第19話 脳をもたない
無い島では、僕の身体は完全に消えた。
自分がいないのであれば、自分を意識する自分は一体どこにいるのか。
数日前に出会った人のようなモノは言っていた。
「地球で生き残るためには、脳をもたないほうがいいと決められた。」
クラゲや菌やウィルス、地球上で長く生存競争に勝利している、共生がうまくいっている生物には脳が無いそうだ。
人間は、地球と共生するため、地球で生きる条件として身体と脳を捨てる判断をしたようだ。
人間社会は脳が異常に発達し、地球を壊滅寸前まで追い込んだ。
機能としては欠陥が多く、エネルギー消費量も相当なものであった。
脳を稼働させ続けるために、森林を伐採し農耕社会を形成し、家畜を大量に飼育し二酸化炭素をばらまき、核をエネルギーに仲間を大量に殺戮し、地球を破壊し捨て、別の星に移住しようとした。
創造性という暴走スイッチをONにすることで、敵味方関係なく、興味関心、知欲を満たそうと肥大化する脳は、地球にとって失敗作と言える。
無い島をつくった人物がいるそうだ。
いるというか、いないのだが。
現在、地球には身体と脳をもった人間は存在しないらしい。
地球上にあるのは、小さなスマホサイズのコンピューター一つとのこと。
その中に全ての人間の情報が取り込まれ、人間たちは人間のようなモノとして、コンピュータの世界の中で生きているようだ。
僕はそのことには気付かなかった。
身体が消えたのは、適応期間だったからのようだ。
意識だけが残り、ギガを食う身体は適応期間が過ぎると圧縮され、いずれ消えていく仕組みだそうだ。
では、意識だけ残った自分は、この先どうしたらよいのか。
ぼやきながらグネグネした空間に、消えていった人たちのようになっている自分は何をしていけばよいのか。
個の欲を満たすために生きてきた人生とは、別の生き方をしないといけない。
数億年かけてつくりあげた人間の思考システムを放棄したのだから。
とりあえず、無い島のグネグネした空間の一部になったこと、僕のように期間限定で身体をもった人間のようなモノがウロウロしているところを見つめている。
自分のために人のために環境のために、そして地球のために何かしてあげたいと考える意味が無くなった。
目的意識は元々薄いが、全く持てないという状況で、意識だけがある状態が、新しい僕の生き方となる。
僕が僕である意味も無くなったわけで、人間は凄まじい次元に突入してしまったと思いながらも、人間と定義するモノも失っているので、一体何をどう考えればいいのか混乱している。
グネグネした空間を見ていると気分が悪くなっていたが、自分は今グネグネした空間の一部となっているようなので、何とも言えないが・・・。
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