運命なんかぶっ飛ばせ!!

れんこん

第1話「最悪な運命の出会い」


 

 私には好きな人がいます。その人は幼なじみ。昔から頼りなくってフツメンだし、ドジだし。でもそうゆうとこも本当に大好きで……。

 

「よしっ、これでばっちり!」


 初めて着る制服。寝癖を治して、化粧も少ししちゃったり。

 改めて洗面所の鏡を見て、自惚じぼれしてみた。


 うん、意外と似合ってるかも。この制服。

 私はバッグを持って家を飛び出す。


「行ってきまーす!」


「行ってらっしゃい。入学式頑張ってね、ゆき


 後ろからママの声がする。


「うん!」


 振り返ってガッツポーズをしてみせたら、ママはニコッと笑ってくれた。

 

 今日は海青かいせい高校の入学式。新しい高校生活の始まりでもある。桜が舞い散っており、まるで新入生を歓迎しているように思えた。


 おそらく新入生の皆は、様々な気持ちを抱いているだろう。新しい学校や仲間に期待を寄せている者もいれば、逆に不安に思う者もいる。

 

「わぁー!」


 私は海青高校の校舎を見て、高校生になったんだなと実感する。


 それにしてもこの校舎、桜とほんとに似合っていて、写真を撮りたくなってきた。


 校舎に近づく度に、周りの新入生は大人数になってきて、全員が私の同級生だと思うと、少し嬉しい気持ちが隠せない。

 大人数の中、私は一人の新入生を見つけた。


「陽~!」


 幼なじみの——沖村おきむら よう。そう、私の好きな人だ。

 校舎はすぐそこなのに、何か不安なのか、道に迷ったのか、今もオドオドしている。……可愛すぎでしょ。


 私は陽に手を大きく振って、名前を呼んでみた。すると陽は肩をビクッとさせて、私に気づくと安心したような顔。

 陽が私の方に近づいてくる。


「いてっ!」


 だが、上り坂の足場が悪かったのか、陽は転んでしまった。それも顔から。


 わー、痛そー。高校生になっても陽は陽だなー。

 そんな事を思いつつ、私はクスクスと笑う。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

 ——胸がズキンと鳴いた。


 え、急すぎて分かんない……。なにこれ。


 陽を心配している、あの天使のような女の人は誰だろう。髪型はショートボブで、スタイルが良くて、顔もものすごく可愛い……。同じ制服だ。


「あ、はい。ごめんなさい、ありがとうございます」


 泣き目になった陽に、ハンカチを渡してくれた天使のような人。陽もその人にニコッと笑ってみせた。


「ここ上り坂だから危ないですよね」


「い、いえいえ、これは僕のミスで」


「美沙~、何してんの?早く行こっ」


「ちょっと待ってよ~!ごめんなさい、私もう行かないとです」


 名前は美沙みさとゆうらしい。友達から呼ばれて、立ち去ろうとする美沙。


「あ、あの、ハンカチは?」


「いつでも返しに来てくれるの待ってます!」


 それだけ告げて、美沙は去っていった。

 私は、その光景を見て、ただ立ち尽くす事しかできなかった。

 嫌だ、陽を取られたくない……。

 

 ——それはまるで好きな人に運命の人が現れたかのようだった。

 

 考えるだけで胸が痛くて、はち切れそうだ。

 そっか、恋を邪魔する最大の敵は——。


 

「わっ!」


 呆然と立ち尽くす私の背中に、急に突き飛ばされたような感覚がした。

 私は体制を崩しそうになるが、なんとか整えてみせる。


「なにすんのよっ!」


 後ろを振り向くと、そこには金髪で耳にピアスをした、いかにもチャラい男が立っていた。手持ちバッグをまるでリュックサックのように背中にからって、両手をポケットに突っ込んでいる。


 わわわ、ヤンキーだぁ……。


「わりぃ、ちっちゃくて見えなかった」


「はぁぁあ?」


 こいつ今なんて言った?確かに私は他の人より身長は低い方だけど、さすがに見えるぐらいはあるでしょ!


 チャラ男は、それだけ言い残すとすぐさま去っていく。


「ちょっと待てぇぇ!」


 私は自分のバッグをチャラ男に投げた。ぽふっと、それはチャラ男の頭に命中する。


 さっすが私。


「いてっ、てめ何すんだよ」


「あんた、私が小さいってどうゆうことよ!」


「どうゆう事って、そのまんまの事だろ」


 キィィィィイ!


 私は怒りが爆発して、そこからはあまり思考さえできなくなっていた。


「お、おい。な、何する気だ?あ、足のストレッチなんかして……。さ、さっきのは冗談だ。な?」


 ひたいに嫌な汗を垂らしたチャラ男。


 私は一通り足のストレッチを済ませると、


「おりゃぁぁぁあ!」


「う、うわぁぁぁあ!」


 全力で逃げるチャラ男を、こっちも全力で追いかけたのだった。

 

 

 僕には好きな人がいます。その人は幼なじみ。昔から他の人より身長が低くって、怒りっぽいし。でもそうゆうとこも本当に大好きで……。

 

「いててて……」


 僕はさっき転んで擦りむいたほおを、ハンカチで拭いた。


 さっきの人、優しかったな。そういえば、雪はどこいったんだ?


 さっき、僕の名前をいつものように元気な声で呼んでくれた雪。それだけで、僕の新しい高校生活への不安が、一気に吹き飛んだ。僕ってほんとに雪の事……好きだなぁ。


 辺りを見渡すと、すぐに雪は見つかった。


「おーい!ゆ……」

 

 だが、そこには雪と何かを話している男の姿も見つけてしまったのだ。

 

 ——胸がズキンと鳴いた。


 急だ、急すぎる。なんだよこれ。


 誰だろう。あの金髪で凄くイケメンな人は。同じ制服だ。


 すると、金髪の人が咄嗟に走りだす。そして雪も怒った顔をして、追いかけていった。


 僕は、その光景を見て、ただ立ち尽くす事しかできなかった。


 嫌だ、雪を取られたくない……。

 

 ——それはまるで好きな人に運命の人が現れたかのようだった。

 

 考えるだけで胸が痛くて、はち切れそうだ。

 そうか。恋を邪魔する最大の敵って——

 

 

 嫉妬しっとだったんだ。

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