、自分が目立っている事に気づいた。


「ご、ごめんなさい……」


 私は静かに、謝罪し着席する。


 あーもう!あいつのせいで恥かいちゃったじゃない!


「確かお前は、——荻原おぎわら 瞬一しゅんいちだったな」


 先生が、名簿を見ながら言った。


「そうっす」


「おいおいまじかよ」「この進学校にもヤンキーいんの?」

 周りの男子がザワつき始める。そして女子も、違う意味でザワついた。

「え?あの人イケメンじゃない?」「確かに!かっこいいね」「私、狙っちゃおうかなー」「でもさっきの女の人と知り合いっぽくない?」


 知り合いじゃないです。全然狙っていいですよ、応援するんで。……てかあいつ結構女子から人気あるんだね。


「次から気をつけるように。お前の席はあそこだ」


「うっす」


 先生が指をさした席へ、向かう瞬一。


「……え、ここすか!?」


「そうだ。何か不満でもあるか?」


「い、いや。……ないっすけど」


 そう。瞬一の席は——私の隣だった。


「んじゃ、気を取り戻して。出席をとるぞー」


 周りのザワつきが収まり、先生が番号順に名前を読んでいく。


「なんであんたがここにいんのよ」


 私は先生にバレないよう、小さい声で瞬一に囁いた。


「ここ、俺のクラス。それよりお前こそなんで俺の隣なんだよ」


 瞬一も私に合わせて、小さい声で囁いてくる。


「ここ、私の席。私だって嫌よ!あんたの隣なんか」


「んじゃ、これから俺達は二度と口聞かねぇようにしようぜ」


「そんなの当たり前よ!」


「「ぐぬぬぬぬ…………、ふんっ!」」


 私達は睨み合って、お互いにそっぽを向いた。

 

 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 ——事件が起きたのは三時間目の数学だった。

 

 ない、ない、ない!教科書がない!


 私は次の三時間目の授業、数学の準備をしていた。

 机の引きだしを確認したり、バッグの中も探してみる。だが、やはり教科書は見当たらない。


 初日に忘れ物だなんて……、私のバカ!


「はーい。授業はじめるぞー」


 先生が教室に入ってきて、号令がかかる。


「起立!気をつけ!礼!着席!」


「んじゃあ早速、教科書の5ページを開いてくれ」


 うーー!隣の人に見せてもらうしかないか……。


 私は隣の席に視線をおくる。隣の人は授業開始直後に、腕を枕にして顔を机に伏せていた。


 ……そうだ、こいつだったか。でも私の席端っこだから、隣はこいつしかいないし……。てか、そもそもこいつ起きてんの?


 顔はあまり見えないが、多分寝ているのだろう。だけどこのままでは、先生に怒られるだけ。私は隣の瞬一に小さく声をかける。


「ねぇ、起きてんの?」


「……」


「ねぇねぇ」


「……」


「寝てるの?」


「……寝てる。てか俺達、口聞かねぇんじゃなかったのか?」


 起きてんじゃん。しかも口聞いてくれてんじゃん。


 瞬一は顔を伏せたまま、反応してくれた。


「そ、そうだけど……、教科書忘れちゃった。見せてくれない?」


「ちっ、うるせぇ奴だな」


 すると瞬一は体を起こして、自分の引き出しから数学の教科書を取り出した。そしてそれをほうり投げると、ぽふっと教科書が私の机に着地する。


「え、私は見せてくれるだけで……」


「貸してやるから起こすんじゃねーぞ」


 そう言うと、瞬一はまた机に顔を伏せた。


 意外と優しいじゃん。えーと、確か名前は荻原おぎわら 瞬一しゅんいちだったっけ。


 私は隣の人に少し近づいて、耳に小さく囁いてみた。

 

「ありがとね。—— 瞬一しゅんいち

 

「……だまれ」


 私はその返答を聞いて、クスクスと笑ってしまった。

 よく見えないけど瞬一の耳が赤くなってるのは、きっと気のせいだろう。

 


 昼休み。私と由美は屋上で、お弁当を食べていた。

 実際、屋上は人気があると思われるが、先輩達は1階と2階に教室があるため、「階段のぼるのがめんどくさい」などとあまり人気がでていない。そして私達一年の教室は、屋上の下3階なのだが「外でたくない。教室でよくね?」とゆう感じになっていた訳だ。


 そうゆう事で私達だけが、屋上を占拠している状態になっている。誰もこないだけだけど。


「雪〜。新しい高校生活、どう思う?」


「う〜ん、特に中学と変わらないかな。少し自由感が増しただけ。それより早く友達の方をつくりたいよ」


「それ分かる。あまり声かけずらいんだよね〜。あ、そういえば陽くんと話した?」


「……」


 その言葉で陽の事を思いだす。すると、ついあの人——美沙の顔も頭に過ぎってしまった。陽と美沙が仲良く話してる光景が、頭の中でフラッシュバックされる。辛い。


「話してないかな。……陽のバカ」


「ん?何かあったの?」


「なんでもない」


 私は腹が立ってきて、お弁当の唐揚げをパクっと食べた。


「あちゃー、なんか怒っちゃったよ」


「別に怒ってない」


「……そういえば陽くん、数学の授業中、雪の事チラ見してたよ」


 由美は一番後ろの席だから、つい陽が視界に入ってしまうのは仕方のない事。


「ただの勘違いじゃない?」


「はぁ。雪はもうちょっと自分に自信持った方がいいよ。可愛いんだから」


「そんな事ないよ」


 すると私の携帯から、メールの着信音が響いた。

 私はすぐさまポケットから携帯を取り出し、メールの通知を確認する。

 それは陽からの——一通のメールだった。

 

(今日、一緒に帰れるかな?)

 

「……もう、なんなのよ」


 ものすごく嬉しかった。さっきまでの嫉妬は薄らと消えていって、幸せな感情が湧いてくる。……陽のバカ。……好き。


(いいよ)


 私はその一言だけ返信し、携帯をポケットに戻した。


「ん?雪、顔がニヤついてるよ?」


「……ニヤついてなんかない!」


「ニヤついてるって」


「……。あ、今日ごめん!先に帰ってて」


「なんで?……あー、なんとなく察した。いいよ、今日だけね」


 前から由美の鋭さには、少し怖いと思っている自分がいた。でも話が進みやすいのは助かっている。


「ありがと!」


「2人とも鈍感すぎでしょ。早く付き合っちゃいなよ」


「付き合うって誰と誰が?」


「ううん、なんでもない」


 何を言っているのか、私には全く理解ができなかった。


「とにかく雪、頑張ってきてね!」


「うん!」


 私は大きくガッツポーズをして見せた。

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