第2話「高校生活の始まり」


  

「あのヤンキー、どこいったの?」


 私は、あの金髪でチャラい男を追いかけていたのだが、途中で見失ってしまい、ただ一人で校舎の周りを彷徨う事になっていた。


 入学早々に私何やってんだろ。


「雪〜!」


 少し遠いとこから、私を呼ぶ声がした。手を振って私の方に走り向かってきたのは、由美ゆみだった。


「由美!」


 ——千葉ちば 由美ゆみ。私の中学からの親友。色々あって、同じ海青高校に入学できたのは物凄く嬉しい事だった。


「由美、なんでここが分かったの?」


「はぁ、はぁ、ちょっと待って。酸素充電中」


 少し時間が経つと充電が完了したのか、呼吸を整えた由美が答える。


「あたしが校舎の近くに着いた時に、ちょうど雪を見つけたのよ。そしたら変な男と話してたから、声かけずらくなって」


「あー……。あいつね」


 チャラ男の事だろう。


「しかも急に、追いかけっこし始めるからさ。だから、あたしも雪を追いかけてきたってわけ」


 そういう事だったんだ。


「あ、そういえば今日、ごめん!私、先に学校行っちゃった」


「いや全然大丈夫だから。あたしの支度が遅かっただけ」


 私達は家がかなり近いことから、登下校はほぼいつも一緒だった。

 でも今日は気合いが入りすぎたせいか、少し早起きをしてしまった私。だから悪いのは私だ。


「ほんとにごめんね」


「そんな小さい事で謝らなくていいって」


 優しいところも由美の魅力の一つだった。


「それよりクラス発表があっちで掲示されてるって。見に行こうよ」


「うん!」


 そして、私達は校舎の入り口へ向かった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 入口の掲示板には、クラス別に色々な名前と番号が記載されていた。海青高校のクラスはA~Dまであるようだ。


 人が多い中、自分の名前を探すワクワク感がクラス発表の醍醐味でもある。


「えーと、私の名前は……」


 私は一から順に自分の名前を探してみる。


「あ、あった!」


 真澄ますみ ゆきと、記載されていたクラスはBクラスだった。


「え、どこどこ?」


「Bクラス!」


「あたしもBクラスだったよ!」


「え、嘘!やった〜!」


 私と由美はハグをし、同時に飛び跳ねる。


 実際、目立つように見えるが他の人達もこんな感じだった。中には落ち込んでいる人もいるけど。


 私達は一通り喜んだ後に、Bクラスに他の知っている人がいないか、もう一度掲示板に目を通す。


「あれ?これ、陽くんの名前じゃない?」


「え?」


「ほら、ここ見て」


 由美が指さした方向には、確かに——沖村おきむら ようと記載されていた。


「やった……」


 神様本当にありがとうございます。私もう死んでいいかもしれません。


「雪?顔がニヤついてるよ?」


「ッ!」


 私は咄嗟に顔を手で覆い隠す。


 仕方ないじゃん、好きなんだもん……。ん?ちょっと待って!陽がBクラスなら、今近くにいるわけで……。やばい!私がニヤついてたの見られちゃったかも!


 私は辺りを見渡して、陽が近くにいないか確認する。

 幸いながら、陽の姿は見当たらなかった。


「雪、どうしたの?」


「ううん、なんでもない」


 それからは、大きな体育館へ案内され、校長先生の長い話を聞いて入学式は閉式となった。


 今日はあれから陽の姿を一度も見かけなく、私は切なくなりつつも、同じクラスになれた幸福感で平常を保つ事ができた。


 

   ~翌日~

 

 今日から正式な高校生活の始まりだ。新しい教室に、新しいクラス。


 私は由美と登校して、Bクラスの教室へ入る。


 教室は、もうほとんどのクラスメイトが揃っていた。まだ、朝のホームルームには結構時間がある。新しい友達を作っている人もいれば、人見知りなのか自分の席に座っている人もいた。


 ん〜、まだ陽は来てないか……。


 私は自分の席に着いて、バッグを下ろす。


「あ、陽」


 すると、教室にゆっくり入ってきたのは陽だった。


 ただ陽を見れただけで、私はすごく安心した。同時に嬉しさも湧いてくる。

 昨日話せなかった分、陽に声をかけようと、私は席を立とうとする。

 

 ——え、あの人って……。

 

 ふと、陽の隣の席に座ったのは、昨日の陽に声をかけた女の人だった。


 陽は隣の女の人に気づいたのか、声をかけた。人見知りな陽には、珍しい事だった。


「あの、昨日の声をかけてくれた人ですか?」


「あ、そうです……」


「き、昨日のこれ……、ありがとうございました」


 陽が手渡したのは、ハンカチだった。


「いえいえ」


 ぎこちない二人に、私は嫉妬をしていた。


 もう!なんなのよ!


「……あ、名前聞いてもいいですか?」


 そんな陽の言葉で、急に小さく笑う女の人。


「ぼ、僕、変なこと言いました?」


 慌てる陽。


「言ってないですよ。人見知りそうなのに、名前を聞いてくれたのが少し嬉しくて……。私の名前は——西野にしの 美沙みさです」


「西野さん…、ちょっと失礼……ですよ。まぁ、人見知りですけど」


「ご、ごめんなさい!」


 そんな会話をしつつ、徐々に陽も慣れてきたのか、顔に笑みを浮かべていた。


「あ、僕の名前は沖村 陽です。よろしくお願いします」


「こちらこそ」


 キィィィイ!ほんとになんなの、あの二人!もういい!私、陽の事嫌いになっちゃうからね!


 私が頬を膨らませていると、担任の先生だと思われる男性が、教室に入ってきた。


「お前ら〜、自分の席に着けー」


 すると、席を立っていたクラスメイトの皆は、自分の席へ着席していく。


 あれ?私の隣の席、空いてるけど……。


「はい、初めまして。俺は、お前らBクラスの担任をする事になった——波木野はぎの 健五郎けんごろうだ。よろしく」


 波木野先生の見た目は、雑な髭に、少し寝癖のかかった髪。そして、やせ細っていた。あまり健康な食事をとっていないのだろう。今もだるそうだ。


「俺の事は波木野ちゃん、健ちゃんとか、五郎ちゃんなどと呼んでくれ」


「「「「……」」」」


「まぁ開始早々にすべっていくんだが」


 ならやるな!


 私は頭の中で、ツッコミをいれる。


「よぉし、出席をとっていくぞー」


 その瞬間、教室のドアがガラガラと開く。そして、教室に入ってきたのは、一人のクラスメイトだった。


「すいませーん、遅刻しましたー」


「あっ!」


 私は見覚えのある顔に、つい大声をだしてしまう。

 そう。教室に入ってきたのは、——昨日のチャラ男だった。


「げっ」

 

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